【海外映画祭レポート】『チューリップちゃん』渡辺咲樹監督/ロッテルダム国際映画祭体験記

映画祭ニュース

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自主映画コンペティション「PFFアワード2025」は、3月23日(日)まで応募受付中。

PFFは、1980年代から海外映画祭との交流を続け、PFFアワード入選作やPFFプロデュース(旧称:PFFスカラシップ)作品を中心に、日本の新しい才能を世界に紹介し続けています。
監督たちは、海外映画祭に参加することにより、世界中の映画人や観客との交流が生まれ、日本国内だけでは感じることのできない豊かな体験をしています。


今回は、今年1月にオランダで行われた「第54回ロッテルダム国際映画祭」の短編&中編部門に招待された、PFFアワード2024入選『チューリップちゃん』の渡辺咲樹監督に、海外映画祭を初体験した模様をレポートしてもらいました。


カンヌ、ベルリン、ベネチアに並ぶ重要な映画祭として、先進的な映画を発掘し続けるロッテルダム国際映画祭。
現地での出会いや、地域に根差した映画祭の盛り上がり、インディペンデント映画への手厚い支援体制など、渡辺監督が目の当たりにした、貴重な体験の数々をぜひご覧ください。


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ロッテルダムが待ってるダム!
(文・渡辺咲樹)

2025年2月、私の卒業制作『チューリップちゃん』がオランダのロッテルダム国際映画祭で上映されました。
知らせを受けたときは、あまりに大きな話で、なんだか自分のこととは思えませんでした。「大学を卒業したい!」という極めて個人的な動機で作ったこの作品が、まさか海を越えるなんて!私は家族(父、母、妹、伯母)と5人でオランダに向かいました。


出発
そもそも海外自体、まだ物心がつく前に家族で行ったきりだったので、あらゆることが目に新しく、面白く感じました。飛行機が本当に怖かった。いきなり機内食が配られたので、びっくりして「いりません」と言って返してしまいました。非常にもったいないことをしました。これはこの旅で唯一悲しかった出来事です。(だってあんな真っ暗な時間にご飯を食べるなんて思わなかったんだもん)

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空港降りたら早速チューリップのオブジェがありました


ロッテルダムの街
計16時間ほどのフライトを経て、やっとロッテルダムに着きました。ロッテルダム駅の改札を抜けると、ロッテルダム国際映画祭の公式ロゴであるホワイトタイガーのオブジェや旗が出迎えてくれました。ロッテルダムは首都アムステルダムに次いで二番目に大きい都市で、駅もかなり大きく立派です。そんなでっかい街の、何よりも目立つところに映画祭のロゴが並んでいる。これだけで映画祭が相当盛り上がっていることが伺えました。

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街のいたるところにタイガーがいました


オープニングナイト
初日はまず、「オープニングナイト」という映画祭開幕イベントに出席しました。
まずフェスティバル・ディレクターのVanja Kaludjercicさんの熱いスピーチがあり、その後今年のオープニングフィルム『Fabula』が上映されました。

この映画…主人公の髭のおじさんに奇ッ怪なことが次々起こり(異国の王子様になったり、裸で宇宙空間を高速移動したり…)、オランダ語はもとより、英語字幕も追いきれない私には、何が何だかわかりませんでした。周りの人がどんどん殺されて血の海なのに、なぜか会場は大爆笑。なんだったんだろう。オランダ語を喋れるようになったらもう一回見たいです。(あとで調べたところ、髭のおじさんは一人5役を演じていたらしい。そりゃわかんないや)

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Vanja Kaludjercicさん

その後、パーティが始まりました。私は「ここでチューリップちゃんポストカードを配りまくるぞ〜」なんて息巻いていたのですが、周りを見てもそんなことをしている人は誰もいません。とにかく人が沢山、池袋くらい人が密集していました。特製クラフトビールやチョコレートが配られ、DJがイケイケの音楽を流し、みんなが踊っています。まさに「オープニングナイト」って感じ!

英語わかんないし、どうも深夜まで続くらしいし、もう帰ろうかなと思ったその時!今回チューリップちゃんを推薦してくれたプログラマーのKoenさんにお会いできました。あの混沌のパーティ会場で出会えるなんて、本当に奇跡みたいでした。
Koenさんは「僕の姉妹も観にくるよ!」と言ってくれて、周りにいたお友達に私のことを紹介してくれました。みんな気さくに話してくれて、Instagramのアカウントを交換したり、記念写真を撮ったりしました。記念写真を撮っていたら、陽気な警備員の人が近づいて、なぜか一緒に写真を撮りました。

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Koenさんとのツーショット
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Koenさんのお友だちと、警備員さん(左端)


映画祭散策
上映以外の時間はロッテルダムを散策して、各会場にポストカードを置いて上映の宣伝をしました。街にある16もの映画館が会場になっていて、同時多発で色々なイベントや上映が行われています。映画以外にも写真の展示など、色々なジャンルの文化を発信をしていることがわかりました。

日本人スタッフのマキさん曰く、ロッテルダムは「世界最大の規模」の映画祭とのこと。さらに、「観客の8割が一般市民」だそうです。確かに、会場には子連れのファミリーなど、あまり映画には関係なさそうな人々の姿が多く見られました。
個人的に、これはすごいことだと思います。日本の映画祭では、映画関係者や知人ばかりが客席にいることが多く、一般のお客さんが少なくなりがちです。この映画祭が積み重ねてきた歴史と信頼を感じました。

ある映画館ですれ違った2歳くらいの子が、『チューリップちゃん』のポストカードを3枚も持ってニコニコにしているのを見かけた時は、結構感動しました。

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ポストカードを置いたところを次の日見てみたら、数十枚減っていて驚きました


手厚いサポート
ロッテルダムで驚いたことの一つは、若手監督へのサポートの充実です。
街中で色々なイベントが開催される裏で、関係者専用のブースでは監督やプロデューサーのためのワークショップや説明会が、こちらもかなりの数開催されていました。

私が参加したのは「Pro Hub」という、各国際映画祭のプログラマーに直接質問ができるミーティングです。

「作品募集の期間内では、早めに送るのと、ギリギリに送るのとどちらが有利か」
「惜しくも最終選考で落ちてしまった場合、監督にはそのことを伝えているか」

など、普段聞けないことにも丁寧に答えてくれるプログラマーの皆さん。参加者とディスカッションになることもありました。

「どうやったら通るか教えてくれよ!」と熱く質問をぶつける参加者(と言っても、ロッテルダムには参加できている訳ですが)と、「落とすのは心苦しいからなるべく丁寧なメールを送るようにしてる」と言うプログラマーのやり取りは、見ていてちょっと面白かったです。

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Pro Habにもたくさんの人が集まっていました

また、エキスパートメンターと呼ばれる講師の方と、一対一で面談ができるブースもありました。

上映前の空き時間に行って、「他の海外の映画祭に出品するにはどうしたらいいですか?」と訊いてみました。対応してくれたMariaさんはとても明るくパッションのある方で、「アニメーションの短編なら、【上映を見に来てください】ってこの人やこの人に連絡するといいよ」と連絡先を教えてくれました。でもその時、上映は数時間後に迫っていたので「もう上映が始まっちゃうんですが…」と伝えると、「それでも今送って!」とのこと。

それで私は、慌ててものすごい数(100以上)のメールを送りました。なんとそれを見て上映に来てくれた人もいて、更に「行けないけど作品のリンクを送ってほしい」と返信をくれた人はもっと沢山いました。教えてもらえてよかった!

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エキスパートメンターの方が一対一で面談をしてくれる
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私の対応もしてくれたMariaさん


ついに上映!
そして2/1の夕方、KINOと言う映画館でチューリップちゃんを含むプログラムの上映がありました。

「Family」とタイトルのついたこのプログラムは、『Those Who Move』というブラジルの映画、『B and S』というインドの映画、そして『チューリップちゃん』の3作品同時上映。全員女性の監督でした。

会場はほぼ満員!海外から来たインディペンデント映画の上映にこんなに人が来るのか、と驚きました。Q&Aセッションでは、通訳の方についていただきながらトークをしました。

モデレーターのMiquelさんから「あなたはとても若いのに、なぜチューリップちゃんのようなキャラクターを考えたのか」などの質問を訊かれました。Miquelさんの質問から、映画の内容がきちんと伝わったことがわかって安心しました。
更にMiquelさんは「次作品を作ったら、直接僕に連絡をくれてもいいよ。またロッテルダムで上映をしてほしい」とも言ってくれました。実際『B and S』のLipika監督は2回目のロッテルダムだったそう。とても良い出会いでした。

本当は観客の方とも沢山お話ししたかったのですが、タイミングが難しくて叶いませんでした。ともあれ、上映後には大きな拍手をもらえたので、とても嬉しかったです。

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Q&Aセッションの様子
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モデレーターのMiquelさんと


さいごに
あっという間に3泊4日のオランダ滞在は終了し、日本に帰国しました。
ロッテルダム映画祭は、連日のパーティやイベントなどの非日常感と、街の人たちが休日にふらっと訪れると言う日常感が同居する、とても素敵な映画祭でした。

全体像を把握することも難しいほど大きい映画祭だったので、周りきれなかった箇所があったのは残念でしたが、一部分を体験できただけでとても満足です。
ポストカードを置かせてくださいと言ったらみんな二つ返事でOKしてくれたり、私の下手な英語にも親切に対応してくれたり、日本には無いフレンドリーさや優しさを知れたのも良い体験になりました。

何より、自分の作ったものが言語と文化の壁を超えて海外に渡ったことは本当に喜ばしい、貴重な体験です。ロッテルダム映画祭の名に恥じないように、これからも精進したいと思います。
いつかまた、ロッテルダムに行けたらいいな!ロッテルダムが待ってるダム!

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タイガーマークの旗