国際映画祭の使い方 その①映画祭出品の注意点

昨年11月の「PFFin神戸」にて、世界の映画状況という鼎談付き上映を行った際に、
国際映画祭への参加についてお話しできる時間がもっとあったらと残念な気持ちが残り、追ってこのブログでフォローできればと考えてきました。
そこからはや4か月・・・あっというまに時が経ち、1月のロッテルダム、2月のベルリンという恒例の国際映画祭参加体験を交え、海外の映画祭に参加することについて~色々な脱線も起きそうですが~、数度に分けて書いてまいります。

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PFFアワード2014『丸』鈴木洋平監督
ロッテルダム映画祭 International Film Festival Rotterdam には、20年ほど通っています。実は本年は、参加をやめようと考えていました。2月のベルリン映画祭 Berlinale / Berlin International Film Festival で共同企画の8mm映画特集 Hachimiri Madness: Japanese Indies from the Punk Years を行うため、ベルリンに長めの滞在を計画しており、ホテル暮らしの日々を逡巡したからです。しかしロッテルダムの映画祭ディレクターがオランダ人プロデューサーのベロ・ベイアー氏に交代し新たな試みの数々を行うらしいこと、急きょ決定した「日本のネオノアール特集」の中で、PFFアワード2014入選の『丸』が上映されることなどから、ぎりぎりで参加を決めました。

ロッテルダムは、初体験者に向けていくつかあるお薦め映画祭のひとつです。
映画祭を楽しむ、という部分では、街と映画祭のほどよい規模、上映作品の多彩さ、会場スクリーンの日本では体験の難しい大きさ、最先端システムによる入場チケット入手の気軽さ、多少の遅延やトラブルをゆったり受け止める観客とスタッフのリラックス感、上映会場や映画祭事務局ビルに漂う、一日中酔っぱらっている感じの高揚感&パーティー感。エッジの効いたいろいろなデザインワークも、高揚感に貢献しています。全体的にindependentをバックアップする空気と楽しさに満ちているのです。
また、映画祭を足場に、自分のプロジェクトを売り込む場所としての機能も充実していますので、映画祭を「体験」や「息抜き」あるいは「ご褒美」というものではなく、「営業」の場所として使いたい人にも、多くのチャンスが待っています。出会いの場である企画マーケットの「シネマート」もありますし、巨大な映画祭に比して、アポイントメントをとるのも容易です。

私が海外の映画祭に参加する際は、その目的や活動が、大きく3つのケースに分かれます。
この3つが、重なっていたり、個別だったり、時と場合によって変わります。
1:PFFアワード作品やPFFスカラシップ作品の出品者として参加
2:PFFのプログラマーとして参加
3:審査員あるいは何らかの講演など、ゲストとして招かれる。

1の場合、各映画祭の作品や監督の扱いについて学ぶことになります。通訳やゲストケアの篤い映画祭はどこか?その監督の次作へのチャンスに繋がりやすい映画祭はどこか?私の場合「ノーバジェットと言っていいインディペンデント映画にとって"良い映画祭"とは?」という視点で映画祭をみることになります。
そして、21世紀に入り、「プレミア」の縛りが苛烈になってきたことは、出品映画祭を決めるに際し要注意です。

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第10回PFFスカラシップ作品『空の穴』熊切和嘉監督
20世紀は、緩かった。ロッテルダムで上映される映画も、ベルリンのコンペ部門でなければ出すことができました。
PFF作品でも、『空の穴』は、両方の映画祭に出品されています。
インターナショナル、あるいはワールドプレミアに対する厳しい掟がコンペ以外でも聞こえてきたのは、カンヌくらいで(それでも、河瀬直美監督の『萌の朱雀』は、ロッテルダム出品のあとカンヌの監督週間に招かれています)、今のようにキリキリしていなかった映画祭世界。
現在では、どんなケースであろうと、A級映画祭を標榜する映画祭は何かとプレミア合戦です。インターネットでの検索が容易になったことで、隠し事ができないので、誤魔化しも出来ません。
では、何故プレミア合戦がヒートアップしているのか?色々な映画祭で聞いてみました。
答えは驚くほど同じ「スポンサー」に向けて、です。
スポンサー営業で保障すること。それはプレミアと豪華なスターの歩くレッドカーペットとニュースになる告知効果。わかりやすい3つの項目です。映画のプレミアとは、つまり、映画祭の力の象徴、と、そういう論理になっているようです。
というわけで、出品の際は「その映画祭に出すことで出せなくなる映画祭」について注意が必要です。また、英語はできることが前提に益々なっている映画祭世界ですから、通訳の有無を確認することも重要です。自分で用意しなくてはならない映画祭も珍しくありません。
「映画祭はほとんど何もしてくれない」という前提での準備が必要なケースのほうが多い、くらいの認識をしたほうがいい昨今です。

2の場合、プログラマーとしての参加の場合は、その場でプロデューサーやエージェントに会える映画祭は便利です。いえ、その前に、最新映画を大量にみることができる映画祭が重要です。
具体的には、マーケットを運営しているベルリンやカンヌ。マーケットではないですが、ほぼそういう位置づけの、ベネチア出品映画含め大量の最新映画を上映するトロントなど。
プログラマーとして映画をみるときは、配給会社など映画の買い付けの為に参加する人たちに近いのかもしれません。映画祭の登録と、マーケットの登録をどちらもして、一日に7作品くらいをはしごしている映画祭プログラマーたち。加えてプレスの登録もして(映画祭上映で最優先扱いになるケースが多い)、3枚のパスを下げて回っている人も珍しくありません。
PFFはいささか方向が違うので、そこまでの映画探しは必要ないと、数度体験して学んだ私ですが「ひたすら映画を観る」という場所の機能が追及できます。
更に、プレス向けに、見逃した作品をみることのできるビデオブースが用意されており、そこで一日中みることや、映画祭出品作品を業界の登録者向けに配信するサービス会社も存在していますので、映画祭終了後も果てしなく最新映画をみる方法は拡がっています。
そうです。映画をスクリーンでみない、PC画面でみる、という行為は、一般よりも業界で先に定着しているのではないか、と。ここでもスクリーンで観ることに拘る人間は、マイノリティになりつつありますが、PFFはやはりスクリーン上映に拘ります。映画は個人的な体験を多くの人と同時に行うところが、そのメディアとしての面白さ、強さだからです。

長くなってしまいました。明日、その②としてベルリンのことをお伝えします。