鶴岡慧子監督×小川努カメラマン×柳島克己撮影監督「デジタル撮影で手に入れた新しい表現の選択 vol.01」(vol.1)

インタビュー

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登壇:鶴岡慧子監督(以下、鶴岡監督)、小川 努カメラマン(以下、小川氏)、柳島克己撮影監督(以下、柳島氏) 
進行:荒木啓子PFFディレクター(以下、荒木D)

2015年2月に開催したイベント【CANON EOS SYSTEM SPECIAL SEMINAR「PFF映画製作特別セミナー vol.1」~第23回PFFスカラシップ作品『過ぐる日のやまねこ』の撮影テクニックについて~】。『過ぐる日のやまねこ』の鶴岡慧子監督と小川 努カメラマンに加え、小川カメラマンの師であり日本を代表する撮影監督である柳島克己氏にもご登壇いただき、同作を題材に、具体的なデジタル撮影体験を実例とした撮影テクニックについてお話しいただいたきました。

自分の色を模索し、デジタルにしか撮れない画を狙った

『過ぐる日のやまねこ』監督:鶴岡慧子

東京での生活に行き詰まった時子は、夏のある日、突発的に深夜バスに乗って田舎町へ向かう…。かけがえのない人を失った喪失感に対峙する姿を鮮烈に描き出す。2016年4月27日(水)DVDリリース。
http://yamaneko-movie.com/


荒木D:『過ぐる日のやまねこ』は第23回PFFスカラシップで撮影されましたが、監督はこのチャンスを使って何をやりたいと思いましたか?

鶴岡監督:2012年から1年以上かけて脚本を練っていくなかで、生まれ育った長野県上田市でふるさとを撮り、ふるさとに居る人たちを描きたいと思いました。節目になる作品をふるさとで撮ることが自分にとって重要だったと思います。

荒木D:なぜ小川さんに撮影をお願いしようと思ったのですか?

鶴岡監督:東京藝術大学同期の小川さんとは既に一緒に2本撮っていて、私は小川さんがどこにカメラを据えるのか、ということに非常に興味がありました。

小川氏:その土地にしかない良さが出せたら、特に映画前半の東京パートとの違いを出せたらと意識して、撮影に臨みました。鶴岡さんは画に対する指示の仕方が放任主義なので撮影中は好き勝手やらせてもらえました。

荒木D:柳島さんは作品をご覧になっていかがでしたか?

柳島氏:最近のカメラは性能がすごく良くなり見たままに映ってしまうのですが、本作は最近稀に見る、フラットな画調で昼間でも黒が浮いているような感じで、作為的なところを感じました。このような画調は最近なかなかないですね。

小川氏:フラットという表現を柳島さんが言われましたが、フィルムとデジタルを比べるとフィルムの方が再現できる光の階調が狭くコントラストが強い=フラットな画調なのですが、いまのデジタル性能の方向性としては、デジタル本来の性能を封じてわざわざ階調を少し狭くして、そのフィルムの感じを出すという手法が主流です。今回使用したCANON C300は、もちろんフィルムの再現ということに力を注いではいるけれども、それ以上にレンズに入ってくる光量のデータを明部の側にも暗部の側にも広く取った上で、かつその階調の広さを素直に映像に吐き出してくれるようなカメラなんです。なので、カラコレの段階でわざわざフィルム調に戻すというよりはどちらかというと、広い光の出方をそのまま出せればいいのかなと思いました。デジタルカメラにおけるフィルムの再現技術というのも発展してきていると思うのですが、それをやっていても正直、昔の映画に勝てないな、というのが自分の中にあり、自分なりの画を模索していく中で、デジタルにしか撮れないフラットな画で撮るということを、鶴岡さんには好き勝手やらせてもらえたかな、と思っています。


左から小川努氏、鶴岡慧子監督、柳島克己氏

荒木D:鶴岡さんからは、どのように撮りたいと伝えましたか。

鶴岡監督:冒頭の部屋の中に入ってくる光を柔らかい感触にしてさらにスモークを焚いて、差し込んでくる光の形を出したいね、と。

柳島氏:スモークは何を焚いていて、塩梅はどのような感じでやられたんですか?

小川氏:舞台用のスモークマシーンですね。もしシーンが映画の中で独立しているのであればもっとスモークを焚いてもいいなと思うのですけれど、すぐ外に出て芝居をするシーンもあったので、それをやってしまうと他のシーンとの釣り合いが取れないんじゃないかと思って、微かに出るくらいに抑えました。

柳島氏:フォグフィルターという、レンズの前に掛けて霞が掛かったような効果を出すフィルターを入れてたわけですよね?強さが1番~5番までありますが、どれくらいの強さのものを入れていましたか?

小川氏:レンズに入ってくる光の具合によって入れ替えていました。光がこっちに向いている場合には、そこまで効果が強くないレンズフィルターにしないとスモークが極端に派手に出てしまいますけれど、光がカメラに向いていないときにはむしろ強めのものを入れないと画面全体に効果が回らない、と。撮影する段階でときにレンズの前にフィルターを付ける、現場でスモークを焚くといった、昔からやられている方式で、CGなどの撮影後の後処理ではなく昔からの方法を色々試してみながら自分なりの味付けでやっていました。

カメラサイズによって助けられた撮影スタイル

小川氏:撮影現場の山小屋が本当に狭く、カメラを置ける位置が4か所ぐらいしかなかったため、撮影と照明を兼ねた5人くらいで流動的に撮影していました。カメラには基本的に私と助手が付いていました。

柳島氏:でも凄く広さを感じて、違和感はまったくなかったね。

小川氏:それはちょっと頑張りました(笑)。

鶴岡監督:ドリー(※移動撮影用の台車)も軽いものにして。その点でもカメラに助けられましたね。

小川氏:カメラ自体が性能の高さに比べてコンパクトだったのが救いで。この小屋が舞台になるシーンが多かったので、撮り方が一辺倒になってしまうとキツいな、というのがあって。

柳島氏:カメラのオペレートはモニターを見ながらやっていたんですか?

小川氏:できるだけファインダーを覗いてましたね。

柳島氏:撮影される方は、撮影するとき、やっぱりモニターだけだと細部が見れなくなったり、妙にカメラと被写体の距離感が曖昧になっていくので、出来たらファインダーを見て撮影した方が良いと思いますね。

小川氏:そうですね。画面の広さの問題もそうですし、照明のバランスの問題もあって、夜の撮影でカメラに付属したモニターを基準にしてしまうと、撮影現場では非常に明るく映っているんですけれど、撮影したデータを後で見ると結構暗かったりするので。