なぜサミュエル・フラーなんですか?と問われれば・・・

これほどまで多くの人から「何故サミュエル・フラー特集なのか?」そもそも「サミュエル・フラーって誰?」と尋ねられるとは、思っておりませんでした。意外です。
「生誕100年とかですか?」
と聞かれたときには「あ!惜しかった!」と心で唇を噛み......1912年生まれですから、ああ生誕103年......「生誕100年」の人をチェックするの、大事ですね、プログラム上。でも、違うんです。

きっかけは、娘、サマンサ・フラーの監督したドキュメンタリー『フラーライフ』が生まれたことです。「おお!これってサミュエル・フラー作品を上映するチャンス!」と思ったのです。
フラー2度目の結婚(最初の妻を亡くしています)後、還暦を過ぎて授かった一人娘がサマンサです。75年生まれのサマンサ。家族で来日した90年には、まだ15歳だったというわけです。

そう。90年に「サミュエル・フラー映画祭」が開催され、フラー一家が来日しているのです。サミュエル・フラー、妻のクリスタ・ラング(今回PFFで上映する『ベートーヴェン通りの死んだ鳩』に主演しています)、そして、サマンサ・フラーの三人家族です。

90年のサミュエル・フラー映画祭は、ユーロスペースで『ストリート・オブ・ノーリターン』『ホワイト・ドッグ』『裸のキッス』の3作品を公開するのにあわせ、90年8月25日から31日の一週間、渋谷PARCO SPACE PART3(現在のシネクイント)を会場に、なんと、13作品を上映しています。
当時は、ソフト化もテレビ放映も、今日ほど多種多彩ではありませんので、日本初上映作品の山!!先日、この映画祭の資料を送っていただいたのですが、「このときの日本語字幕データは残ってないか?」と思わず尋ねてしまいました。

「サミュエル・フラー映画祭」
「サミュエル・フラー映画祭」パンフレット
私自身は、90年の「サミュエル・フラー映画祭」を逃しています。生のフラーに遭遇するチャンスを失っているわけです。そのときの映画祭パンフレットを拝見しますと、執筆陣も豪華絢爛。熱が伝わります。同時に、筑摩書房のリュミエール巌書から「映画は戦場だ!」と題されたサミュエル・フラーのインタビュー本が出版されました。
このインタビューが素晴らしい。読み込みました。まさに、インディペンデントな魂の塊。純粋完全映画バカ(褒めています)なのです。

その後、できるだけフラー作品を探して今日に至る次第です。フラーの亡くなった97年には、ドキュメンタリー映画のひとつである『サミュエル・フラー/タイプライター、ライフル、ムービーキャメラ』(アダム・サイモン監督)の上映もPFFで行い、トークゲストに青山真治監督と黒沢清監督をお招きしました。
そして21世紀の今、フラー作品の多くが、DVD、テレビチャンネル、劇場、など、何らかの方法で観ることが出来る嬉しい時代になりました。

「映画は戦場だ!」
「映画は戦場だ!」筑摩書房
フラーの魅力。それは、上記のインタビュー本「映画は戦場だ!」の冒頭にある、マーティン・スコセッシの言葉をここに書き写したいほどですが、そちらは是非お読みいただくとして、無理矢理私が言葉にするなら、「普通ここ、追求するだろう」というところをすっ飛ばし、「え?ここでこうなる?」という意表を突く展開を持ってくる、驚き。その、緩急のポイントが誰にも真似できない、独自の映画術。善悪の断定基準が不明な、あまりにも人間的な登場人物たち。とにかく予測のつかないカラフルさ、しかしそれは、非常に人間的な生理に基づいている、からでしょうか。今、ふっと『四十挺の拳銃』をみたときの驚きを思い出しました。ダグラス・サーク作品にも登場する(ここ個人的に重要)、あの女優をこう使うか・・・というその豪胆さに眩暈が・・・
兎に角、観てみなくてはわからないフラーのチャーム。です。体験してほしい!
『フラーライフ』
『フラーライフ』
今回、PFFでのフラー特集では、サマンサ・フラーの監督したドキュメンタリー『フラーライフ』(この作品は、フラーの自伝をゆかりの人やファンが少しずつ朗読し、更にフラーを語る、というスタイルなのですが、同時にアメリカ史でありアメリカ映画史であるところがまさにフラー。本人による戦場記録映像なども登場します)の上映と、サミュエル・フラーの監督6作品の上映を行います。

『ベートーヴェン通りの死んだ鳩』『フラーライフ』以外の上映作品の発表をお待ちの皆様。間もなく全貌の発表を致しますが、残念ながら、全作品上映ではありません。別の機会に
別の場所で、更なるフラー特集を継続できればと、今もいろいろ調査中ではありますが、
まずは今回の上映に参加していただけますよう、心よりお待ちしております。

そして、朗報があります。
ドキュメンタリー『フラーライフ』のもとになった自伝『サミュエル・フラー自伝 わたしはいかにして書き、闘い、映画をつくってきたか』の出版が決定しました。12月上旬boidから。750ページになる見込みとか...冬休みの読書にぴったりな読み応えですね!

『フラーライフ』© CHRISAM FILMS, INC.