【海外映画祭レポート】『石川君、行け!!』高階匠監督/ビシュケク国際映画祭体験記
自主映画コンペティション「PFFアワード2024」は、3月23日(土)まで作品を募集中です。
PFFでは、PFFアワードに入選した作品を、独自のネットワークで海外映画祭のプログラマーに紹介しています。
海外の映画祭で上映されることで、より広い世界の観客に作品を届けることができます。
さらに映画祭が監督を招待してくれたら、実際に現地で海外の映画祭を体験し、日本では出会うことのできない作品を観たり、海外の作家たちと交流したりと、次の創作にも繋がる豊かな経験になるでしょう。
今回は、去る11月にキルギス共和国で行われた、第1回ビシュケク国際映画祭の国際コンペティション部門に『石川君、行け!!』(PFFアワード2022入選)が選出され、招聘を受けて現地参加した高階匠監督に、見知らぬ土地で海外映画祭を初体験した様子をレポートしてもらいました。
海外の観客との出会いや、異国の文化で受けた衝撃、帰国後に得た実感など、貴重な体験談をぜひお読みください。
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ビシュケク国際映画祭体験記
(文・高階 匠)
昨年の11月に、PFFアワード2022入選作『石川君、行け!!』がキルギス共和国の「ビシュケク国際映画祭」で上映されました。
自分にとって海外映画祭自体はこれが初めてではなく、2020年のPFFアワード入選作『霞姫霊異記』もチリのバルディビア国際映画祭で上映して頂いたのですが、その時はコロナ禍の真っ只中。
もちろん現地にも行けず、自分で撮影したビデオメッセージを送っただけだったのですが、今回はなんと招待してもらえるという事で驚きました。
いつかは行ってみたいと思っていた海外映画祭ですから嬉しかったのですが、正直「キルギス」という国がどこにあるのかもよく知らなかった自分は少し怯えました。
ネットで調べてみると、中央アジアの国で伝統的に映画の歴史もあるとの事なのですが、そんな言葉も文化もわからない場所に、遠い日本のいち自主映画監督が1人で行って大丈夫なのか。
大学時代に家族旅行でハワイに行った程度の海外経験しかない自分にはなかなかに高いハードルでしたが、こんな機会も滅多に無いだろうと思い切って参加することにしました。
●出発~到着
先方に送ってもらった電子チケットを頼りに成田空港を出発。
成田→仁川(韓国)→アルマティ(カザフスタン)→ビシュケク(キルギス)というトランジットを含めてほぼ24時間のフライトです。
キルギスへの旅行客はやはり珍しいようで、成田のチェックイン窓口の若い男性職員も心なしか怪訝そう。不安が募ります。
アルマティ空港
ゲートを出ると、「Takumi Takashina」のボードを持った映画祭スタッフ兼通訳のアリナさんがすぐに見つけてくれました。
意外と日本語が流暢で、 聞くと以前交換留学生として大阪に三年いたとの事。
ドル→ソム(現地の通貨)の両替もしっかり見張ってくれて頼もしい限りです。
もう1人貫禄のある男性を紹介され、てっきり映画祭ディレクターかと思ったのですが、後で聞いたらタクシーの運転手でした(笑)。
他のゲスト数名と共にキルギスの首都・ビシュケクのホテルに到着。
ホテルの部屋が思いのほか大きくてキレイなのにも驚きました。
机の上には映画祭のロゴが入ったノートやマグカップ等のお土産にウェルカムお菓子まで置かれていて歓迎ムードを感じます。
ホテルの部屋
ウェルカムお菓子
●オープニングセレモニー
旅の疲れもあってぐっすり寝て、翌朝早く起床。
ホテルの朝食(甘~いミルク粥がクセになります)をとった後、せっかくなのでビシュケク市内を観光しました。
元々散歩は好きですが、異国の地でGoolgeマップを頼りにブラブラするのは初めてです。
キルギスは旧ソ連という事もあり、古い路地などに入るといかにも共産圏という建物が並んでいてたまりません。
特にミッ〇ーやド〇ルドっぽい何かが置いてある寂れた遊園地がお気に入りでした。
ビシュケク市内 レーニン像
遊園地
ホテルに帰ってから事前に指定のあった蝶ネクタイとスーツに着替えてオープニングセレモニーへ。
会場は色んな人がいて盛り上がっています。
聞くところによると今回の映画祭は大統領も公認の国家イベントだそうで、会場にはTVの中継車や取材陣も多く詰めかけていました。
キルギスは「青」がナショナルカラーという事で、レッドカーペットならぬブルーカーペットの上を歩いたり、言われるがままにカメラの前で司会者の方からの質問に答えたりとなんだか夢見心地でしたが、後でFacebookで配信されていた映像を見たら緊張しすぎてオドオドしている自分の姿がはっきり映ってしまっていました。
ブルーカーペットで取材を受ける
記念撮影
オープニングセレモニー
セレモニーの中身もさすが国を挙げてのイベントなだけあって豪華絢爛。
現地大物政治家のスピーチあり、現地有名歌手のパフォーマンスあり、現地有名女優の功労賞受賞式ありとアカデミー賞さながらでした。
終わった後の夕食会も歌あり演奏ありの大人数の宴でしたが、そうした場所で現地の人達と話していると「日本」という国の人気の高さを感じます。
もともとキルギスは親日度の高い国だそうですが、若者も年配の方も日本から来たと言うと眼を輝かせて話を聞いてくれました(映画祭スタッフの女子大学生達は全員『NARUTO』の大ファンでした)。
夕食会のディナー
すっかり疲れてホテルへ帰宅しましたが、規模の大きさと盛り上がりの凄さに圧倒されてしまって、ベッドに入ってもテンションが上がったまま。「そうか、これが海外映画祭というものか…」と思わず呟かずにはいられません。
●上映
プログラムの上映は全部で3日間。
自分が参加した国際コンペティションは10本の作品があるので1日3~4本の映画が上映されるのですが、ビックリしたのはアキ・カウリスマキ監督作『枯れ葉』が同じコンペにノミネートされていた事でした。
初日夜の上映と言う事で個人的に楽しみにしていたのですが、満員の客席も大ウケでその人気ぶりを実感しました(もちろん日本語字幕はありませんが)。
滞在中に他の国の監督とも少しずつ話せていたので、彼らの作品を観るのも新鮮でした。
インドのチャタジー監督は同年代くらいでモロにキアロスタミの影響を感じるフィクション+ドキュメンタリーの力作、イランで俳優をやっているというシャハーム監督はメタ要素の強いサイコサスペンス等、バラエティ豊かで個性的な作品ぞろい。
その他にはやはり中央アジアの作品が多く、全体的に長回しを好む傾向が感じられました。
割とカルチャーショックだったのが、キルギスの観客が基本的に上映中もスマホの電源を切らずに、平気で画面を見たり電話したりしている事です(笑)。
日本だとちょっと考えにくい鑑賞姿勢ですが、キルギスの古めかしい小さな映画館だとあまり気にならないから、文化というのは面白いものです。
そのクセ、上映後のQ&Aでは結構ズケズケと率直な感想や意見が飛び交っていて、作品によっては「あそこが長い」「ここがダメだ」と色々言われるので少し落ち込んでいる監督もいました。海外映画祭、恐ろしや。
『石川君、行け!!』の上映は最終日。
遠く離れた異国のスクリーンで自作の上映を観るのはなんだか不思議な気持ちです。
上映が終わり、Q&Aも終わるとお客さんが次々に声をかけてくれました。
どの人も「ユニーク」と声をかけてくれたので変な映画だと思われたことは間違いありませんが(笑)、良くつくってくれた、面白かった、おめでとうと言ってくれたのには感激しました。
上映ポスター
上映後のQ&A
一番印象に残ったのは、審査員の一人でルーマニアの映画批評家のエレナさんという方が「お前がアメリカ映画を好きなのは良くわかった(意訳)」と言ってくれたことです。
アリナさんの翻訳によると「もっとパワフルにアメリカ映画のパロディをやれ」との事。「カウリスマキは好きか?『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』は観たか?」と聞くので「I love it.」と答えたら意味深にニヤリと笑っていました(笑)。
上映前後には、よほど日本の自主映画が珍しいのか、現地のTVや雑誌・webメディアのインタビューも立て続けに受けました。
「日本の映画界は今どういう状態か?」
「日本は今後どうなる?」
など、一介の自主映画監督に答えられるはずもない質問攻めに何となくそれっぽい事を答えるしかありませんでしたが、結果キルギス国内でどう伝わっているのかはわかりません。
やはり海外映画祭は恐ろしい・・・。
インタビューに答える様子(左)
●帰国
上映も終わり、最終日は風光明媚な山などに連れて行ってもらう等、観光を楽しめました。
滞在中には他にも、散歩中にフラッと入った服屋で足元見られて高いシャツを買ってしまったり、現地映画祭スタッフの人達との部屋飲みでキルギスウォッカをさんざん飲まされたり、山からの帰りに渋滞に巻き込まれ結局クロージングセレモニーには参加できなかったりと色々あったのですが、どれも忘れる事のできない思い出です。
受賞もなりませんでしたが、カウリスマキと一緒に落選と考えるとむしろ誇らしい(笑)。
なにより一番来て良かったと思ったのは、「自分の映画を実際にスクリーンで観てくれた人が海外にいる」という事実を実感できた事です。
自分は自主映画をつくっている時にいつも、「果たして誰が観てくれるのだろうか?」という自問自答を繰り返しています。
当たり前ですが映画は観てくれる人がいなければ存在できません。
上映の機会があるかもわからないままの映画制作は、常に不安でいっぱいなのです。
でも少なくともこのキルギスには観てくれた人たちがいる。
面白いと思ってくれた人もいれば、つまらないと退屈した人もいた事でしょう。
その事実が、弱気な自分に勇気を与えてくれるような気がするのです。
空港で帰りの飛行機を待つ間、ふと上映後に審査員のエレナさんが熱く語ってくれた言葉を思い出しました。
通訳のアリナさんの翻訳では「よりパワフルにアメリカ映画のパロディをやれ」との事でしたが、本当は「よりパワフルにお前が好きなアメリカ映画をつくれ」という意味だったのではないか。
カウリスマキのように頑張りたいと言ったら、「お前はお前のやり方でやるのだ」と言ってくれました。
いまさらその意味に気がつき、わかってくれる人はいるんだと思うと胸が熱くなります。
今後も、彼女の言葉に従おうと思います。
最終日に訪れた山