No.17:『家族X』in 第61回ベルリン国際映画祭(前編)

海外レポート

日本国内のみならず、海外の映画祭でも上映される機会が多くなったPFFアワード入選作品&PFFスカラシップ作品。このページでは、そんないろいろな映画祭に招待された監督たちにも執筆していただいた体験記を掲載します。

第20回PFFスカラシップ作品『家族X』in 第61回ベルリン国際映画祭 (ドイツ:2011年2月10日~20日)

2011年9月24日からのロードショーを控える『家族X』は、昨年の完成以降、様々な映画祭にご招待いただきました。
その中で、実際に自分が現地での上映に参加した、ベルリン国際映画祭(ドイツ)、ブエノスアイレスインディペンデント国際映画祭(アルゼンチン)、全州国際映画祭(韓国)、それぞれの様子を体験記として報告致します。
いずれも初めての国ばかりで、出発前は楽しみと共に多くの緊張もありました。今後もPFFから、アワード作品、スカラシップ作品等で多くの監督達が海外へ向かわれることと思います。この体験記で少しでも映画祭の雰囲気が伝わり、現地の様子を知るための参考になれば幸いです。

『家族X』監督・吉田光希

ベルリン映画祭のメイン会場。

ArsenalでのQ&Aの風景。中央にいるのが吉田監督。

2月12日に成田空港をお昼の便で出発。ベルリンまでは直行便がないのでフランスを経由する。

シャルル・ド・ゴール空港までは約11時間のフライトだったが、緊張と興奮が入り交じって結局2時間ほどしか眠れないまま着いてしまった。初のトランジットも経験しながら、合計で約15時間かけて無事にベルリン・テーゲル空港に到着。到着ゲートにはきちんと映画祭スタッフが名前を掲げて待っていてくれていたので、ホテルまではスマートにチェックイン出来た。
2月のベルリンはとにかく寒いと聞いていたけど、出発前の東京も雪の予報が出るほど冷え込んでいたので、極端な寒さは感じなかった。

翌朝、先に現地入りしていた、同じPFFから参加の廣原監督率いる『世界グッドモーニング!』チームと合流(彼らはオランダ・アムステルダム経由でベルリン入りしたそうです)。一緒にホテル周辺と映画祭会場までの行き方をPFFディレクターの荒木さんに案内してもらう。
映画祭が用意してくれるホテルの最寄り駅(ビッテンベルグプラッツ駅)から、メイン会場や事務局が集まるポツダムプラッツ駅までは地下鉄で5駅の距離で、15分程で到着する。

事務局でカタログとパスカードを受け取るといよいよ映画祭に来たことを実感し始めた。パスカードさえ見せればどの映画館でも入れるシステムと勝手に思っていたら、ベルリン映画祭ではパスを使って映画毎のチケットを取らなければならなかった。作品管理も厳しいようで、時間の被るプログラムの上映チケットは取れないし、一度観た映画を別の上映日にもう一度観ることなども不可能。作品数も膨大で、会場が遠いスクリーニングもあるため(地下鉄で数駅移動する)、観たい映画を探して、予定を組むのがとにかく大変だった。

フォーラム部門で参加した『家族X』は会期中に4回の上映があり、すべての回にQ&Aの時間が設けられている。
ベルリンに到着した翌晩、映画祭会場の中心に位置するArsenal(アーセナル)という劇場で海外プレミアとなる初回の上映があった。
どれほどの観客に来てもらえるのか不安な中、落ち着きなく上映前の会場に居ると、次第にチケット売り場には列が出来始め、購入者が『家族X』の名を口にしているのが聞こえてきて安堵する。

Arsenal入り口。

Arsenalは普段は会員制のシネフィルたちが多く通う劇場だそうで、フォーラム部門のメイン会場となっている。
この日の上映も会員を中心とした、映画を観ることに積極的な客層であることを上映前に知らされると、「自分の映画は彼らの期待に答えられるだろうか?」と、すぐに次なる不安が湧いてきていた。

映画が始まると、前半にも関わらず、やはり席を立って出ていく人がいる。
多少予想はしていたものの、やはりショックはある。こういう人はプレス関係が多く、雑食的に観まくる人達で、肌に合わないとすぐ別の映画に向かってしまうらしい。そう聞かされても、返す返すショックである。

ベルリン最初の上映中最も印象的だったのが、いくつかのシーンで観客から笑いが起きていたこと。これは日本の上映では無かった反応だったので意外だった。同時に、『家族X』は観る人によって見え方のまったく違う映画なのだと気が付くきっかけでもあった。

Q&Aは、通訳を介して英語とドイツ語で答えるスタイル。
「日本の家庭では、多くが映画のような問題を抱えているのか?」という質問に、「これは日本の象徴的な家族を伝えるための映画ではなく、この映画を経験することが、自分と家族の関係を見つめ直す場となることを目指した。」と答える。
最初は手を挙げる人が少なくても、ひとり始まると次々と質問も続き、ひたすら緊張しながら答える時間が続く。とにかくQ&Aはものすごく消耗することが判り、激しい疲労感と共に初回を無事終えることが出来た。

『家族X』に並ぶ観客たち。

上映後、熱心に感想を言いに来てくれる人もいて(この時に話しかけてくれたひとりがブエノスアイレスの映画祭ディレクターで、後に招待してもらうきっかけになる)映画祭らしい体験に改めて感動したプレミア上映となった。

初回の上映を終えた翌日は、ベルリン初の単独行動で緊張しながら地下鉄に乗り映画祭会場を目指すも、まんまと逆方向の電車に乗った挙句、降車駅を寝過ごす始末。右往左往しながら会場へ。この時に必要以上に迷ったおかげで、映画祭近辺の地理をやっと把握。地図を眺めるより身体で覚えるのが一番か?

昼からはフォーラム事務局で、未だに決まっていない鑑賞の予定を立てようとするも、自分の上映時間との兼ね合いを探っていくと、なかなか決まらない。結局プログラムを広げて悩んだだけで終わってしまった。

2度目の上映となるCubix(キュービックス)という劇場は日本でいうシネコンのような場所で、TOHOシネマズ六本木のスクリーン7に匹敵するような巨大劇場。会期中『家族X』を上映するスクリーンの中で一番大きく、個人的には最も楽しみにしていたスクリーニングだった。
しかし、Q&Aで出た質問に「この作品はどのようにして資金を集め、どのように制作されたのか?」という予算に関する質問が出てきて困惑してしまう。PFFスカラシップという制度の説明からすればいいのか、単純に全体予算の話をすればよいのか判らずに、上手く答える事が出来なかった。内容に関する質問ばかりを想定していたが、終わってから、お金に関する質問は、実は海外だとよくあることだと聞かされる。このような答えもすんなりとしゃべれる準備が海外では必要なのかもしれないと勉強になった。

後編につづく〉

文:『家族X』監督 吉田光希