No.11:『マイム マイム』in第5回香港アジア映画祭 海外映画祭レポート

海外レポート

日本国内のみならず、海外の映画祭でも上映される機会が多くなったPFFアワード入選作品&PFFスカラシップ作品。このページでは、そんないろいろな映画祭に招待された監督たちにも執筆していただいた体験記を掲載します。

PFFアワード2008 準グランプリ&エンタテインメント賞受賞『マイム マイム』in 第5回香港アジア映画祭 (香港:2008年10月10日~26日)

授賞式にてノミネートされた監督や俳優たちと記念撮影

授賞式にてノミネートされた監督や俳優たちと記念撮影。右から2番目が岨手監督。

10月23日の夜。ねっとりと絡みつく暑さの中、あこがれの香港に降り立ちました。
ホテルに向かうタクシーから見える映画の中で見てきた香港は、やはり不思議な活気に溢れていました。

24日。巨大ショッピングセンター内の劇場(PALACE IFC)で、1回目の上映。
なんとチケットは完売。審査員の方が「席がない!」と慌てていました。自主制作映画、しかも海外での上映なのに…。これまで上映の機会は何度かありましたが、満席になったのは初めてです。
そして昼にカフェで雑誌の取材を受けた時にたまたま隣の席にいた、旅行中のアメリカ人の方も見に来てくれました。何でもウォン・カーワイ監督の大ファンらしく、香港/マカオ中のロケ地を回っているのだとか…。映画がつなぐ一期一会です。

上映後のQ&A。岨手監督と通訳さん

上映後のQ&A。岨手監督(左)と通訳さん。

25日。2回目の上映は、珍しい特集上映が組まれたりする映画好き御用達の劇場(Broadway Cinematheque)にて。売店の方からも「これから見に行きます」と声をかけてもらい、知らない人が興味を持ってくれている状況にイマイチ慣れないまま、会場へ。
この日のQ&Aは1回目よりも少し踏み込んだ内容で、「なぜ無気力な女性を主人公にしたのか?日本には彼女のような若者が多いのか?」と、今の日本の若者についての質問が多くありました。「日本の若者の多くは政治などの問題ではなく、きわめて個人的な事でしか悩まない」と見解を述べると、客席から香港の若者についての意見が出ました。返還された香港に多くの中国(本土)人が移住して来る、この事は香港の若者のアイデンティティ形成の上で、大きなテーマになっているように感じました。先月のバンクーバー国際映画祭の新人コンペを制した『パーフェクト・ライフ』という作品も、中国から香港に移住してくる女性の話でした。日本では祖国について考える機会などほとんど無い気がしますが、香港の方々はそれぞれ考えを持っているようでした。
また香港で自主映画をやっている、という方が何人もいました。どこの国も製作費が一番の悩みの種です。あと、「日本に留学していた時に(私の前作)『コスプレイヤー』を見たので来ました」という方がいてビックリ!自主だろうが、外部に出した時点で映画には受け手がいる。そんな事を改めて実感しました。

お世話になった映画祭スタッフのみなさん

お世話になった映画祭スタッフのみなさん。

26日の授賞式では台湾の『パーキング』という作品が選ばれました。なんと主演はチャン・チェン!『マイム マイム』は受賞とはなりませんでしたが、そんな作品と同じ候補に挙がった事に感激です。
ですが、よく考えると映画は映画なのです。
私はよく「映画撮ってます…自主ですけど」と自己紹介をしていますが、どういう状況で撮影をして誰が出ていようが、映画になってしまったら何の申し開きもできません。だからこそ、自分の撮れる映画を確実に撮らなければならないのです。
色んな国の監督がそれぞれの状況でそれぞれの作品を撮っている。当たり前の事ですが、それに気づけた事は、先月のバンクーバーとこの香港にもらった大切なお土産(宿題?)です。

文:『マイム マイム』監督 岨手由貴子