No.2:『ある朝スウプは』in 香港国際映画祭
日本国内のみならず、海外の映画祭でも上映される機会が多くなったPFFアワード入選作品&PFFスカラシップ作品。このページでは、そんないろいろな映画祭に招待された監督たちにも執筆していただいた体験記を掲載します。


左:上映後、質疑に応える高橋監督(中央)。右:会場ロビーにある上映日程。
アジア有数の規模と歴史を誇る香港国際映画祭。
今年で29回目を迎えるこの映画祭は、各国の映画祭で高い評価を受けた作品や過去の名作など、多彩なラインナップをそろえた国内外でも人気のイベントです。
3月22日から4月6日までの期間中には、41の国と地域から選りすぐりの240作品が上映され、高橋泉監督の『ある朝スウプは』が、そのなかのメインプログラムのひとつ、“アジア・デジタルビデオ・コンペティション”で上映されました。
3月27日午後5時15分、小雨がちらつくなか、香港科学館で行われた上映には幅広い年齢層の観客が次々と訪れ、上映前の会場は多くの席が埋まっている様 子。はじめに高橋監督による「日常が小さく小さく紡がれて、この映画ができました」という挨拶があった後、いよいよ上映スタート。…となるはずだったので すが、機材の不具合により上映が中断というトラブルに見舞われ、機材を交換。スタートは25分遅れ。しかし上映の遅れにも関わらず、多くの観客がそのまま 開始を待っていてくれました。
上映中は更なるトラブルもなく上映はつつがなく進み、静かなラストシーン、そして90分の上映が終わると場内からは拍手が。


ロビーにて、観客からの質問やサインに応じる高橋監督。
続いて観客からの質疑応答があり、「役者がとてもナチュラル。即興の演技だったのですか?」という最初の質問に「即興ではなく、会話はすべてオリジナルで 考えています」と答えた高橋監督。続く「狭い部屋のなかで撮るのは難しくなかったですか?」という技術的な質問には「撮っているうちにアングルが限られて しまって、それを同じに見えないように、押入れの中から撮影したり、逆行でシルエットを作ったりして試行錯誤しました。そこがいちばん苦労したところです ね」と返答。すると「とてもよく出来ていた。素晴らしい」との賛辞が帰ってくる一幕も。そして「よく分かっているはずの人が、所詮は他人だ、というテーマ に監督は同感しているのか、それともそれを超えた希望と捉えているのか」という質問に「最初から頭の中では“他人だとしても”という強い思いがありました」と作品への思いを語ったところで、ひとまず終了。
皆、新興宗教にはまる男とそれを食い止めようとする彼女という題材ながら、人と人とのつながりを描いた作品を興味深く見ていたようで、高橋監督は緊張した面持ちながらも、はっきりとした口調でそれに答えていました。
その後もロビーでは、「ストーリーは監督の実体験ですか?」などの質問を受け、サインをねだる人、一緒に写真をとる人などが高橋監督を取り囲み、風邪気味のうえに、前日香港入りしたばかりで具合の良くなかった監督が恥ずかしそうに応えている姿が印象的でした。
文:竹岡智代(映画ライター)

【レポート後日談】
このレポートの後、3月31日に行われた授賞式で、『ある朝スウプは』は見事グランプリを受賞しました!
左の写真は、トロフィーを受ける高橋監督です。