No.37:『くじらのまち』in 第15回ブエノスアイレスインディペンデント国際映画祭

海外レポート

日本国内のみならず、海外の映画祭でも上映される機会が多くなったPFFアワード入選作品&PFFスカラシップ作品。このページでは、そんないろいろな映画祭に招待された監督たちにも執筆していただいた体験記を掲載します。

PFFアワード2012 グランプリ&ジェムストーン賞受賞『くじらのまち』in第15回ブエノスアイレスインディペンデント国際映画祭(開催:2013年4月10日~21日)

ブエノスアイレスにある大統領府。

ついに地球の裏側へ

文:『くじらのまち』監督 鶴岡慧子

2013年4月10日~21日まで開催された、第15回ブエノスアイレスインデペンデント映画祭(通称BAFICI)の国際コンペティション部門へ、『くじらのまち』を出品させて頂きました。こちらもドゥーヴィルの時と同様、ベルリンから帰国後すぐに連絡を頂き(ベルリンでの上映で、BAFICIのプログラマーの方が『くじら~』を観てくださったのでした)、初・南米での上映に心躍りました。ドゥーヴィルでの経験でちょっぴり自信がついたのか、始めは地球の裏側まで一人旅してやる!のつもりでしたが、今回はなんと、父親がひょっこり挙手し、同行することになりました。私たちの滞在は、4月16日~21日まででした。

鶴岡監督とお父様。

会場に設置されたBAFICIの看板。

4月15日夜成田を出発し、ドバイ経由で30時間かけてアルゼンチンまで。途中、今、日付はいつなんだか、今食べている機内食は、いったい夕食なんだか朝食なんだか分からなくなり頭が混乱。そして何よりエコノミー症候群にならないかと心配していましたが、意外と元気に現地入りしました。夜に到着したので、初日はそのまま送迎車でホテルまで送って頂き、休みました。

翌日は朝から父と二人で映画祭事務局を訪れ手続きを済ませたり、会場であるヴィレッジ・レコレータを訪れ、滞在中通訳を務めて下さった小木曽モニカさんとお会いしたり、プレススクリーニングで上映をチェックしたりしました。プレス試写へ訪れた男性は、私の横に立っていた父に向かって「おめでとう!」と力強く声をかけていました。誰だってそりゃ父の方が監督だと思います。

今回一般上映は3回行われましたが、全てこのヴィレッジ・レコレータが会場でした。とても綺麗なシネコンで、連日夜遅くまでたくさんの人でにぎわっていました。

1回目の上映は17日の夜に行われました。会場前で待機していると、どんどんお客さんが増えていき、客席はほぼ満席になりました。上映前に、ベルリンで私の作品を観てくださり、今回声をかけてくださったプログラマーの方の紹介で、舞台挨拶をさせて頂きました。上映後は、ティーチインがあり、たくさんのお客さんが手を挙げてくださいました。ベルリンで全く手が挙がらない、ということを経験し、「観た後すぐ感想言いにくいのよ」といろんな人に言われていたので(笑)、とても嬉しかったです。2回目の上映は18日の昼、BAFICI最後の上映は19日の夜行われ、全てに立ち会いティーチインをやらせて頂きましたが、毎回ほぼ満席、かつたくさんのお客さんが質問を出してくださり、どの回も本当に活気ある上映になりました。

アルゼンチンのお客さんは、非常に鋭い質問を投げかけてくれました。「どうして映画をあのようなラストにしたのか」「水がたくさん出てくるのはなぜ」「役者はどれくらい演出に関わって来ているのか」「大人が出てこないのはなぜか」「監督が伝えたかったことはなにか」「どういうバックグラウンドでこの映画は作られたのか」など、自分自身作品と改めて向き合うきっかけになるような、シンプルかつ明確な質問を受け、刺激あるティーチインになりました。

鶴岡監督と通訳のモニカさん。

観客の方々と記念にパチリ。

上映のない時は、アルゼンチンの様々な場所を観光することができました。毎度のことながら私は全く下調べゼロで現地入りしてしまったのですが、今回は父が入念に行きたいところを調べておいてくれたので、時間が許す限りいろいろな所を訪れました。特に印象的だったのは、「世界で2番目に美しい書店」と言われるEl Ateneoや、タンゴ発祥の地であるボカ地区、ラテンアメリカ美術館MALBAなどです。El Ateneoは、古い劇場を書店に改装した場所で、奥のステージだった場所がカフェになっており、本当にうっとりするほど美しい場所でした。サッカーでも有名な場所であるボカ地区の、中心地であるカミニートは、建物が様々な色に着色されていて非常にかわいらしい町並みの場所でした。労働者やアーティストなどが多く住む町で活気があり、食事をしながらタンゴを観ることもできました。その他にも、レコレータ墓地や、有名な花のオブフェFloralisGenérica、大聖堂カテドラル・メトロポリターナなど、美しく見応えのある場所がたくさんあり、充実した観光ができました。週末にはクラフト市や骨董市が開催され、たくさんの露店が立ち並び、買い物も楽しみました。ウォン・カーウァイ監督の映画『ブエノスアイレス』で有名なタンゴバー“バールスール”へは、昼間に訪れてしまったので開店前で店内は見れませんでしたが、周辺は映画の雰囲気を残していました。ヨーロッパとは少し違う、明るくエネルギッシュなところもありつつ、どこかしっとりとした影を背負っているブエノスアイレスの街が、すっかり気に入りました。

そして何より、今回のBAFICIの旅で一番大きな収穫だったのは、人との出会いです。通訳のモニカさんや、モニカさんのご友人でアルゼンチン在住の日系人の方たち、南米を旅していて、映画祭があるというのでたまたま『くじら~』を観てくださった方、また、『くじら~』の上映を観に来てくださったスペインのマルサル・フォレ監督や、スペイン、アルゼンチン、アメリカなど各国から集まった映画関係者の方たち、またBAFICIの審査員やプログラマー、映画祭スタッフの方たち。皆さん全員が本当に親切で、わたしも英語とスペイン語がうまく喋れないながらもなんとかコミュニケーションをとり、一緒に楽しい時間を過ごすことができました。

さてさてさて、ベルリン、ドゥーヴィル、そしてブエノスアイレスと、3本に渡ってレポートを書かせて頂きました。3つの旅を終え時間が経った今、レポートを書くにあたって旅を回想してみると、訪れた先々全ての場所でとんでもなく貴重な経験をさせて頂いたのだな、と、身の引き締まる思いです。魅力的な3つの土地を訪れて、吸収して来たすべてをこれからの制作の糧にして突き進むのみ、そして、大好きのなったあの場所を再び訪れ、皆さんと再会することができますように。新たな目標と、それに向かうための大きな大きな活力を頂きました。

3つの旅を支えてくださり送り出してくださった皆さん、温かく迎えて下さった現地の皆さん、同行してくれた家族、映画祭関係者の方々や旅を通して出会った全ての方々に心から感謝を。そして、改めて、作品と、作品をつくった仲間と、作品を観てくださった全ての方々に、心から感謝を。本当に本当に、ありがとうございました。