No.1:『ある朝スウプは』in ロッテルダム映画祭

海外レポート

日本国内のみならず、海外の映画祭でも上映される機会が多くなったPFFアワード入選作品&PFFスカラシップ作品。このページでは、そんないろいろな映画祭に招待された監督たちにも執筆していただいた体験記を掲載します。

PFFアワード2004 グランプリ&技術賞受賞作品『ある朝スウプは』in ロッテルダム映画祭 (オランダ:2005年1月26日~2月6日)

映画祭会期中、毎日刊行される映画祭の新聞「daily tiger」

映画祭会期中、毎日刊行される映画祭の新聞「daily tiger」。

『ある朝スウプは』の上映初日は、チケットソールドアウトでほぼ満席

『ある朝スウプは』の上映初日は、チケットソールドアウトでほぼ満席。

上映後、質疑に応える高橋監督

上映後、質疑に応える高橋監督(中央)。

ゴッホ美術館

ゴッホ美術館

表彰式当日。
ロッテルダムに来て初めての晴れ。『ある朝スウプは』は或る意味「敗北」を知らない作品だった。PFFでもバンクーバーでも、表彰式後には僕の周りを必ず取材やカメラのフラッシュが取り囲んでいた。

今回の表彰式も英語だったから、相変わらず何を言っているのか僕には分からない。ただ『The soup,one morning(ある朝スウプは)』と言う言葉は最後まで聞こえなかった。誰に言葉をかけられる事も無く、暗くて深い夜の中、ホテルへ向かう。初めての敗北。

日本に帰って来て、持って行かなかった携帯電話を開いた。広末(『さよなら さようなら』監督)から出発前にメールが来ていたらしい。僕らが二人で映画を造り始めた時、誰も理解してはくれなかった。その僕らの映画がロッテルダムで 流れていたんだなと、改めて思いを巡らした。本当に敗北だったのか?

「『さよなら さようなら』を自分の映画祭で広めたい」と言ってくれたディレクターがいた。映画祭の新聞で「自主映画の傑作」と褒められて少し照れた。「今まで観た中で 最高の作品」と言ってくれたお客さんがいた。チケットもぎりの青年が「来年も映画を持って来なよ」と小さく微笑んだ。上映後に話し掛けてくれた女性は涙を 拭っていた。「世界一短いエンドクレジット」と紹介された手づくりの映画。拍手に押されながらスクリーンの前でマイクを握った。席を立たずに僕の言葉を 待っているお客さん。
華々しい映画祭のほんの片隅だけど、確実に僕らの映画は誰かの感情にこびりついた。文化も言葉も違う僕らの間に、何か別の共通原語が一つの映画を通して生まれる瞬間。

アムステルダムのゴッホ美術館で、空も野原も鈍い水色に塗りたくった画の前で、僕は暫く立ち尽くしていた。
うん。つまりは、この重さなんだな。

文:『ある朝スウプは』監督 高橋 泉

注)『さよなら さようなら』:PFFアワード2004 準グランプリ受賞作品。高橋監督が脚本を手掛け、出演もしている。同作品の広末監督は、『ある朝スウプは』の主演俳優でもある。『さよなら…』もロッテルダム映画祭にて上映された。