No.45:フィルムで映画を撮るということ(1/3)

海外レポート

フィルムで映画を撮るということ

文:蔦 哲一朗(PFFアワード2009『夢の島』監督)

今回は「海外映画祭レポート」の番外編をお届けします。
「16ミリフィルム、モノクロ、シネスコ」という、映写泣かせの長編作品『夢の島』でPFFアワード2009に登場した蔦哲一朗監督は、「ニコニコフィルム」を率い、フィルムにこだわる映画製作を続けています。昨年、ついに『祖谷物語 おくのひと』という35ミリフィルムで撮影した長編映画を完成し、東京国際映画祭を皮切りに、世界の映画祭で話題沸騰。プレミア上映から一年を経てなお、各国をまわって好評を重ねています。と同時に、日本国内のロードショーも広く長く続いています。
デジタルフォーマット以外の映画をみつけることが急速に困難になった現在、映画製作の場面でより、映画保存の部分で、フィルムの重要性を訴える声は、世界中で年々高くなっています。発達を続けるデジタルのハードにあわせ、毎回毎回、最新のフォーマットにダビングを続けない限り、昔のデジタル映像の再生はできなくなるであろう、という危惧、いえ、パニック、とさえ言える感情が静かに広がり続けています。そんな中、各国の映画祭で、今や、必ずといっていいほど、唯一のフィルム作品である『祖谷物語』を持って旅する蔦監督に、フィルムにこだわるその理由、そうなった歴史、そして、これからの映画製作について、思いのたけを語ってもらいました。「あるフィルム偏愛者の告白」、として読んでいただくことになるのと同時に、かつて私たちが経験したことがない、映画の保存、の現在と未来について、一考してみるきっかけにしてもらえたらと思います。

台北から帰ってきたら庭に、竹が生えていた。しかも、すでに私の身長ほどに伸びている。まったく気づかなかった。自分が忙しかったと言うつもりはないが、『祖谷物語』のおかげで海外映画祭を色々と飛び回っているうちに、今年芽生えた竹の子がこんなにも大きくなるとは…。

現像所「現代電影」にて、社長さんたちと記念撮影。

昨年10月の東京国際映画祭から始まった『祖谷物語』の映画祭行脚は、次から次へと決まり、今回の台北で監督の私が海外に招待されるのは、6か所目である。残念ながら台北映画祭ではコンペティションの受賞を逃しはしたが、海外で現地の方々の反応を見る度に、完成しているはずの『祖谷物語』がどんどんエネルギーを蓄え、影響力を高めているように感じられるのには、いつも驚かされる。映画は人に観られることによって成長するという曖昧な言葉を、実感した海外の日々であった。

また、今回の台湾渡航はいつもと少し違う楽しみもあった。というのも、私たちを引率して下さったアテンドさんが、偶然にも台北の“現代電影”という現像所の社長さんとお知り合いということで、フィルムでしか映画を撮らないと決めてきた私とスタッフ数名は、これからの日本が迎えるであろう完全デジタル映画時代からの逃げ道を一つでも確保しておくために、帰国前に急遽、見学させてもらうことができたからだ。

台湾の現像所とフィルム事情

“現代電影”は、ご家族や数名のスタッフさんで経営している比較的小さい現像所だが、フィルム現像からデジタルスキャン、また編集・整音などのポスプロ作業もすべてこなせるそうだ。また、フィルムの修復作業もしており、過去の色褪せたフィルムをデジタル上で修復したものを試写室で見比べさせてくれた。

台湾のフィルム事情もお聞きしたが、はやりフィルム撮影は少なからず残っているものの、上映用のプリントを焼くことは、もうほとんどないそうだ。フィルムでやるなら主流としては、16mmか35mmで撮影したネガフィルムを2Kでデジタルスキャンしてデジタル上映する。確かに我々も、今後フィルムで映画を制作し続けるなら、現状この方法が一番良いと思っている。16mmフィルムで撮影してフィルムの粒子感と味を残しつつ、デジタルスキャンしてDCP上映。効率性や予算と我々のこだわりの妥協点が現状ここである。 もちろん、上記のやり方は日本の現像所でも可能だが、台湾という異国の地で撮影して、現像するという未知の領域は、世間から見捨てられても自分たちの道を進んでいる島流しにも似た孤高的エクスタシーを感じてしまっている私たちなので、台湾での映画制作が実現する日はそう遠くはないように思う。

そもそも、なぜ我々ニコニコフィルムがこのデジタル主流の時代に、フィルムにこだわり続けるのかということに疑問を抱かれる方も多いと思われるので、この機会に少しお話させていただきたい。