世界が注目する日本映画たち
最初に所沢市の皆さんと共に企画を考えた際に、このホールの音響と、この企画のために設置した大スクリーンに上映する作品のセレクション基準として、"邦画"であり、"国内のみならず国際的な評価を持つ"というイメージが湧きました。所沢が日本の航空発祥の地であることや、日本大学映画学科の校舎があることも関連するでしょう。そして、所沢近郊の映画館で観ることのできない作品="単館公開系の作品を集める"ことも、決まりとなりました。
当時、20世紀の終わり、日本映画の海外での人気が非常に高まり、海外での公開本数も増加していました。その勢いを、ひとりでも多くの方にお届けしたいとも思いました。
毎年、8本を上限としたラインナップを行います。
来春の開催日程は、3月20日(土)、21日(日)、22日(月・祝)です。
ラインナップは、『愛のむきだし』『ウルトラミラクルラブストーリー』『空気人形』『ぐるりのこと』『ディア・ドクター』『人のセックスを笑うな』『フィッシュストーリー』の7作品です。いづれも、国内のみならず、海外映画祭や海外の劇場公開で人気を博した作品です。
この企画を10回続けて、変化を肌で感じることがあります。
会場の映写設備が35ミリフィルムに限られるため、ビデオ作品の上映を断念する必要があるのですが、近年、ビデオでの秀作が増加しています。それから、毎年出来るだけ新しい監督の作品を紹介したいと考えているのですが、海外で人気の監督が、レギュラー化してきています。例えば、河瀬直美、黒沢清、是枝裕和、諏訪敦彦(敬称略)という面々が、10年間ずっと変わらず世界中に観客がいます。
現在、映画をつくるチャンスを掴むには、海外とのコラボレートは必須事項とさえ言えるのではないかと思えます。世界中の映画マーケットが縮んで来ている現実とは、世界中にその映画の観客がいるという前提で作品をつくるという風に「前提を変える」ことだ、と、多くの映画人が気付いて、行動を始めています。このことを映画製作に取り組む常識としなくてはならない21世紀がやってきました。"言葉より強い映画の力"で、世界に愛される映画監督の増加を祈りながら、毎年「ミューズ シネマ・セレクション 世界が注目する日本映画たち」を企画しています。
その7回目のラインナップの1本に、ヤン・ヨンヒ監督の『ディア・ピョンヤン』という作品がありました。監督の家族を追ったドキュメンタリーです。このヤン・ヨンヒ監督が、本を出したという連絡をいただき、先日、出版記念パーティーというものに初めて参加しました。
『北朝鮮で兄(オッパ)は死んだ』というタイトルで、佐高信さんが聞き手で監督が様々な体験を話しています。このパーティーは、佐高信さんの『日本の権力人脈』、目加田設子さんの『行動する市民が世界を変えた』という3冊合同のパーティーだったので、多くの政治家がスピーチに登場し、会場の雰囲気も、政治に親しんだ人々の集いな感じで、私には何もかも新鮮で面白かったのですが、映画関係のパーティーも、映画に親しみのない人々にとっては、不思議な世界かもとふと冷静に考えました。自分があるカテゴライズされた世界にいることは、なかなか気付かないものだということに、気付かされた夜でした。同行したベルリン映画祭フォーラム部門のディレクター、クリストフ・テルヘヒト氏に、スピーチなどを説明しようにも、政治用語をさっぱり知らないことを愕然と気付かされ、通訳という仕事の凄さも実感したのでした。
さて、作品をご覧になった方はご存知でしょうが、『ディア・ピョンヤン』は、非常な勇気を持って発表された作品です。この作品を上映したときの、観客の皆様の反応が大変興味深かったのを覚えています。「人は、聞きたいことだけを聞き、みたいものだけを観る」という言葉は真実だなあ・・・・ということを再認識した瞬間もあった体験でした。是非、多くの方にご覧いただきたいと思います。
そして、新作『ソナ・もうひとりの私』の完成も近いとのこと。釜山国際映画祭で未完成バージョンながら御披露目をし、その場でベルリン国際映画祭での完成版招待も決定したとのことで、拝見できる日が楽しみです。
ベルリン国際映画祭といえば、前述のテルヘヒト氏と、パノラマ部門のディレクター、ウィーランド・シュペック氏が先週東京に滞在し、セレクションを行いましたが、プログラム決定連絡はアジアツアー終了後とのこと。とりあえず気がかりなことは忘れてしまって、日々の仕事に邁進です。
この週末は、PFF名古屋と神戸の同時開催。2都市を駆け足でまわります。