冬の兵士

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メリークリスマス!
そして、あっというまに、新年がやってきます。
数年ぶりに会ったイギリス在住の友人が、彼女もボランティアとして翻訳に参加した「冬の兵士」という本を下さいました。"イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実"という副題の示すように、若い帰還兵の証言集で、岩波書店から出ています。年末年始の読書リストが更に充実してしまいました。
戦争が、常に世界のどこかで続いており、戦争の影を纏う切実な映画が絶え間なく生まれます。先日も、大変遅ればせながら、井口監督が『人のセックスを笑うな』製作の際に参考にみたというイタリアのヴァレリオ・ズルリーニ監督の『激しい季節』と『鞄を持った女』を拝見し、成瀬巳喜男に繋がる戦争の影を痛切に感じました。もう65年も前になる第二次世界大戦の検証も、今まだ充分にすすまない日本の現実を思うと、他国に於ける戦争の検証を色々考えてしまいます。月日はあっと言う間に経つけれども、人の記憶は消えないことは、辛いことでもあり、幸いなことでもあります。

そして、今年は、生誕100年を記念した催しが沢山ありました。田中絹代、太宰治、松本清張。この3人が生きていれば同じ年とは俄かには信じがたいのですが、想像してみると、例えば、宮崎あおいと、同年齢の小説家志望でデカダンしている青年と、夢を胸に家計のために必死で働く青年がいる、となるとすんなりわかるので、活躍の時差が大きいことの驚きだなと納得します。65年前には、この3名は35歳。全く違う戦後を過ごしたことを思うと、人生予測不可能なことを実感です。

来年は、正月からフィルムセンターで、デビュー50年を記念した大島渚特集が組まれています。
夏のPFFで開催した大島渚講座の採録が、来月発売のSWITCHで楽しめますので、ご一読なさると、きっと更に充実した大島体験をしていただけると思います。
また、まだご報告できていませんでしたが、PFFin名古屋の大島渚講座では、地元在住の一尾直樹監督が『帰って来たヨッパライ』と『新宿泥棒日記』を講義してくださいました。『帰って来たヨッパライ』は、現実感のない若者が、当事者意識を持つに至る物語であり、『新宿泥棒日記』は、ドキュメンタリーとフィクションの融合をいち早く試み、ホントとウソを映画でみせる冒険に成功した稀有な作品であるという(非常に乱暴にまとめてすいません)お話は、実に刺激的で、大島渚講座中1,2を争う面白さでした。
その一尾監督は、新作を完成したばかりです。タイトルは『心中天使』(しんちゅうてんし)。来年公開予定ですので、お楽しみに!

PFFも28日に仕事納め(年末年始も「PFFアワード2010」の審査は継続中ですが)。
年明けはロッテルダム映画祭が待っています。この映画祭でこれから一年の話題になる新人監督作品の多くが出揃い、様々な映画祭で監督たちが再会を繰り返します。
例えば、昨年ですと、韓国の『Breathless』。多くの映画祭で賞はこの作品へと行き、PFFスカラシップ作品の『不灯港』はスペシャルメンション授与が続きました。(『Breathless』の日本公開が予定されていると聞きます。是非ご覧下さい。)今年は、コンペにPFFからの出品はありませんが、どんな作品が登場するのか楽しみです。同時に、ロッテルダムは、この一年の話題作が最後に集まる映画祭でもありますので、見逃した作品をまとめて観るチャンスにもなります。オランダ方面に旅行をお考えの皆様は、アムステルダムから電車で1時間ばかりのロッテルダムで映画祭三昧の一日もいかがでしょうか。
但し、ロッテルダムは安い宿がないので、宿泊はおすすめしません。

2月には、ワークショップ企画の第三弾を予定しています。
第三弾は、前回よりいささか深い内容になる予定で、二つの違ったワークショップを設定する計画です。
順調に行けば、年明け早々に詳細をお伝えしますので、お楽しみに!

長くなってしまいましたが、本年もありがとうございました。
皆様、よいお年をお迎えください。
(文中敬称を略させていただきました)