No.5:『single』in バンクーバー国際映画祭

海外レポート

日本国内のみならず、海外の映画祭でも上映される機会が多くなったPFFアワード入選作品&PFFスカラシップ作品。このページでは、そんないろいろな映画祭に招待された監督たちにも執筆していただいた体験記を掲載します。

PFFアワード2006 観客賞受賞作品『single』in バンクーバー国際映画祭 (カナダ:2006年9月28~10月13日)

こちらが『single』上映会場

こちらが『single』上映会場。

日本の名もない学生の映画なんか誰が見に来るのか?と言う不安があった。
お客さんが一人もいなかったらどうしようと、考えるだけで怖くなった。
そこはアジアでもなく、私達とは明らかに異なる人種の人々が住む街だからだ。

現地に到着すると、ボランティアのスタッフが出迎えてくれる。
私の到着日時が、一日間違えて伝わっていたらしくスタッフの方に驚かれる。
バンクーバーは肌寒い。この美しい街で上映されると思うと緊張してきた。
分厚い映画祭のパンフレット。『single』の隣には『ゆれる』が載っている。
著名な監督達と同じ所に記載されていると知って、改めて胸が高ぶる。

1回目の上映日。
恐る恐る劇場を覗く。席数は250位といったところ。
中には30~40人位の人が入ってくれていた。
映画祭では同時刻にもいろいろな映画を上映しているのにもかかわらず、
私の映画を選んでくれたことがとてもうれしい。
ホントに心からありがたいなと思う。
しかし、上映の直前に、飲めない酒をのんだため、『single』上映開始と同時に寝てしまう。
何とか起きていようと、夢と現の狭間を行き来する。
薄っすらとした意識の中で、お客さんの笑い声が聞こえ、
安心したのか、完全に目がさめたのは、終了3分前のシーンであった。

会場ロビーに飾られたポスターと一緒に

会場ロビーに飾られたポスターと一緒に。

PFFアワード2006入選作品『隼』市井監督とバンクーバーで再会。右端が中江監督

PFFアワード2006入選作品『隼』市井監督(中央)とバンクーバーで再会。右端が中江監督。

大切な上映に寝てしまい、へこむ。
明日の上映は、お客さんの反応を一瞬たりとも見逃すまいと誓う。
というのも、外国の方々は、我々日本人と笑うところや感じるポイントが
少し異なることがあると感じたからだ。

2回目の上映にそれ確かめようと思う。
しかし、運の悪いことは続くものです。
その日も飲めない酒を朝まで飲んでいたため、寝坊してしまい、上映に遅れてしまう。
幸い、始まって間もない時間であったため、お客さんの反応を見ることができる。
彼らはよく笑う。反応は暖かい。作ってよかったな思う。
やはり、映画館で見ることは大切だ。

質問としては「映像の途中にある黒味の意味は?」「金のない中で、どうやってすばらしい俳優を使えたのか」「なぜ家族の問題を描こうとしたのか」「色味や質感はどのように作ったのか」「電車の映像が多用されているが特別な意味は」等々。

彼らは積極的で、終わった後も話し掛けてくる。
残念ながら、英語のできない私は愛想笑いをするしかなかった。
彼らの熱意を、言葉で返すことができなかった。そのことが歯がゆい。
今度は、英語をマスターして帰ってくるぞ。そう誓う。

すばらしい映画祭スタッフ、ボランティアの方々。映画に関心を持ったお客さん。
そこで出会えた、監督達。
貴重な体験と得られたとともに、自分の至らなさを痛感した。
仕事で忙殺されていた映画の熱が、またふつふつと湧き上がってくるのを感じた。

文:『single』監督 中江和仁