『GIRL』 デビュー作の衝撃

『GIRL』の公開が、いくつかの理由で待ち遠しかった。
待ち遠しさ、そこには、『リリーのすべて』(2015年)が関係する。本来の肉体を渇望する切実さを体感させてくれ、映画の力を痛感したあの傑作。リリーの時代からほぼ百年を経る現在、少しでも生きやすい世界へと、我々はすすんでいるか?を知りたかった。また、バレエダンサーを目指すということが、トウシューズを履かない踊りから履く踊りにかわること、そして、この作品が満を持してつくりあげた新人監督のデビュー長編作品だということ。それらが『GIRL』への期待を高めていく。
そして、その期待を上回る傑作!!
『GIRL』は、今回のPFFで9/13に上映する『変態村』(2004年)同様、ベルギーからの強力なデビュー作である。改めて、ベルギーの新人、注目していかねば、と、ひそかに心にメモした。


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『変態村』

デビュー長編。それは人生に一度だけのチャンス。
長編デビュー作品を対象にした賞を設け、新人の発見を競う映画祭は多い。プロデューサーもセールスカンパニーも新人の登場を待っている。
PFFは、これからの映画の才能を紹介していく映画祭として、その先達を定期的に「巨匠たちのファーストステップ」と呼ぶプログラムシリーズで紹介してきた。
かつては、一般に観ることの難しい<学生時代の短編>を中心にプログラミングしてきたファーストステップだが、今年は、映画史を彩る衝撃の長編デビュー作品を特集する。
古くは1942年のルキーノ・ヴィスコンティから、2013年のライアン・クーグラーまで8監督による、映画の黄金期から現在までの8作品。
このプログラムを追いかけるだけでも、ちょっとした映画史の体験にもなる。

実は、この特集は、もうひとつの特集「ブラック&ブラック」とも重ねてある。


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『DOPE/ドープ!!』

*ブラック&ブラック特集の詳細は、この宇野維正さんの紹介を是非ご覧ください!
【宇野維正ーブラック&ブラック~映画と音楽~】


「巨匠たちのファーストステップ」では、21世紀の作家としてバリー・ジェンキンスとライアン・クーグラーを置いた。『ムーンライト』と『ビールストリートの恋人たち』のバリー・ジェンキンスのデビュー長編『メランコリーの妙薬』は日本未公開。今回のPFF上映が初となるこの作品は、レイ・ブラッドベリの同名短編小説にインスパイアされたというだけでも、期待が高まる。ライアン・クーグラーは『クリード チャンプを継ぐ男』『ブラック・パンサー』の監督として躍進。そのデビュー長編『フルートベール駅で』は、今、増々ひとごとではない切実さが迫る。そして、マイルス・デイヴィスの音楽があまりにも有名なルイ・マル監督の『死刑台のエレベーター』とあわせ、「巨匠たちのファーストステップ」プログラムは、実は3作品を「ブラック&ブラック~映画と音楽~」特集とかぶる、というそういうプログラムになっている。

*「ブラック&ブラック~映画と音楽~」プログラムでは、PFF史上初、上映後にDJタイムを設けた。DJ YANATAKE氏とピーター・バラカンさんによる、上映後の音楽紹介もお楽しみに!

ところで『GIRL』は、少女になりたい少年の物語だった。
いま、高崎を舞台にした、飯塚花笑監督(PFFアワード2011年『僕らの未来』審査員特別賞受賞)の長編デビュー作品『フタリノセカイ』が仕上げに入っていると聞いた。
女性の体に生まれた男性と、その恋人との愛についての映画。
この映画で、個人と社会はどう描かれていくのか、完成が待たれる一本だ。


やっとブログを書く時間が出来ました。また明日!