国際映画祭の使い方 その②ともかく体験してみましょう

ベルリンから始まる日本の8ミリ映画特集【Hachimiri Madness:Japanese Indies from the Punk Years】
本企画はPFFとも縁の深いフォーラム部門での上映を皮切りに、今月末からは香港国際映画祭での上映へと続きます。

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上映会場のひとつ、Arsenalの様子
ベルリンでは11作品を7プログラムにわけて、それぞれ3回の上映が行われました。
3会場で1度ずつの上映となるその会場は、フォーラム部門が恒常的に運営する会員制シネマテーク「Arsenal」(およそ300席)での夜10時30分からの上映、フォーラム部門の本来のメイン会場である旧西ドイツ側ZOO駅近くの伝統ある劇場「Delphi」(およそ700席)で連日午後2時から。そして、少し離れた旧東側のアレキサンダー広場のシネコン「Cubix」(およそ300席)でも、連日午後2時から。Cubixはいわゆる"映画祭パスホルダー"が少なく、一般観客の比率が最も高い会場です。

実は私が映画祭や映画館の上映で最も楽しみにしているのは、上映中のリアクションのみならず、上映後に、ロビーやトイレで観客のお喋りに耳をそばだてること。意外な感想を聞くことが出来、ときめきます。と言っても、残念ながらドイツ語はわかりませんので、ベルリンではその楽しみはほぼ奪われています・・・が、上映中の観客の反応は、とてもビビットで、終わると拍手が起き、「流石ベルリン~好奇心の高い観客が多いなあ」と、感無量です。ベルリンに集う観客の「何でも観たい!」という熱の高さと、客層の多彩さには、毎回胸が熱くなります。

立ち会えた中で一番心臓に悪かったのは、『愛の街角2丁目3番地』のCubixでの日曜日午後2時からの上映でした。Happiness Avenueという英語タイトルを持つこの作品。明らかに、「休日の午後を楽しそうな日本映画をみて過ごそう」と期待していらしたらしい、ご家族、老夫婦、友達同時のグループ、の姿が・・・・最後列の端でこっそり様子を伺っていたのですが、多分人生で初めての自主映画体験であろう方々の、戸惑いがひしひしと伝わり、「最後までみてね!」と祈りつつ、終わるまで手に汗握り途中退場のないことを願い、終了すると、戸惑うような拍手が起きた時には、ふ~と息を吐きました。流石『愛の街角2丁目3番地』です!

塚本晋也監督の『電柱小僧の冒険』(The Adventure of Denchu-Kozo)、園子温監督の『俺は園子温だ!!』(I Am Sion Sono!!)、『男の花道』(A Man's Flower Road)、山本政志監督の『聖テロリズム』(Saint Terrorism)では、明らかにそれぞれの監督の熱心なファンがワクワク感満開でそわそわと上映開始を待つ姿にこちらもそわそわし、手塚眞監督の『UNK』『High-School-Terror』矢口史靖監督の『雨女』(The Rain Women)、諏訪敦彦監督の『はなされるGANG』(Hanasareru Gang)では、観客のあまりに真剣な雰囲気に襟を正し、緒方明監督の『東京白菜関K者』(Tokyo Cabbageman K)の大うけにはこちらが戸惑うくらいで、石井聰亙監督の『1/880000の孤独』(Isolation of 1/880000)のエンディングでのどよめきと熱狂にたじろぎ、そして、改めて、今回の東京現像所による2Kデジタル映像の、美しいこと!特にDelphiの天井の高い古式豊かな巨大なスクリーンでみる8mm作品は、夢のようでした。また、英語字幕がついていることによる、聞き取りにくい科白の理解の高まりといったら・・・なんとも素敵な体験となりました。
8ミリという小さなフィルムが40年という歳月を重ねても生き残り、デジタルの最新技術で新たな輝きを纏う。フィルムの強さとデジタルの力とを実感する時間です。
映画祭関係の知人友人も多く来場くださり、「すごいパワー!」「ヌーベルバーグの作品たちを思い出す」といった言葉を貰いました。

ヌーベルバーグ、と言われて思い出すのは、ロッテルダムで聞いたジャック・リヴェット監督の訃報です。多くの映画人が伝説の『OUT 1』のブルーレイ発売を喜んだ直後でもあり、オランダの夜に熱く語る友人の話を聞きながら、むくむくと湧いてきた追悼企画案のあれこれを心に抱いてベルリンに飛んできたらばこのような言葉をかけられ、ますますリヴェット監督のことを、ヌーベルバーグを考えるのでした。

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映画祭会場での杉本大地監督
そして、私の帰国直前となったベルリン開催終盤に到着した、PFFアワード2015グランプリ作品『あるみち』(A Road)の杉本大地監督は今年22歳。フランスのヌーベルバーグも、日本の8mm自主映画も、全く知らない世代です。パスポートもこの渡航の為に取得した初の海外体験で、私も初のヨーロッパ渡航の際に犯した過ちだ~と懐かしく思い出す「一番安いチケット=南回り」を購入しておられ、30時間にならんとするフライトの末に到着です・・・・お疲れさま!
おや?映画の歴史が120年となった今、1世紀分は後体験になるのか杉本監督・・・と、今しみじみしましたが、『あるみち』の作品と監督のフレッシュさはベルリンでも大人気!世界は新人を待っていることを改めて確認です。
とは言え、4回の上映ちゅう1回だけしか滞在が重ならず残念でしたが(先に自分の滞在を決めてしまい、そのあとに『あるみち』の出品が決まったのです)今回、杉本監督がひとりで日々を過ごしたことで、逆に現地の方との交流が深まり、得難い体験に繋がったことを聞きました。「ひとり旅」だからこそ味わえること、起きること、は、やはりある。旅はいい。と思い出させてもらいました。

話は突然飛びますが、実は私、人生で初めて「特典映像」を目的にブルーレイを買いました。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』でございます。ああ、映画の原点が胸迫る、心躍り、同時に心洗われる撮影風景の数々よ!!そのチームがオスカーを多数受賞したと聞き、こちらも生まれて初めて、テレビ中継の録画を見せてもらいました。ああ、各チームの受賞コメントのすがすがしさよ!益々輝く『マッドマックス 怒りのデス・ロード』。これまで「遠い・・・」というイメージばかりで興味のなかったオーストラリアにも行きたくなるほどに・・・
で、今回のアカデミー賞授賞式の進行テーマにある「肌の色」と、その演出や映像をみていると、ベルリンのテーマを思い出したのです。こちらは「難民」。何世紀にも渡る欧米の覇権争いの果てに大量に生まれている難民=過去のツケを背負わされる人々。各所に設けられたboxへの寄付をオープニングセレモニーはじめ、随所で呼び掛ける今年のベルリン。
映画に関わる人間が、何らかの形で世界の多様さを表明し、その共生に挑戦すること。どちらも、そのことを根底においたプロデュースであることに、心打たれました。

寄付の概念や税制が違うことから、日本ではなかなか起こり得ないことですが、そういえば、ロッテルダムでは、ネットでのチケット申し込みの際に、映画祭運営に対する寄付金額を記入するコーナーがあります。気軽に寄付できるシステムですね。

えー、「国際映画祭の使い方」、というタイトルで3回綴ってきたものの、ロッテルダムとベルリンという"大きい"系の映画祭体験となりました。
大きな映画祭にともかく参加してみて、自分の興味や立ち位置を確認し、自分にあった映画祭を探していく、というのもひとつの方法なのではないかと考えます。なんといっても、世界には1000を超える映画祭があると言われていますから。
PFFがPFFアワード入選作品や、PFFスカラシップ作品を出品してきた海外の映画祭を数えただけでも、これまで47か国、269箇所になります。そこでの監督たちの体験談で、実践的に役立つ情報に特化したものをふたつ、ここにリンクしますので、参考にしてください。

『くじらのまち』や『過ぐる日のやまねこ』の鶴岡慧子監督には、初めての海外上映に際して、上映素材の準備などについて書いていただいています。
【海外映画祭レポート:海外で上映するために、必要だったいくつかのこと 鶴岡慧子】

『ダムライフ』の北川仁監督は、企画マーケットへの出品体験を語って下さいました。
【海外映画祭レポート:香港アジア映画投資フォーラム 北川仁】

そして、先日ご本人から少し伺ったところによると、現在『キオリ』公開中の古本恭一監督は、PFFアワード2000入選作品『アンゴウ』をドイツでみたドイツ人の監督から出演のオファーを受け、ドイツ映画に主演したり、その後、六か国の監督によるオムニバス映画の製作に参加したり、と、思わぬ体験をなさったそうです。

思わぬ未来が待っている。
それが映画をつくる、あるいは何かを"創る"という行為にはついてくる。
映画祭は、"つくる"行為の集積所。参加する誰にでも、何かが起きる可能性が待っています。
是非、つくり手として、観客として、映画祭体験をたくさん重ねて欲しいと願っています。