神代辰巳監督&ロッテルダム&ベルリン
先日ラインナップをご紹介した「世界が注目する日本映画たち」。十回目を迎える来春の上映7作品の一本『人のセックスを笑うな』は、本調有香さんが脚本を執筆なさっています。
本調さんの脚本家デビューは、95年にお亡くなりになった神代辰巳監督の『インモラル・淫らな関係』です。
神代監督といえば、『青春の蹉跌(せいしゅんのさてつ)』に思い出があります。
塚本晋也監督がこの作品を常々大好きな映画に挙げておられて、PFFでも昔、"若手監督の選ぶベスト作品特集"といったような企画で、上映したことがあります。その時来場された塚本ファンの若い女性が、アンケートに「さすが塚本監督、あくまでも"鉄"に拘るなあ~と感激したんですが、鉄ではなかったのですね」と書かれていて、ウケました。そのお客様の頭にあったのは、きっと、映画『青春の砂鉄』。どんな内容を想像してらしたのでしょうか・・・・・・
そういえば、磁石を砂に入れると鉄がくっついてくること、大人になって試してみることがありませんね。
この神代辰巳監督の特集が、監督の故郷佐賀で、12月5日から18日まで開催されています。
PFFin福岡の宣伝や運営の手助けをしてくださったり、予備審査員として参加くださることもある、芳賀さんが経営なさっている佐賀の映画館「CIEMA(シエマ)」の2周年記念イベントと、神代監督のご実家、神代薬局120年記念もあわせての企画で、会場は勿論「CIEMA」です。
折角なのにこのニュースをお伝えするのが遅れてしまいましたが、初日の5日には、出演俳優、スクリプター、助監督らを迎えてのトークや、渚ようこさんの歌謡ショーも開催されました。
1996年、橋口亮輔監督の長編第二作『渚のシンドバッド』がコンペティション上映となった際に、初めてオランダのロッテルダム映画祭に参加したのですが、丁度神代監督の追悼特集が行われていました。日本のピンク映画やポルノ映画が海外に積極的に紹介されはじめた時期でもあり、様々なお客様が来場し、思わぬ笑いも出る会場でした。
そのときに、アフレコ使いの面白さが印象に残りましたが、今年PFFで特集した大島渚監督にも、同時録音とアフレコの実験の面白さを感じたように、60~70年代に活躍した監督たちの音の実験は、非常に興味深いと思います。かなりアナーキー。
毎年1月末開催のロッテルダム映画祭も、かなりアナーキーな映画祭で、近年、ヨーロッパで重要な地位を占めてきています。その直後の2月に開催されるベルリン映画祭と、昨今は作品のとりあいが生じるため、この時期は、作品を出品する私たちにとって、胃の痛くなる季節です。
本年は、2年前に世界で初めて石井裕也監督に注目して、自主映画4作品を一挙に特集してくれたロッテルダム映画祭と、監督自身が是非挑戦したいというベルリン映画祭と、石井監督の新作2作品のプレミア上映に、悩ましい一ヶ月を過ごしました。最終的には、それぞれ1作品づつ上映いただくという素晴らしい結果になったのですが、映画祭ディレクターとしては、ロッテルダムのあの英断を想い、映画プロデューサーとしては、ベルリンにトライすることが必須であり、ふたつの立場の両立の難しさを、今回も痛感しました。
話はもどって、佐賀のCIEMAを先ほどご紹介しましたが、九州には個性的な映画館があります。
熊本のDENKIKAN、大分のシネマ5など。九州新幹線の開通に伴い、週末を福岡で過ごす人が一挙に増加し、各地の繁華街はますます閑散としてくるのではないかと懸念されるなか、それぞれ大きな営業努力を強いられています。映画が、興行としての過去のノウハウが無力になっている昨今、細やかな人と人とのつながりや、絶え間ない運営の工夫がどこまで楽しめるか。映画に関わる人々の共通の課題のような気がします。