No.9:『かざあな』in第27回バンクーバー国際映画祭

海外レポート

日本国内のみならず、海外の映画祭でも上映される機会が多くなったPFFアワード入選作品&PFFスカラシップ作品。このページでは、そんないろいろな映画祭に招待された監督たちにも執筆していただいた体験記を掲載します。

PFFアワード2008 審査員特別賞受賞『かざあな』in 第27回バンクーバー国際映画祭 (カナダ:2008年9月25日~10月10日)

上映会場前の電光掲示板

上映会場前の電光掲示板。

『かざあな』は自主映画である。
自分たちで、お金を集め、自分たちで撮影し、編集した、自己資金制作映画である。
そんな自主映画『かざあな』が海を渡り、バンクーバー国際映画祭で上映される。
今回、日本映画は僕等の『かざあな』や岨手監督の『マイム マイム』市井監督の『無防備』を含めた18作品と、アジアの中では最多の出品数で、商業映画中心の上映の中に、当たり前のように『かざあな』がラインナップされている。
まず、それにとても興奮する。

ホテルにチェックインして、毎日夕方から開かれているレセプションパーティーに行き、(もちろん毎日、パーティーに通う。パーティーで出される地ビールがとても美味い!)次の日から2日間続けて『かざあな』が上映。会場は、Vancity Theatre。
驚いたのは、Vancity Theatreの電光掲示板で、そこには「Kaza-ana 7:00PM」と映し出されている。
こんな風に自分たちの映画が宣伝されるのは初めてで、何か妙に興奮する。
そして映画が始まる。満員とはいかないが、結構な数の観客が『かざあな』を観てくれる。
僕は前から2番目の席に座り、座席の隙間から、観客の反応を見る。
皆、食い入るように『かざあな』を観ている。

質疑応答にて手持ちカメラのフットワークを説明する内田監督

質疑応答にて手持ちカメラのフットワークを説明する内田監督(右)。

上映後の舞台挨拶、そして質疑応答。

Q.「ドキュメンタリーの様なリアルな演技だったが、どのような演出方法をとったのか?」
A.「基本的に決められた設定のみで、即興芝居でカットをかけず撮影を進行し、芝居を継続させて行った。役者はカットの声がかかるまでは、絶対に芝居を続けなければならず、撮影に用いたビデオカメラのテープは60分テープを106本使用し、時には60分間の長回しになることもあった。その素材の中から良いシーン、良いカットを抜粋して行くので、最終的にリアルで強い映像になって行った」
Q.「手持ちカメラでの撮影がほとんどだったが、何故手持ちカメラでの撮影になったのか?」
A.「即興芝居で、役者にほとんど自由に動いてもらったため、撮る側も、それに対応し、フットワークを軽く、その時の状況に応じて行かなければならなかった。状況によっては三脚を使った方が効果的なシーンもあり、その時は三脚を用いたが、ほとんどのシーンは、三脚を必要としない、フットワーク重視の撮影だったため、手持ちカメラが多くなった」

こういった感じで、質疑応答が進んでいった。
その他、自主映画の制作費について、他国の映画人から質問が出た。
日本の自主映画では、当たり前な「自己資金によるローバジェットな映画制作」は、他の国の映画制作者からすると、驚くべきことのようだ。
何故なら他国のインディーズ映画のほとんどは、国からお金が出たり、数千万円単位で友人や会社から融資をもらい、映画制作してるのに対し、日本の「自主映画」のほとんどは、制作者の自己資金で映画を作るからだ。(数万円~数百万円と費用はさまざまだが)
他国の映画人の制作スタイルを聞くたびに、日本の「自主映画」は、日本映画の制作スタイルの中の1つであり、「自主映画」は、金額を使わず頭を使って、安くて良い作品を制作する。
そして、ひとたび完成し海を渡れば、商業とか自主とか関係なく、映画として観てくれることを実感できる。

一緒に映画祭に参加した出演の赤穂真文氏、内田監督、『マイム マイム』の岨手由貴子監督、主演の鍋山晋一氏

左から、一緒に映画祭に参加した出演の赤穂真文氏、内田監督、『マイム マイム』の岨手由貴子監督、主演の鍋山晋一氏。

そんな感じで2日間の上映が終わった。
『かざあな』は、わりと好評だった。
韓国の映画人や、フィリピンの映画人から同士のように握手を求められ、香港出身の女性からは「凄い面白かった!」と言われ、後日、日本の新聞記者から聞いた話だと、50代のカナダ人カップルが、途中で感動してすすり泣き、上映後に記者が感想を聞いてみると「とてもリアルで素晴らしい!日本映画が好きになったわ」と大絶賛だったらしい。
やはり国は違えど、人間の想いや恋愛は、普遍的で変わらないのだなあーと、取材に答えながら思った。

しかし今回、『かざあな』はバンクーバー国際映画祭で受賞することは出来なかった。
その後のパーティーで、審査員のペンエーグ・ラッタナルアーン監督(「インビジブル・ウェーブ」)に話しを聞く。
「君は悔しがれ。時に悔しさは、喜びよりも価値がある。君は悔しがれば、次はもっと凄いのが作れる」と言われた。
よし!! 落ち込むのは止めよう。前向きに進んで行こう。
まだまだこの先、人生の道は長いのだ。
次は、もっともっと凄い映画を作ってやるぜ!

最後に、噂には聞いていたが、バンクーバー国際映画祭のボランティアスタッフや通訳の方々は、本当に優秀で、優しくて、言語にも、環境にも何一つ困ることは無かった。映画祭スタッフのおかげで、本当に素晴らしい経験が出来ました。ありがとうございました!

文:『かざあな』監督 内田伸輝