深田晃司監督と若手監督が語る「わたしたちのパゾリーニ体験」

映画祭ニュース

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深田晃司監督、南香好監督はオンラインで参加

今年の特集のタイトルは、「ようこそ、はじめてのパゾリーニ体験へ」。若手クリエイターはもちろんのこと、もっぱら"観る"が中心の映画ファンも含めて、パゾリーニを知らない若い映画ファンにもパゾリーニを体験してもらいたい。

そこでパゾリーニ作品の大ファンである深田晃司監督と、今年のPFFアワード入選監督である南香好監督、金子優太監督の2名の若手監督、そしてPFFの荒木啓子ディレクターも加わり、座談会を実施しました。
(司会進行・構成:壬生智裕)



3人の「パゾリーニ初体験」は?

― 皆さんのパゾリーニ初体験を教えてください。

深田: それがいつだったか見事に覚えてなくて(笑)。多分、高校の時にケーブルテレビか何かで観ていたと思うんですけど、映画監督デビュー作の『アッカトーネ』を観てあまりの面白さにビックリしたことはよく覚えています。

確か男たちが土手の斜面を駆け下りてくるショットがあったんですが、それが本当に躍動感があって。それを観てるだけでワクワクして。パゾリーニは面白いなと思ったんですが、続けて観た他の作品がもう、ことごとく全部面白かったんですね。

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『アッカトーネ』

― そこからパゾリーニにハマったんですね。

深田: 今でも覚えていますが、パゾリーニをまとめて観たのは19歳のとき。今の場所に引っ越す前のユーロスペースでした。そこでパゾリーニ特集をやっていて。

毎日通っていたんですが、そこで映画美学校のチラシを見かけて。自分も映画を作る側にまわれるのかということにもビックリして、映画美学校に通うことになりました。そこに行かなければ、映画を学ぶこともなかったかもしれない。そういう意味でもパゾリーニに感謝していますね(笑)。


― お気に入りの作品は?

深田: 中でも特にシビれたのは『アラビアンナイト』でした。これは自分の中でも冒険活劇の金字塔だと思っているんですけど、とにかく観ていて楽しい。裸がたくさん出てくるんですけど、ここまであけっぴろげだと、もはや健康的な感じさえしてくるんだなと思いましたね。

南: わたしは多分、中学生ぐらいのときだったと思うんですけど。最初に『テオレマ』のDVDを借りて観たのが最初でした。とにかくすごい衝撃で、観た瞬間に「これだ!」「見つけてしまった!」といった感じがしましたね。だから『テオレマ』=パゾリーニというのが私の中でのイメージで。他の作品も上映される機会があれば観てはいるんですけど、とにかく『テオレマ』がものすごく強烈だった。それだけで自分の中の特別な監督になってしまったんです。

深田: 中学生がどうやって『テオレマ』と出会ったんですか?

南: そこらへんはちょっと記憶があいまいなんですが、たしか友だちに薦められてDVDを借りたんだと思います。

深田: すごい友だちですね。『テオレマ』を薦めるなんて。



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『テオレマ』(ユーロスペースでは、4Kスキャン版を上映)
(c) 1985 - Mondo TV S.p.A.


パゾリーニはワクワクするし、面白い

荒木:『テオレマ』といえば、私のパゾリーニ初体験で、それも、地上波テレビだった記憶どうしてもあるんですよ。子供のころ。まったく意味が分からなかったけど気になって。それ以来、一体あれは何だったんだろうと調べたりして、大人になって再会した!みたいな。でも「分からないって」大事なことですよね。

深田: 『テオレマ』をテレビでやっていたんですか?

荒木: そう、映画は映画館かテレビでしかみることしかできない時代にいくつかあった「○○ロードショー」番組という記憶が。もちろん吹き替えだったのでしょう。「何も知らずにお茶の間のテレビで映画と出会う」という、映画との偶然の遭遇という体験は、一種の奇跡かな、とおもいます。

深田: 実は『テオレマ』に関して言うと、当時観た時の印象はちょっとピンと来なかったんです。というのも、自分の中でパゾリーニというのは、ユーモアも含めて楽しい監督だというのがあったので。『テオレマ』は少し堅いなというか、図式的に感じてしまったんです。

と言いながらも、自分も『淵に立つ』を撮った時は、けっこう『テオレマ』に言及されることが多くて。わざわざ否定するのもあれなんで。観ていますとは言っていたんですけど(笑)。ただ今年、リバイバル上映があったので、もう一度見返してみたんですが、あらためて観ると面白かったですね。

金子: 僕は『ソドムの市』ですね。パゾリーニを知る前から『ソドムの市』の名前はいろいろなところで聞いていたんです。僕は割と過激な作品も好きなので、いつか観たいなと思っていて。18歳になったらすぐにDVDを借りてきて観ました。でも過激だ、残酷だと言われているわりには、撮り方が軽めだなと。むしろちょっと笑えてくるところもある。これは他の作品も観ないとパゾリーニのことは分からないなと思って、作品を追うようになりました。

それからパゾリーニという人の背景とか、作風の変異を分かった上で『ソドムの市』を観ると、この映画の文脈が分かってきて。そこからは取り憑かれたようにハマっていきました。今はまだかさぶたができる前段階という感じで、ジワジワ、パゾリーニが染み込んでいる最中です。


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『ソドムの市』

深田: それこそこれから毒がどんどん染み渡っていくような(笑)。

荒木: パゾリーニは毒だけじゃないよ。ロマンチックなところもありますよー。


パゾリーニ俳優は顔に説得力がある

深田: パゾリーニというと、小難しい監督とか、社会派の監督とか、そういう捉え方をされがちですし、そういう方面で深掘りすることもできるんですけど、自分にとっては、映画の中で人が歩き出す、動き出すだけで何かワクワクさせられるというか。どこに連れていかれるのか分からないような感覚になる。楽しい監督というイメージなんですよね。

南: そうですよね。パゾリーニは政治的な側面や、宗教的な側面があります。他の人がその題材で描くと、もっと厳格なものになりそうなんですけど、パゾリーニはそういう範囲で撮っていないというか。そういう側面で解釈しようと思えば、いくらでもできると思うんですけど、一方でそういうものを突き抜けてしまうような面白さがある。

深田:『 大きな鳥と小さな鳥』では、個人的に映画史で5本の指に入るくらい大好きなギャグがあるんです。冒頭が熱血調の主題歌なんですけど、よくよく聞いてみたら、歌詞が全部スタッフやキャストの名前なんですよ。
それで最後はピエル・パオロ・パゾリーニという歌詞で終わる。ユーロスペースで観た時も、その仕掛けに気付いたお客さんから笑いが起こってましたね。

金子: 僕は『豚小屋』が一番好きなパゾリーニ作品なんですが。パゾリーニの作品というのは、キャラクターの心理描写を意図的に避けている部分が多いと思うんです。わりと象徴的にキャラクターを配置することが多くて。キャラクターに劇的なものを持たせなくてもいいんだなと思って、かなり感動した記憶があります。




深田: そうですね。自分は『サテリコン』なんかは何回観たかというくらい観ているぐらいフェリーニは好きなつもりなんですけど、でもフェリーニの情感豊かな感じよりは、パゾリーニの突き放した感じというのがしっくりくるというか。『アッカトーネ』のような、悲劇には見えない、乾いた感じが当時の自分には心地よかったと感じています。うろ覚えですが。

南: パゾリーニの映画を見てると、顔がすごく印象に残るんです。この人はこの顔なんだという感じで、顔にフォーカスして撮っている印象がすごくあるんですけど。

深田: 顔という面で言うと、やっぱり俳優のチョイスがいいですよすね。ニネット・ダヴォリさんというパゾリーニ作品の常連俳優さんがいて。『テオレマ』だと郵便配達員役で出てくるんですけど、いいところに最適な顔の俳優を持ってくるなと感心します。

南: パゾリーニ映画では、人物の内面や背景というのはあまり説明されないですが、逆に顔の説得力だけで、この人はこういう人物なんだというのを納得させられるところがありますね。


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南香好監督&深田晃司監督

パゾリーニは誤解されている?

金子: それこそ『ソドムの市』を観た後に、パゾリーニのイメージが変わったのが初期の『アッカトーネ』や『マンマ・ローマ』でした。両方とも悲劇的な話ではあるんですけど、パゾリーニって人間が好きなんだなというのが伝わってきました。それこそ『ソドムの市』から入った人は、パゾリーニのことを誤解している人も多いかもしれないですね。

深田: 自分はたまたま『アッカトーネ』から入ったので、そこはあまり感じなかったですね。確かにある種のパブリックイメージがついている作家ではあるので、実際に作品を観ると違ったイメージを持つでしょうね。


― 今回の特集で気になる作品は?

金子: 僕は一応、長編は全部観ているんですけど、短編で観てない作品が結構あるんで。中でも『ロゴパク』というオムニバスの『リコッタ』が気になります。

南: 私も同じような感じになっちゃうんですが、日本初上映のオムニバス作品を楽しみにしています。

深田:やはり日本初上映作品というのはすごいことなので。わたしも皆さんと同じく楽しみにしております。あと個人的に、パゾリーニ作品の中でも偏愛している『アラビアンナイト』はぜひフィルムで見直したいなと思いました。




深田晃司

ふかだ・こうじ/映画監督。1980年生まれ、東京都出身。2005年、劇団・青年団に演出部として入団。その後、映画監督として活動する。2013年の『ほとりの朔子』が、ナント三大陸映画祭グランプリ&若い審査員賞をダブル受賞。2016年の『淵に立つ』が第69回カンヌ映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞。最新作は木村文乃主演の『LOVE LIFE』。

南 香好(PFFアワード2022入選『幽霊がいる家』)

みなみ・かすみ/1990年生まれ、神奈川県出身。26歳のとき、フリーターをしながら映画美学校に入学し、映画制作を始める。その後、東京藝術大学大学院映像研究科で制作を続け、現在は京都に移住し、飲食店勤務のかたわら映像制作をしている。

金子優太(PFFアワード2022入選『瀉血』)

かねこ・ゆうた/2002年生まれ、東京都出身。小学生の頃から映画が好きで、大学入学後に映画サークルに所属。書籍やYouTubeを参考に、独学で映画制作を学び、初監督作品として本作を制作した。現在、青山学院大学理工学部物理学科に在学中。