No.44:海外で上映するために、必要だったいくつかのこと(2/3)

海外レポート

海外で上映するために、必要だったいくつかのこと

文:鶴岡慧子(PFFアワード2012『くじらのまち』監督)

HDcam作成

こうして、英語字幕を映像に乗せるまでの作業は、手作り感満載でなんとか完了しました。続いての項目は、<HDcam作成>です。ここが、難関でした。おそらく映像作品のパッケージに関してしっかり学ばれた方にとっては基礎の基礎、難関というのはおかしいところかもしれませんが、当時あまりに無知だった私は、ここで大きく躓き、周囲にたくさんご迷惑をおかけすることになったのでした。

HDcamとは、ご存知の方多いと思いますが、HD映像を録画できる、大きなVHSのようなものです。釜山国際映画祭で上映するには、上映素材としてHDcamもしくはDCPを提出する必要がありました(つまり、ブルーレイやDVDだと上映できないという事です)。
DCPはまずつくれない、と思った私は、HDcamを用意します、と返事をし、早速HDcamを購入したあと、当時通っていた大学院の、編集専門の方に助けて頂きながら、本編をHDcamに録画しようと何度かトライしてみました。ただ、何度やっても、映像にブレが出てしまいます。成功したかな、と思い、一度釜山側に提出した後も、不良があると連絡を受け、返される事態が起きてしまいました。
ここで私がそもそも失敗していたのは、マスターのQuickTimeの書き出し方法です。専門的なことになるので詳細は割愛しますが、作品が完成した時点で一本化されたマスターデータを用意すること、もっと言えば、英語字幕が入ったものと、入っていないもの両方のマスターデータを用意しておくと、あとあと非常に楽です。この基本をしっかり押さえておかなかった私は、結局素材をラボに持ち込み、プロの手を借りてマスターのHDcamをつくってもらったのでした。
なんとかHDcamでマスターを用意できた『くじらのまち』は、その後世界中を回って、各地で上映してもらうことができました。作品を広く展開させたいと考えている場合は、やはりHDcamもしくはDCPで上映素材を用意しておくと、基本的にどこの映画祭や興行にも対応できます。

フランスのドゥーヴィル・アジア映画祭での鶴岡監督(写真中央)。