「社会というものは、人間ほど簡単には描くことができない」黒沢清監督の審査総評、受賞者・山﨑樹一郎監督のコメントをご紹介します。<第4回大島渚賞>

映画祭ニュース

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去る3月14日(火)、東京・丸ビルホールにて、第4回大島渚賞の授賞式を実施しました。

はじめに、新作撮影のため参加が叶わなかった黒沢清監督の審査総評がビデオメッセージで披露され、その後、第4回受賞者・山﨑樹一郎監督に、審査員の荒木啓子PFFディレクターよりトロフィー、大島家を代表して大島新氏より記念品が贈られました。

会場には、『やまぶき』の出演者の皆さんも集結し、山﨑監督を祝福。和やかな授賞式となりました。

<登壇者(敬称略)>
山﨑樹一郎監督(第4回受賞者)
矢内 廣(一般社団法人PFF 理事長)
荒木啓子(審査員/PFFディレクター)
大島 新(ドキュメンタリー監督/大島プロダクション代表)
カン・ユンス、川瀬陽太、和田光沙、黒住尚生(『やまぶき』出演者)




ここで、審査員・黒沢清監督から寄せられた審査総評と、第4回受賞者・山﨑樹一郎監督の喜びのコメントをご紹介します。










■審査員・黒沢清監督からのメッセージ

皆さんの作った作品を、今年も何本か拝見いたしました。
どなたも本当に人間を描くことに長けていて、舌を巻くばかりです。僕などは到底及びもつきません。これは近年の日本の若い映画監督の人たちが、世界に誇るべき長所だと思っています。素晴らしいことです。

しかしながら、その中に大島渚賞にふさわしい作品があるだろうかと、毎年目を凝らすのですけれども、残念ながら、滅多にお目にかかることがないというのが現状です。つまり、目の前にいる人間に対しては、並々ならぬ関心と深い洞察力を持って把握することのできる日本の若い映画監督の方たちも、その人間を取り巻く社会に本気で目を向けることは、なぜか避ける傾向にあるんですね。ここが毎年一番歯がゆいところです。それは仕方のないことなのかもしれません。

社会は、人と違ってカメラを向ければ映るというものではありません。また、的確に演出しさえすれば、それが浮かび上がるというものでもないからです。つまり、社会というものは、どうも人間ほど簡単には描くことができないということです。それを描くには、おそらく深く熟考し、構想を練り、ドラマというものの機能を疑い、気持ちの良い人間描写の裏に隠された、無知からくる思い込みや、古い因習、気付かぬうちに行使されている差別などを露わにすることから始めなければなりません。大変だと思います。僕にも、そんなことはなかなか簡単にできないというのが現状です。誰も、大島渚に簡単になれるわけではありませんからね。

しかし、若い皆さんには、失敗する自由があります。完璧など目指さず、非難されることを恐れず、果敢に人間の外側にある、そう簡単にはカメラに映らないものを引きずり出すことにチャレンジしてみてください。なんとなく把握している身の回りのものだけが世界ではありません。

皆さんも、実はとっくに知っているでしょうけども、日本はそんなに平穏な国ではありません。そこに踏み込むのは面倒だし、失敗しそうな気配を感じてしまうのはよくわかりますが、せっかく映画づくりの技量を鍛えられたんですから、それを鋭い刃物のように使ってみることを切望しております。そして、そのような映画の誕生を祝福することが、この「大島渚賞」の使命だと感じております。

今年もそう簡単には出会いませんでしたが、しかし1本ありました。1本でもあったことが、何よりの収穫でしょう。「大島渚賞」というカテゴリーを設けていなければ、見逃されていた1本かもしれません。毎年1本、たった1本ずつでもいいですから、大島渚の意志が、脈々と受け継がれていくことを願っております。




■受賞者コメント 山﨑樹一郎監督

まずはじめに、受賞映画『やまぶき』を共につくったスタッフ・キャスト、『やまぶき』に様々な形で関わっていただいた多くの皆様と共に、第4回大島渚賞を受け取ります。ありがとうございます。そして、これまで映画を通して出会い、また別れていった仲間たち先輩たちにも心から感謝いたします。

大島渚賞、その生々しく、深く、そして重たい賞に、受賞の連絡をいただいたこの短期間でも、すでに翻弄されておりますが、決して急がず、ゆっくりと映画と向き合っていこうと、今も自分を落ち着かせています。

最後に、小さな二人の娘とパートナーに感謝します。あなたたちのおかげで、私はいくつかの視点を生活の中に持ち、映画をつくることが出来ています。本当にありがとう。

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