No.15:『不灯港』in ミラノ映画祭

海外レポート

日本国内のみならず、海外の映画祭でも上映される機会が多くなったPFFアワード入選作品&PFFスカラシップ作品。このページでは、そんないろいろな映画祭に招待された監督たちにも執筆していただいた体験記を掲載します。

第18回PFFスカラシップ作品『不灯港』in ミラノ映画祭 (イタリア:2009年9月14日~21日)

海外映画祭レポート特別編として、『不灯港』と内藤隆嗣監督のワールドツアーの模様を4回に分けてお送りします。
3回目となる今回は、内藤監督がとても貴重な経験をしたというイタリアのミラノ映画祭の体験記です。
“フィルムメーカーズハウス”の写真

“フィルムメーカーズハウス”の様子

ミラノ映画祭はとてもユニークな映画祭だった。
まず特筆すべきは宿泊施設。私が今まで回った映画祭ではどこも快適なホテルを用意してくれたのだが、今回は違う。参加監督は皆各自寝袋を持参し、映画祭が準備した“フィルムメーカーズハウス”と呼ばれる一軒家にみんなで合宿するのである。

イタリア版ときわ荘とも呼べるこの一軒家は、廃病院を再利用したもので病室がそのまま寝床となり、一部屋5~6人の監督らが押し込まれていた。
部屋には人数分のマットレスがあるのみで、持参した寝袋がどれだけ重宝したことか。さらにシャワーがまた酷いこと酷いこと。どうせだから全て赤裸々に告白してみる。

敷地内に仮設のシャワールームがあるのだが、それがすぐにお湯が切れて水シャワーとなり、夜中に浴びようものなら唇は青ざめ全身に鳥肌が立ち、あんなに猛スピードで体を洗ったのは本当に久しぶりだった。さらに続く。朝食である。テーブルに毎朝並べられるのは、固いビスケット、ジャム、シリアル、そしてイタリアンコーヒー。7日間これが続いた。これほど普通のトーストとフライドエッグを渇望した7日間は今まで生きてきて記憶にない。

というふうに、滞在者は皆「まるで刑務所だ」、「いや、もっと酷いぜ。刑務所はスープが出る」と異口同音に不満を漏らし合っていた。おまけに、映画祭会場から電車で乗り換え含め30分の所で周りにはコンビニ一つ無い立地…と、悪口はこのぐらいにしておくとして、このフィルムメーカーズハウス、悪い面ばかりではない。非常に有意義に過ごすことができたのも事実。世界中から監督や撮影スタッフ、そして映画ライターなんかが集まっていて、毎晩開かれるパーティーでは彼らとの良い交流の機会となったし、“目線の近い”彼らと同じ釜の飯を食っての生活で、何人かと普段よりも絆を深められた気がした。いつもの分厚い壁に閉ざされたシングルルームのホテルよりもよっぽどエキサイティングだったのは言うまでもない。

肝心な上映はというと、なんと『不灯港』が当映画祭のオープニングを飾らせていただいた。
ミラノの街の中心部にあるピッコロシアターを満席にし、盛況の中、映画祭の幕を開くことができたそうだ(私はオープニングまでにミラノ入りできず…)。

そして2回目の上映。今回は通訳が就かない英語での質疑応答となり苦戦を強いられたが、お互いノンネイティブということもあって私のヘッタ糞な英語でもなんとか切り抜けることができた。

ミラノ映画祭はまさに“フェスティバル”だった。
昼間は会場から1歩外に出るだけで、そこで映画祭が行われていることなど全く気が付けないくらい、街には宣伝やそういう空気がほとんど感じられずひっそりとしているのだが、夜になるとそれが一変する。メイン会場の広場ではビールが売られ、耳をつんざくバンドの演奏、何処から湧いてきたのだと思う程の人、人、人でごった返し。歌えや踊れやの大パーティーが開催中毎晩続く。まだ、中では映画が上映されているというのにだ。

ある一定量以上の酒が飲めず、ある一定値以上のテンションを越えられない私にとってなかなか馴染めないものではあったが、ビール片手にその光景を眺めていると、突然イタリアンガイが私に近づいて来て私を舐めるように見た。そしてちょっと高い声で「お前、イカシてるね」、「そうかい?」、「飯食いにいかねえか?フレンドも来るよ」私は何が何だかよく分からなかったが、相手の鼻息が荒いわけでもなかったし、ここをとまり木にしているよりかはと思いあとは野となれ山となれ、にも似た気分で男の車に乗り込んだ。

彼のアパートの前で車が停まり、「呼んでくる。ここで待ってろ」と一言だけ残して男は部屋の中に消えた。10分程経過すると、アパートから10人ほどの男たちが現れた。しかも何故か皆魔女のかっこうだ。すかさず“ボンジョルノ”の嵐。そのあとレストランへ連れて行かされ、魔女のかっこうの男たちに囲まれながら私はとっても楽しいディナーを過ごすことができた。こういった現地の人たちとの触れ合いが生まれるのも海外映画祭へ参加する楽しみの一つである。それにしてもこのミラノ映画祭はいろいろと思い出深い映画祭となった。

文:『不灯港』監督 内藤隆嗣

次回、いよいよ最終回!