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オダギリジョー氏登壇!PFF×早稲田大学講義「マスターズ・オブ・シネマ」オフィシャルレポート

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オダギリジョー氏

7月2日(土)に行われた、PFFと早稲田大学の講義「マスターズ・オブ・シネマ」とのコラボレーション企画に、俳優のみならず映画監督としても活躍するオダギリジョー氏が登壇されました。

9月10日~25日に開催する「第44回ぴあフィルムフェスティバル2022」では青山真治監督特集が予定されていますが、くしくも青山監督がPFFアワードの最終審査員を務めていた2005年に、ともに審査員を務めていたのがオダギリ氏。荒木ディレクターが「映画への情熱がすごかった」と評するほどに、映画に対して真摯な姿勢で向き合い、今なお映画界のトップランナーとして、国内外問わず、精力的に活動し続けています。

およそ2時間近くにわたって行われた今回の講義は、映画への思いを強く表明するオダギリ氏のキャリアはもちろんのこと、俳優としての演技論、そして俳優が監督をするということについて、彼ならではの独自の視点から大いに語っていただく機会となりました。

本ページでは、講義の中で、学生の皆さんへ真摯に語ってくださったオダギリ氏の言葉の中から、特に印象的だったシーンをお届けします。

ゲスト:オダギリジョー氏(以下、オダギリ)
司会進行:荒木啓子(PFFディレクター)、土田 環(早稲田大学)

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早稲田大学 土田環氏

土田:かつて、映画を勉強するためにアメリカに留学した経験をもつオダギリさん。監督として初長編作品となる『ある船頭の話』の撮影監督はクリストファー・ドイルでしたね。

オダギリ:僕らの世代だと、やはり(ドイル氏とのタッグで有名な)ウォン・カーウァイ監督。すごくアーティスティックで、ファッション性がある監督だったので、影響は受けています。自分が初めて監督するという大切なタイミングでしたし、もともとクリスが監督した映画(映画『宵闇真珠』)に呼ばれた時に「お前は映画をつくらないと駄目だ。お前がやる時はカメラをやるから」と言ってくれたということもあって。お願いすることにしました。

今日はこうやって若い方たちに映画の話をする機会をいただくことになったわけですが、最初に言っておきたいのが、自分がやりたい映画はアートなのか、ビジネスなのかを決めておいた方がいい、ということ。僕は映画はアートであってほしいと思うタイプですし、僕の出演作を観ていただくと、アート的な作品が多いということが分かると思うんです。それは役者としても、監督としてもそうでしたし、これからもそうだと思います。

だから自分が監督をやる時は、ビジネスとしては絶対に成立しないような、日本の映画界で誰も撮れない映画にしたいと思ったんです。それが『ある船頭の話』なんですけど、エンタメ要素はゼロです。出演者もほとんど3人で、話が展開するのも小屋の中か、船の上か、船に乗る道中の3つしかない。ほとんど変化のない状況が続くし、ストーリー的なうねりもグッと抑えた、何も起こらない映画にしようと思ったんです。

なので、本来ならそういった作品にお金は集まらないんですが、今回はどうにか、俳優としての信頼を担保にお金を集めてつくることができました。もちろん、ここにいる皆さんが映画監督になるとして、そんな無茶なことをする必要はないと思うんです。ただ僕は映画に育ててもらったという意識があったし、俳優として映画にこだわって仕事をしてきたという意識が大きかったので、日本映画に頑張ってほしいなという意識でつくることにしたんです。むしろ(NHKで放送されたドラマ)「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」の方が超エンタメを目指してつくりましたね。

荒木:セルフプロデュースの感覚を常に持っているということですよね。客観的に自分を見ている自分がいるというか。

オダギリ:ひとりっ子だったということもあって。そういう観点は身についているかもしれませんね。

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土田:「オリバー~」には、永瀬正敏さんが溝口健一という役で出演されていますが、そのインタビュー中に永瀬さんが、役者にとっては脚本を読んでいて「...」と心の内面が書かれている時が正直、一番困るんだと。自分で考えなきゃいけないから。でも監督としてのオダギリさんは、それをすごく丁寧に伝えてくれるんです、とおっしゃっていて。やはり人それぞれに、伝え方を変えるんですか?

オダギリ:そうですね。僕が俳優なので、俳優の考えていることは分かるというか。何をしようとしているのかなとか、今ここに苦しんでるのかなとか。そこに対するフォローができるというのは多分、俳優が監督をやる強みだと思う。やはり俳優が気持ちよく芝居をしてくれるのが一番いいから。いかに現場で楽しく、いいパフォーマンスを出せるようにするか、という方向に持っていきたいので。だからその人がどういう演出を求めてるか、どういう言い方をした方がその人に伝わるのかということを、それぞれに選んで。言い方を変えています。

例えば若くて経験が浅い子だったら、ここはこういう状況だから、ここはこういう感情でいてほしい、といった具合に的確に言います。逆に麻生(久美子)さんなんかは本当にすごく能力の高い人だし、何でも返せるから、けっこう難しい注文まで出しちゃいますね。「時効警察」からのあうんの呼吸というのもありますし、こういう笑いを目指しています、というところも伝わりやすいので。逆に説明を嫌う人もいるんですよ。僕もそのタイプなんで分かるんですが、そういう相手にはあまり多くは説明しないようにします。

荒木:先程、「演技には結局人間としての魅力が全て現れるので、たくさんの経験を積んで魅力を積んでいくのが大切」というお話をされていましたが、そこが一番難しいと感じる人も多いのではないでしょうか?一体どうすればいいんだと。

オダギリ:それはそんなに難しくないと思います。自分がどういう人間かを知るということだけなんですよ。面白い人間になろうとすることではなく、自分がどういう環境で育って。どういう人間であるのかを深掘りするだけで十分面白くなるから。ここにいる人たちそれぞれ、育った環境もまったく違うじゃないですか。それぞれ受け取ってきたものも違うし。それがそれぞれの強みなんです。

あの人がああ言っていたから、こう感じなきゃ駄目というのが一番良くないと思うんです。自分のオリジナリティーを育てるということは、自分の深いところをどこまで知ることができるのか。それだけだと思います。

土田:荒木さんはセルフプロデュースだとおっしゃっていましたけど、監督と俳優とどちらもやるというのは、自分が俳優として立つところを、もうひとりの自分が見ているというイメージでしょうか?

オダギリ:『アジアの天使』を撮影している時に毎晩、撮影が終わったら石井裕也監督と飲んでたんですが、その時に「オダギリさんは『ある船頭の話』の時に監督に専念していたけど、本当は出た方がいいのは分かります?」みたいに言われて。どういうことですかと聞いたら、「世界中見ても、主役と監督をやれる人って限られてるんですよ。それをオダギリさんはやれるんだから絶対にやらなきゃ駄目なんですよ」と言われて。なんか僕も、確かにそうかもと。やれる時にやってみようという気持ちになったんで、「オリバー~」は自分でやってみようと思ったんです。

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オダギリ:ところで、先ほどのアートかビジネスかという話を補足させてください。あれはもちろんエンタメ作品を否定しているわけではなく。むしろコロナ禍で世の中が沈んでいる中で、エンタメが勇気を与えてくれるとか、そういうものがないと駄目だという役割は十分に理解した上で、あくまで自分が関わる作品はアートの方に振っていたいなと思っているということです。ただ、どっちも好きでいいんですけど、作品をつくる上では、その長所を活かして伸ばす方がいい。これは映画に関わる人だからこそ、ハッキリさせた方がいいことだと思います。どっちつかずで作品をつくるのが一番良くないと思いますから。

荒木:日本の映画の状況が貧しいからこそ、そこで選択をしないといけないということもありますよね。例えばアメリカの大きな映画をアート系の監督が手がけて、ヒットさせるということはあるじゃないですか。私はそこが大きな問題じゃないかなと感じています。

オダギリ:これはもうどうしようもないですよね。でも、だからこそ僕は戦っていたいなと思いますし、時代がどうとか、世の中がこうだからという方向に流されたくないですよね。自分が何を信じるか、何をつくりたいかということは曲げたくない。それは時代の問題じゃないとどこかで思っていますね。

荒木:どこまでいっても、自分は自分の信じる道を歩む。人間の基本じゃないかと思っています。その時に、それを受け入れる土壌が広がれば広がるほど豊かな世界といえますよね。その土壌を広げていくことが、映画祭の大事な役割なのかなと最近更に思うんですよ。応募作品を見ても、クリエーターでいようという人の層は減ってないと思ってるんです。

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PFFディレクター 荒木啓子

オダギリ:僕はいつも、ものをつくる時は何か新しい挑戦ができないかなということをベースにしていますね。『エルネスト』は全編スペイン語ということが、ものすごくハードルの高い挑戦だったし、そんな作品は多分一生ないだろうなと思ったから、死ぬ気になって頑張れた。それから『ある船頭の話』は、日本映画界が手をつけられない作品を作ろうという挑戦でしたし。「オリバー~」も、NHKという日本を代表する放送局でギリギリのところを攻めたいというところから脚本を作ったりもしたので。皆さんにもそういう気持ちは持ってほしいなと思いますね。

土田:オダギリさんから、学生に伝えておきたいことを一言お願いします。

オダギリ:皆さん本当に頑張ってくださいね。20歳ぐらいって一番楽しい時代じゃないすか。今、振り返るとそのくらいの時が一番良かったな。夢にあふれてる頃というか。友だちとああでもない、こうでもないと夢を語り合っている時間が一番楽しかったなと。意外と俳優になってからは、バタバタバタと仕事をしていて。気づいたらもう20代が終わっていて。そういうせっかくの若い可能性にあふれたこの時期を、がむしゃらに生きてもらいたいなと。ダラダラするくらいなら映画の1本でも観て。中には1本くらいいい映画もあるでしょうから。皆さんの将来に期待しています。いずれこの中から一緒に仕事ができる人が出てきたらうれしいなと思いますし、僕も頑張ります。今日はありがとうございました。


※本テキストは、学生との質疑応答を交えた講義内容の一部を書き起こしたものです。

<過去のオフィシャルレポート>
■石井裕也監督&池松壮亮氏登壇!「マスターズ・オブ・シネマ」オフィシャルレポート(2017年)
■鈴木卓爾監督&矢口史靖監督登壇!「マスターズ・オブ・シネマ」オフィシャルレポート(2019年)


◎第44回ぴあフィルムフェスティバル2022
<東京>
日程:2022年9月10日(土)~25日(日) ※月曜休館
会場:国立映画アーカイブ(東京都中央区京橋3-7-6)

<京都>
日程:2022年11月19日(土)~27日(日) ※月曜休館
会場:京都文化博物館(京都市中京区三条高倉)

【公式サイト】