鶴岡慧子監督×小川努カメラマン×柳島克己撮影監督「デジタル撮影で手に入れた新しい表現の選択 vol.02」(Vol.2)

インタビュー

top_photo.jpg

スタンダードサイズに挑み考えたこと、見えたこと

柳島氏:なぜ4:3のスタンダードサイズにしたんですか。

小川氏:脚本を読んだときに、この映画に中学生のエキストラは出てくるのか、という話をしたら、エキストラは出てこない。そうなると、主人公しかいない画を16:9で撮ったときに、やっぱり人間と人間との隙間を何かで埋めないと本当にすっからかんになってしまう。でも、すっからかんの中学校が撮りたい感じでもないな、と考えて、提案しました。

鶴岡監督:ちなみに16:9のままで撮って、後から横を切って4:3にしています。

小川氏:最初から4:3で撮れるカメラもあるんですが、モニターにラインで4:3を引いて撮りました。

柳島氏:やってみてどうだった?

小川氏:4:3は、非常に「切り取る」とう感覚に近くて、人間の体に非常にあった画面サイズだなと感じました。

柳島氏:スタンダードサイズは縦のラインの処理が非常に難しく、本作は結構うまく処理してたと思んだけれども、その辺は意識して撮りました?

小川氏:中学校って普通の建物より天井が高く、こどもに合わされたサイズに一個一個が小さく作られているような感じがしたので、壁や窓の映り方などを考えました。

柳島氏:基本的にヒキサイズが無く、教室も黒板だけだったり、保健室のショットも狭い部分的なカットで撮って学校の全体像を表現して見せ、丁寧なところがとてもいい感じになっていましたよね。ラストショットだけが、ぽんっとヒキサイズになるのがすごくいい感じになっているなと思いました。でもスタンダードサイズになると同じレンズミリ数を使っても、他のフレームサイズに比べて人物に寄ったサイズが難しい。採寸が多くなっちゃうから、その分どうしてもフォーカスが甘いのが気になってしまうんだよね。今はカメラの性能が良くなって、どんどん大きなセンサーサイズで撮れるようになるとピントが合う範囲が狭くなるので、それを計算しないとアップの撮影ではでもどこにピントがあっているのか。対象物がちょっと動くとすぐピントがボケ前に動いてしまうよね。

光の使いかた、光量で気をつけるポイント

柳島氏:最初の保健室シーンが、非常に明るいように感じたんだけれどあれは狙いですか。

小川氏:実際の撮影を行った中学校は、天井にも窓があったり構造的に古典的な作りからはちょっとずれた校舎で、それを鮮明に出していこうという感じでした。

柳島氏:絞りや光のコントロールはいつものように露出計を使ってやったんですか。

小川氏:そうですね、私が切ることもありましたし照明部の方にやってもらったりしながら。

柳島氏:いまオート設定でも非常に綺麗に撮れるんですが、オートに頼ってしまうと、カットバックしたときに、背景とのバランスが悪くなってしまうことがよくあるので、基本的にはプロの現場でも学校の現場でもメーターを基準にして、明かりをどう考えてコントロールしようかとやっていくと破綻がないと思います。

荒木D:フィルムとデジタルとの光量の気をつけ方はありますか。

柳島氏:フィルムとデジタルでは、暗い部分と明るい部分の光の再現に差がありますが、今のフィルム撮影には、フィルムで撮ってからそのフィルムをスキャニングして、デジタルに変換するシステムがあるので、グレーディングによって出来上がったものの撮影後の取り回し、修正できる範囲が広がって、以前に比べてそれほど差が無いんですよね。以前のフィルムスキャニングが出来なかった時代は、フィルムを現像した時点で終わってしまっていたので、当時は暗い部分と明るい部分の再現は非常に繊細な計算が要求され、今の様にフレームの中の部分的な修正や補正は出来なかったので、撮影時にちゃんとしたデータを取って進めていかないとそれこそ後で直しがきかないという状態があったんですよね。

荒木D:撮影にあたって厳密な準備というのが今よりはるかに必要だったということですよね。

柳島氏:はるかに大変でしたね。フィルムは明暗や色彩の再現幅が狭いんですよね。『焦がれる鼓動』の夕景のシーンでいうと、あのシーンの場合フィルム撮影だとあれだけコントラストがあると空がすっとんじゃって真っ白けになってしまう。反対にあの夕景の空を綺麗に出そうとすると人物が暗くなっちゃう。それで、空のトーンを生かして人物を暗くしないために空の明るさに対抗できる大きいライトを人物に当ててバンバンたいて空とのコントラストのバランスを取っていくんですよね。