桝井省志氏×小川真司氏×川村元気氏「プロデューサーに聞く どこを目指し、誰と共にすすむのか」(vol.1)

インタビュー

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登壇:桝井省志氏(以下、桝井)、小川真司氏(以下、小川)、川村元気氏(以下、川村) 
進行:荒木啓子PFFディレクター(以下、荒木)

第29回東京国際映画祭の特別提携企画として開催したPFF特別セミナー「プロデューサーに聞く どこを目指し、誰と共にすすむのか」。1977年以来、自主映画の監督を紹介し続けてきたPFFですが、その監督たちの先の道をつくる“プロデューサー”の重要性を、改めて紹介したいと考えた企画です。当日は、現在第一線でご活躍中の3名のプロデューサーをパネラーにお迎えし「取材なし」のクローズドな空間でできるだけ忌憚のない、具体的なお話しを、2時間を超え展開していただきました。 今回のPickUp!では、ご登壇いただいた桝井様、小川様、川村様のご許可をいただき、その一部をご紹介します。自主で映画をつくるとき、その設定する「目標」が見えにくくなっている現在、これから誰と、どこを目指して行くのか、は多くの自主映画監督たちにとって、火急の課題ではないかと感じています。その「目指す先」を共に歩めるプロデューサーと出会うために、まずプロデューサーの考えていることを、知る機会となれば幸いです。

監督を探す方法

荒木:東京国際映画祭とPFFとで何か企画をということで、いろいろ考えました。私たちの映画祭PFFでは、これまでに映画監督の体験を聞くことは何百回もやってきました。今回は、映画をつくるうえで大きな要であるプロデューサーに、どんな映画監督と一緒に組みたいと思うのか、共同作業としてどんなことをしていくのか、今ご活躍中のプロデューサー3名にご登壇いただいて、ざっくばらんに語っていただこうと思います。周防正行監督や矢口史靖監督と長年組んでいらっしゃる桝井省志プロデューサー、『ピンポン』(02年)、『ジョゼと虎と魚たち』(03年)、『ノルウェイの森』(10年)、『トイレのピエタ』(15年)など数多くの個性的なヒット作を手がける小川真司プロデューサー、2016年は『君の名は。』、『怒り』、『何者』を手がけた東宝の若き名プロデューサーであり『世界から猫が消えたなら』、『四月になれば彼女は』など小説家としても注目される川村元気プロデューサー。この3名にご登壇いただきます。


左から桝井省志氏、小川真司氏、川村元気氏

桝井:今や映画業界とその周辺は、多くの映画監督や予備軍で溢れ返っているように思われます。川村さんは大活躍されていますから、企画を売り込まれる機会がたくさんあるのではないですか。

川村:いや、ほとんどないんです。

小川:そうなんですか? 自分の企画が多い?

川村:そうですね。

小川:僕は人の企画をやることが多いですね。

川村:映画監督に言っているのは、長編を見せて欲しいということです。短編だと判断しにくいんです。35ミリフィルムの短編よりも、デジタルでいいから80分以上のものを観ないと判断できない。

小川:それはよくわかりますね。川村さんは特に東宝のプロデューサーだから、メジャー作品を作れるようするに、物語がしっかりした作品を作る力があるかどうかどうかというのは短編だとわからないですものね。

川村:一方で、今やりとりしている30代のアニメーション監督2人は、短編しかつくっていない。でもインターネットでその短編を観て、すごい天才だと思って、自分から連絡しました。ひとりは31歳の女性、もうひとりは32歳の男性です。とにかく、つくったものがすべてで、企画書だけもらっても判断のしようがないんです。

桝井:私は、その昔PFFの最終審査員をさせていただいたことがあります。

荒木:3名とも、最終審査員をお願いしたことがあります。

桝井:私の年は、李相日監督が『青~chong~』でグランプリを獲得した年(2000年)で、その彼が今第一線で活躍されているのが嬉しい限りです。その審査のときを思い出すと、長編でだらだら2時間も3時間もある作品を見せられるのが恐怖でした(笑)。長編でないと力量がわからないというのは、全体の構成力とか脚本の力とかという点で確かにそうですが、短編は監督としてのセンスを知るうえではとても参考になりますね。文化庁の「ndjc.若手映画作家育成プロジェクト」に3年携わりましたが、撮影機材と制作費5万円を渡して1週間で5分の短編を撮ってもらいそれを審査するのですが、これが面白いほど作家の個性がよく出るんですね。

荒木:監督の個性と自分が合うかどうかというのがプロデューサーにとっては重要なことになりますか?

小川:根底にはありますね。監督とプロデューサーって、ずっと付き合っていかなければいけないので、やっぱり、この人と一緒に仕事したいとか、一緒にやっていると自分が啓発されるとか、どんな引き出しがあるのかとか、そういうのがないとなかなかやっていけないですよね。

桝井:私なんかは、仕事をしている監督がそんなに多くないですから、それこそ結婚相手じゃないですけど、気の合う人とだけ一緒にやっています。もちろん気が合うからといっても監督とプロデューサーの関係ですから当然ぶつかることはありますから、尚更やっぱり人柄とか相性というのが私にとっては大切ですね。

小川:桝井さんは、同じ監督と何本もやられているので、たぶん、性格が合わないとできないことでしょうね。1本だけなら出来るという監督もいますが、大変ですよね。

荒木:それは『ノルウェイの森』(10年)のトラン・アン・ユン監督のことでしょうか。

小川:いや、まあ(笑)。

桝井:いろいろ噂には聞きましたが、大変なご苦労をされたそうですが。

小川:いや、でも、彼でしかつくれない映画というのがあって、才能はありますから。

桝井:小川さんも川村さんも、勇気のいるプロジェクトに果敢にチャレンジされていて、すごいなって思います。

荒木:川村さんは、アニメーションの監督をインターネットで見つけたとおっしゃいましたが、いつもそうやって探しているのでしょうか?

川村:アニメーションが好きとか漫画が好きとか小説が好きとか自主映画が好きな人たち。そういう人たちから教えてもらった作品を読んだり観たりして、面白いと思ったら自分から連絡します。僕の場合は、本人の性格よりも、その人がつくった映像で直感的に好きかどうかで判断していますね。

荒木:そうして作者に会ったとき、その先に進める判断材料は?

川村:2つハードルがあると思います。ひとつは、本人がやりたくないというケースが最近はあるんです。例えばニコニコ動画で映像を発表していれば楽しい、長編映画には興味がないというケースがあります。そういう人を無理にメジャーに引っ張らなくてもいいと思うので、そこで終わりです。もうひとつは、「実は映画をやってみたかった」というケース。僕はそこからえんえんと雑談を交わします。半年から1年ぐらい、ただ雑談を交わして、この人は本当にやりたいことがあるんだと思えたら、「じゃあ一緒に長編をやりましょう」ということになります。その雑談のなかで、僕も自分のアイディアを出しますが、そこでラリーが続いて話が広がっていけば、この人と一緒にやったら面白くなると確信していく感じです。

荒木:それも一種の相性ですよね。ということは、監督とは、桝井さんのように、私生活でも仲よくなっていくわけですか?

川村:僕は私生活で親しくなるというより、仕事を一緒にする相手だと思っています。

荒木:小川さんはどうですか?

小川:僕はたぶん桝井さんと川村さんの中間でしょうね。僕の場合は、新人監督と組むことが多いのですが、『トイレのピエタ』(15年)の松永大司くんとか、『ピンポン』(02年)の曽利文彦さんとか、突出して才能があるけれども長編映画の経験がまだない、そういう人とは自分がゼロの地点から入ることで一緒に作品をつくっていくことになる。そうすると、桝井さんがおっしゃったように、性格が合う合わないは、けっこう大きく影響しますよね。