No.25:『僕らの未来』in 第30回バンクーバー国際映画祭

海外レポート

日本国内のみならず、海外の映画祭でも上映される機会が多くなったPFFアワード入選作品&PFFスカラシップ作品。このページでは、そんないろいろな映画祭に招待された監督たちにも執筆していただいた体験記を掲載します。

PFFアワード2011入選作品『僕らの未来』in 第30回バンクーバー国際映画祭 (カナダ:2011年9月29日~10月14日)

皆さんが滞在されたサットン・プレイスホテル前にて。写真左から、永野義弘監督、橋本和志さん、石井裕也監督、飯塚花笑監督、日向 陸さん。

9月30日のPFFアワード2011東京開催を終え、息もつかぬ10月2日。『僕らの未来』の監督、わたくし飯塚花笑と撮影中からいじめ抜かれすっかり痩せた主演の日向陸。そしてときどきクールに笑う『Recreation』の永野義弘監督、主演の橋本和志さん。この4人でバンクーバーに向け成田空港を出発。わたくしが出国できない騒ぎをしたことを除けば順調な旅立ちでした。ちなみに出国できない騒ぎとは…。映画祭の方で予約していただいていたチケットとわたくしのパスポートの名前が一致しなかったのです。『飯塚花笑(イイヅカカショウ)』という名前は本名ではないのですが、それが映画祭側には伝わっていなかったのですね。そりゃ当然出国できない騒ぎになります。まぁしぶとく事情を説明したらチケットを再発券してもらえたのですが…これは奇跡に等しいです。本当に危なかった。一緒にいた日向にはホントに心配かけました。

そんなこんなで騒がしく始まった旅ですが、10月2日。バンクーバー国際空港に無事到着(日付変更線をまたいだので10月2日を2度体験することとなる)。13時間のフライトで完全に時差ボケにしてやられたわたくしはこの日、ボランティアスタッフさんガイドのもと少しバンクーバーを観光した後すぐにダウンするのでした。

2日目の10月3日。時差ボケが治らず憂鬱な気持ちのわたくしどもはこの日、審査員のヤン・イクチュン監督や『エイリアン・ビキニの侵略』の主演、ホン・ヨングンさん等韓国勢と初顔合わせ。はじめ通訳の方にヤンさんのことを「ブレスレスのヤン監督です」と紹介され。「へぇー。どこのヤンさんだろう」って思っていたわたくし。しかし『Recreation』のお二人が「ブレスレス=息もできない」と閃き(さすがです)やっと目の前にいるヤンさんが『息もできない』のヤン・イクチュン監督だと理解したのでした。わたくしは愚かでした。何はともあれそこから喫煙所に行く度に韓国勢とつたない英語、韓国語、日本語を使って半ばボディーランゲージで会話をするようになり最終的に日向とわたくしはエイリアンビキニのホン・ヨングンさんと森林浴を楽しんだのでした。

Vancity Theatreでの飯塚監督をパチリ。

さてさて、ここからが本題。2日目にしてようやく『僕らの未来』の上映です。この日の午前中はバンクーバーの街を観光。それからVIFFの7つある上映会場の内の一つ、Vancity Theatre(『僕らの未来』『Recreation』ともこのシアターで上映予定です)へ移動。上映の前の回から乗り込んでフィリピン映画の上映を観ました。この回ではフィリピンの女優さんまで登場して会場はバンクーバー在住のフィリピン人でほぼ満席。凄まじい盛り上がり。そんな状況に「完全にアウェー戦だぜ」と非常に暗い気持ちになっていたわたくしです。とにかくバンクーバーのお客さんはリアクションが大きい。笑うときはとにかく笑う…ビビるときはマジでビビる。反応が超ストレート。文化の違いに驚きます。ちなみに英語がわからないのでわたくしは終始「おい何がそんなにおかしいのだ」といった感じだったのですが…。そんなわたくしですからこれからのバンクーバー滞在中、夜な夜なお食事やパーティーへと参加するものの通訳さんを介しての会話にもどかしさを感じることが多々。何度も英語の話せない自分に悔し涙を流すのでした。

で、話は戻り…ついに『僕らの未来』の上映。先ほど爆笑していたお客さん達はサーっと帰ってゆき、ちょっと違った雰囲気のお客さんが集まりだして来た会場。わりと落ち着いた雰囲気になり緊張した心を「どぉーどぉー」と落ち着かせます。ヤハリ何度上映しても毎度この時間は緊張します。海外ですから尚更。さて、いざ上映…と、その前に上映に際しての監督挨拶の時間。通訳さんと一緒に考えた英語での挨拶を…。へたくそな英語にお客さんに失笑されるもなんとか終えて上映開始。この日の上映はお客さんの反応を感じたかったので劇場内で自分の作品を鑑賞。で、会場内はどんな感じだったかというと、お客さんが泣くシーンも会場の雰囲気も日本の上映と変わらない。山形の田舎で撮ったマイノリティのお話ながら文化を越えて伝わったんだと思います。良かった良かった(安堵という気持ちですね)。

上映後のスピーチに立つ永野監督(右)と橋本さん。

授賞式の会場での一コマ。左から、ドラゴン&タイガー部門の審査員アン・ホイさん、同部門プログラマーのトニー・レインズさん、同審査員のヤン・イクチュンさん、サイモン・フィールドさん。

上映後には質疑応答。ここで聞かれる内容もだいたい日本で受けたものと同じ。ただただ、圧倒的に日本と違うのは質問者の数が多いこと。皆さん熱心に質問をぶつけて来てくれる。それと自分の感じたことを素直な言葉で伝えに来てくださるお客さんも多かった。この環境は本当に羨ましい。反応があるということは本当に嬉しいことです。芸術への興味関心の高さも伺えます。その他あえて日本での上映との違いを挙げるなら「日本のセクシュアルマイノリティへの配慮は?」みたいなちょっと映画とは離れた「日本についてのこと」を聞かれる場面が多々。「あぁわたくしは日本代表でこの場に立っているのだなぁ」……と感じる場面でした。ちなみに幼い頃のわたくしはサッカー日本代表に入るのが夢でした(どうでもいい)。何はともあれこんな感じで無事に一回目の上映を終えるのでした。

日が変わって、10月4日もまた『僕らの未来』の上映。前日よりは挨拶も質疑応答にも慣れ、なんとか無事に終える。10月5日からは『ハラがコレなんで』の上映で石井裕也監督がバンクーバーに到着。ここからちょいちょい喫煙所やパーティーの席でお話させていただいたりして…

そんな感じで『Recreation』の上映や(橋本さんは袴姿で登場)8本の取材があったり、バンクーバーの街を観光し楽しんだり、橋本さんがリスに出会って喜んでいたり、様々な国の人と出会ったり。バンクーバー滞在期間はあっという間に過ぎる。そして10月7日にはいよいよドラゴン&タイガー部門の授賞式。すごく短いがレッドカーペットもあってちょっとテンションが上がる。そして永野さんたち『Recreation』がドラゴン&タイガー部門のスペシャルメンションを授与し(すばらしい!)めでたい気持ちでバンクーバー滞在最後の夜を迎える。(間をだいぶはしょりましたが…)こうしてバンクーバーでの日々はあっという間に終わりを告げるのでした。

さて、それからそれから…。実はわたくしにとってここからが大変だったのでした。密かにバンクーバー滞在中からずっと具合が悪かったわたくしはバンクーバーから山形までの帰宅の道中についにダウン。日向におんぶにだっこ(お恥ずかしい)。そんな大変な状態でしたが、なんとか無事に帰宅。帰って体温を計ってみたら40度近い熱。思い返せばPFFにVIFF、と本当に濃い時間を駆け抜けた。この後は山形国際ドキュメンタリー映画祭での上映。そして京都造形芸術大学に短期留学(実は既に京都にいますが)。大学生生活へと戻ります。

総括的なお話になりますが…。わたくしはバンクーバーで鮭が必死に川を上流する姿を見ました。サーモンのステーキを食べました。下品な日本語を嬉しそうに連呼する韓国勢とワイワイしました。観客の皆さんや審査員の方々からわたくしの心をホットにする言葉をいただきました。日本との違いを感じました。どれも本当にナイスでハッピーな経験だった。バンクーバーに行って本当に良かった。今後の弾みになりました。これが何よりの収穫です。これからも頑張りますね。ただただそれに尽きます。またバンクーバーへもいきたい。頑張ろう。どうか見守っていて下さいね。

文:『僕らの未来』監督 飯塚花笑