山下敦弘監督×深田晃司監督「映画の醍醐味は、ナチュラルと虚構のバランス」(Vol.1)

インタビュー

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朝日新聞紙面に掲載された第38回PFF特別対談 山下敦弘監督×深田晃司監督「映画の醍醐味は、ナチュラルと虚構のバランス」を、紙面では掲載できなかったエピソードを追加して特別に掲載!PFFディレクター荒木啓子が、最新作の公開迫る自主映画出身の山下敦弘監督(『オーバー・フェンス』)、深田晃司監督(『淵に立つ』)に「映画づくりの面白さ」を伺いました。

日本映画の最前線

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『オーバー・フェンス』

監督:山下敦弘/脚本:高田亮
出演:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太
9月17日よりテアトル新宿ほか全国ロードショー
http://overfence-movie.jp/
© 2016「オーバー・フェンス」製作委員会

家族を顧みず、妻に見放された白岩は故郷の函館に戻るも、実家には帰らず、職業訓練校に通い、惰性の日々を過ごしていた。ある日、スナックで鳥の求愛ダンスを踊る不思議な存在感のホステス・聡(さとし)に出会うが…。壊れかけた男と女の再生をのびやかに美しく描く。

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『淵に立つ』

監督・脚本・編集:深田晃司
出演:浅野忠信、筒井真理子、古舘寛治
10月8日より有楽町スバル座ほか全国ロードショー
http://fuchi-movie.com/
© 2016映画「淵に立つ」製作委員会/COMME DES CINEMAS

郊外で小さな工場を営む夫婦とその一人娘。ある日、夫の旧い知人だという男がやって来て、奇妙な共同生活が始まるが、やがて男は残酷な爪痕を残して去っていく。それから8年。夫婦は男の消息の手がかりをつかむのだが…。


荒木D:この秋、日本映画が気になります。本日お越しいただいた山下監督の『オーバー・フェンス』と深田監督の『淵に立つ』、李相日監督の『怒り』や西川美和監督の『永い言い訳』、他にも称賛の声の高い映画がたくさん。PFFは映画監督を目指す人のための映画祭ですので、今回、山下監督と深田監督という、監督としては異なるタイプのお二人にお話をうかがうことで、映画監督とは、と、そんな漠然としたことが、形になってみえてくるような時間になればと思っています。

深田監督:僕は、山下監督の2002年作品『ばかのハコ船』に、なんて面白くて笑える映画なんだと衝撃を受けて、それ以後の作品もほとんど拝見しています。『オーバー・フェンス』も、ある部分、すごく山下監督らしいと感じました。佐藤泰志さんの小説による「函館三部作」の前2作『海炭市叙景』と『そこのみにて光輝く』に比べると、いい意味で肩の力が抜けていて、ラストの終り方も音楽もすごく気持ちがよかったです。すでにタイトルによって予告されているラストにキチンと落としてくれた感じで。

山下監督:実は、『ばかのハコ船』『松ケ根乱射事件』の2作品は、あまりにも自分の癖が出すぎていて、今では恥ずかしくて見ることができないんですよ…佐藤泰志函館三部作は『海炭市叙景』の熊切和嘉監督も『そこのみ~』の呉美保監督も、僕と同じ大阪芸大出身で、自分がその最後を締めくくるのはプレッシャーもありました。プロデューサーから企画をいただいた段階ですでに脚本が出来上がっていて、スタッフのほとんども『そこのみ~』と重なっていて、だから僕の作品というよりもスタッフとキャストの全員野球、チーム全体でつくった、その全体感が格別に強かったと思います。だからこそうまくいったし、自分がこれまでつくったことのないタイプの作品になったという手ごたえを得ました。

深田監督:スタッフを信頼して、ある程度の部分は任せたわけですね。僕の場合、自分のオリジナル企画だし、自分で脚本を書いているし、ややもすると自分のちっぽけな脳みそがつくった狭苦しい箱庭みたいな世界になってしまう。それを突き崩してくれるのは、やっぱりスタッフや俳優の世界観や表現力だと思います。

山下監督:『淵に立つ』の古舘(寛治)さんは、いつもとは違う役柄ですね。最初、彼の役をどう見ていいのかわからなかったんです。笑っていいのか、シリアスな役なのか。

深田監督:古舘さんがこれまでやってきた役柄とは逆の、受け身のキャラクターでいこうというのがコンセプトのひとつでした。もともと、『淵に立つ』の構想は2006年に出来ていて、でも予算の都合などで実現が難しかったので、その構想から派生して撮ったのが『歓待』で、いわば『淵に立つ』の前半部分の話、怪しい男が現れてひとつの家族を壊してしまうまでを描きました。『淵に立つ』は、その後の話がむしろメインです。『淵に立つ』で浅野(忠信)さんが演じる怪しい男を『歓待』で演じたのが古舘さんで、古舘さんは『淵に立つ』では家庭を壊されてしまう男を演じています。

山下監督:その後半部分がめちゃくちゃシリアスで重い話になっていて、驚きました。

深田監督:そうですね、人には“黒い『歓待』”と説明しています(笑)。

山下監督:結果的に、今まで見たことのない古舘さんになっていますね。

深田監督:そう言ってもらえると嬉しいです。

荒木D:何年も一緒にやってきた、いわば分身のような俳優と新たに組む俳優たちが混ざっていると、バランスをとるのが難しくはないですか?

深田監督:いや、今回は幸いなことに、浅野さんも筒井(真理子)さんも、自己がしっかり確立された俳優さんなので、パワーバランスが変になることはなかったです。特に筒井さんも演劇出身ということもあって、古舘さんと濃密な演技論を闘わせていて、それを横で浅野さんが楽しそうに笑って見ているという感じでした。それはほぼ映画のなかの関係性と同じで、浅野さんは「ほんとに仲の悪い夫婦みたいですね」と言っていました。

山下監督:演技論を闘わせる…僕も以前、古舘さんに出ていただきましたが(『松ヶ根乱射事件』『マイ・バック・ページ』)、演じるにあたっての独特のこだわりがある、面白い方ですよね。

深田監督:古舘さんは、身体的にリアルな状態であるということを最優先に考えているから、カメラの都合だとか撮影上のつまらない約束ごとがいかにそれを阻害しているかがよく分かる(笑)。それに、こちらがきちんと説明できなければ簡単には納得してくれない。欧米の多くの俳優がそうであるように、がんがん疑問をぶつけてきてくれることで、映画が僕自身の狭い世界から広げられるところがあるし、説明能力が鍛えられます。新人監督はみんな、一度は古舘さんを経験したほうがいい(笑)。

山下監督:古舘メソッド(笑)。