PFFアワード2015入選作品を発表します。
最終的に入選作品を決定するという過程で、候補作品を再見しながら徐々に大きくなった驚きと発見は、「映画を学校で学ぶ」ということがすっかり定着している現実です。
77年、PFFの始まった年には、「映画学校」として数えられるのは日本大学芸術学部映画学科と日本映画学校(旧・横浜映画専門学校、現・日本映画大学)のみであり、多くの自主映画は、一般の高校、大学、果ては中学校で次々に設立される"映画研究会"での映画づくりから生まれていたと聞きます。そして、映画産業の混乱も極まった怒涛の80年代を遥か遠くにみる2015年のいま、映画、映像を"学ぶ"場所が、自主映画の土壌として"つくる"場所として大きく拡がっていることを、しみじみと体感した本年です。
37回を数えるPFFでは、その始まりのときとは映画を取り巻く環境がすっかり変化する現在でも「自主映画製作を支える情熱」の普遍的な力を紹介していきたいと、改めて考えます。そして、「何故映画をつくるのか。何が自分にとっての映画なのか。何を自分はみせたいのか。どこを自分は目指すのか。」という自問自答を重ねたであろう力作たちを前に、決断に悩みながら入選作品を20本決定しました。作品の五十音順でご紹介します。
◎「PFFアワード2015」入選作品
※作品名五十音順。上映時間、年齢は応募時のものです。
『甘党革命 特定甘味規制法』38分
監督:諸星厚希(21歳)
この国ではチョコレートが厳しく規制され、今や政府による甘党掃討作戦が進行中。日本甘党過激派のゲリラ青年たちと家出娘は、スニッカーズを食べつつ革命を目指す!
『あるみち』83分
監督:杉本大地(21歳)
トカゲ獲りに夢中だった小学生時代。念願の美大には入ったけど、トカゲ獲りのあのワクワクはどこに? 友や母との何気ないやりとりや間合いが臨場感あふれる平成男子物語。
『いさなとり』91分
監督:藤川史人(30歳)
広島県三次市。化石探しに熱中する中学生男子は、町の歴史に触れ、身辺の変化も体験。ドラマとドキュメンタリーなど、いくつもの素材を融合させ、土地と時間を描く意欲作。
『異同識別』20分
監督:佐々岡沙樹(32歳)
強盗事件の証拠物件として科捜研に送られてきた大量のガムテープ。研究員たちはガムテの奥深さに分け入り、ガムテの匂いを語りだしては盛り上がる。ガムテはロマンだ!!
『嘘と汚れ』92分
監督:猪狩裕子(30歳)
自分の失敗を同僚の老人に結果的になすりつけた女性ゆい。自責の念と自己弁護が渦巻く彼女の内面を背中で表現させ、その「汚れ」を観客に突きつける、長回しの力作。
『海辺の暮らし』37分
監督:加藤正顕(28歳)
ネコムシの密漁をするハードボイルドな女は密漁監視員の男と出会う。魅力満点の人物たちと笑えるセリフ満載の天才的センスが、現実から浮遊した町のすみずみに行きわたる。
『大村植物標本』19分
監督:須藤なつ美(24歳)
祖父が遺した植物標本に魅せられた少女チズは、会ったことのない祖父の影を求める。煙草を吹かすチズの年齢不詳感と仰天のラストで、多くの境界線をすんなり越える異色作。
『帰って来た珈琲隊長』52分
監督:佐々木健太(30歳)
娘の体を借りた亡き隊長が元部下を訪れ、戦時の生体実験の記憶と現在の恋愛話が交錯する。重さと軽さを絶妙に織り込みつつエロスも濃厚に漂わせた、8mmフィルムの異色作。
『ゴロン、バタン、キュー』54分
監督:山元 環(22歳)
21歳のあたるは横暴な父から離れ、心優しい老人とブルーテントに暮らす。だが、やがて冷酷な現実を突きつけられる。ホームレス生活を躍動感いっぱいに愛を持って描く。
『THE ESCAPE』67分
監督:島村拓也(25歳)
ある日、突然、何者かに執拗に狙われる。つねに監視されている恐怖がじわじわと迫り、ついに逃亡を決意するが...。画面に映るすべてが不穏な空気に満ちる真正ホラー。
『したさきのさき』45分
監督:中山剛平(24歳)
高校生の咲紀は智哉に片思い。彼の唾液に触れたい願望が抑えられずエスカレートしていくが...。思春期の痛さを咲紀と同級生たちを通してスリリングに描く、青春残酷物語。
『チュンゲリア』37分
監督:峯 達哉(26歳)
映画『念力先輩』を観終ると、外はゾンビが跋扈!僕を「先輩」と呼ぶ女の子と川を目指す。予測不能な展開と愛や宇宙論にまで広がるセリフが、麻薬のように観客を痺れさせる。
『ひとつのバガテル』72分
監督:清原 惟(22歳)
少女アキは、ピアノで繰り返し同じ曲を弾く。さまざまな人の感情や言葉を受け止めながら彼女がブレないのは、音楽という道しるべがあるから。音楽の意味を映画で探る野心作。
『船』16分
監督:中尾広道(36歳)
メダカを愛する都会暮らしの青年3人は、拾ったかわいい小舟を川に流すため、奈良の山へ。心地いい音楽に乗ったのどかなドライブが人生&宇宙讃歌へと広がっていく快感!
『マイフォーム』15分
監督:跡地淳太朗(28歳)
亡き祖父の家で写真を撮り、古いアルバムを開く。家族の記憶が沁み込む家で、彼女は祖父から確かにバトンを受け取る。セリフ無しで多様な感覚を喚起させる奥行き深い作品。
『みんな蒸してやる』41分
監督:大河原 恵(21歳)
エビ焼売屋で働くカヨコ。かかしになりたい男。おかしみあふれる人々とセリフが次々に登場し、主演も兼ねる監督の妄想センスが田園風景を背景に細部まで爆裂、爆笑の渦に。
『ムーンライトハネムーン』71分
監督:冨永太郎(22歳)
冴えない純朴な男子大学生は、美人同級生とひそかに交際中だが、ネットで彼女の着用済み下着を売って稼いでいた。性欲という魔物に支配された男たちの滑稽な哀しみよ!!
『モラトリアム・カットアップ』38分
監督:柴野太朗(22歳)
20歳のフミヤは徹頭徹尾アナログ人間、いわば過去に生きる青年だ。思い出話と妄想を現実の地平線上に自由自在に挿入しながら、万物流転をポップに描いた青春コメディ映画。
『幽霊アイドルこはる』35分
監督:井坂優介(26歳)
高校生こはるは、目覚めると幽霊になっていた! 霊感がある人だけに見えるアイドルとして大人気に! 現実逃避を続けてきた女の子の逆転成功物語を描くコメディ・ホラー。
『わたしはアーティスト』24分
監督:籔下雷太(31歳)
友達のいない高校生の沙織は自撮りのビデオアート作りに夢中。という孤高の自己陶酔ぶりを揶揄する、もうひとりの私。非凡と凡庸に揺れる、ラブリーでキュートな成長物語。
一次審査通過作品
※作品名五十音順。
『蒼のざらざら』 上村奈帆 |
『静寂、とりとめもなく。』 香月 綾 |
『明日に向かって逃げろ』 辻野正樹 |
『斥力』 山田陽一朗 |
『アニマロガメ』 森永悠仁 |
『そこどいて』 大橋咲歩 |
『あの残像を求めて』 隈元博樹 |
『たちんぼ』 横山翔一 |
『あま つち はこ ふね』 早崎加恋 |
『たびのやまびこ』 片野坂 亮 |
『雨時々晴れ』 李 允石 |
『デイ・ドリーム』 佐藤安稀 |
『undo』 林 知亜季 |
『Tropical』 芳賀陽平 |
『うつろう』 久保裕章 |
『夏を撮る』 柴口 勲 |
『オプティック プロディジー』 大西泰二郎 |
『バイバイ、おっぱい』 鋤_智哉 |
『オリンピアの嘲笑』 三原慧悟 |
『PAKKKKKKKIS』 相馬あかり |
『解放』 相馬寿樹 |
『ひこうせんより』 広田智大 |
『COUNSELING』 林 霊 |
『彦とベガ』 谷口未央 |
『かさぶた -The Scub Pig-』 矢野ほなみ |
『密かな吐息』 村田 唯 |
『かたづけ』 永谷優治 |
『羊は楽園を探す』 河合 健 |
『きらわないでよ』 加藤大志 |
『フォーエバーラヴ』 田中浩美 |
『雲の屑』 中村祐太郎 |
『古本屋SOS!』 櫻井啓介 |
『ケンとカズ』 小路紘史 |
『風和理~平成の駄菓子屋物語~』 田中健太 |
『ゴミの音色』 草苅勲 |
『本日、引越し致します』 石川貴雄 |
『sir/len(t)』 川神正照 |
『マネーのトラッシュ』 中島邦彦 |
『サヨナラノアト』 緒方一智 |
『向こう側』 小川泰寛 |
『三億年生きた笹口』 笹口騒音 |
『無傷の日々』 布瀬雄規 |
『次男と次女の物語』 深津智男 |
『奴物語1出発』 榎園京介 |
「PFFアワード2015」セレクション・メンバー
荒木啓子(PFFディレクター) | 常川拓也(映画ライター) |
小原 治(映画館スタッフ) | 原 武史(レンタルビデオ店スタッフ) |
片岡真由美(映画ライター) | 廣原 暁(映画監督) |
木下雄介(映画監督) | 細川朋子(パブリシスト) |
木村奈緒(フリーライター) | 前田実香(映画館スタッフ) |
小坂井友美(ぴあ中部支局編集担当) | 松瀬理恵(イベントディレクター) |
小林でび(映画監督・役者) | 皆川ちか(ライター) |
杉浦真衣(書店員) | 結城秀勇(ライター・映写技師) |
※五十音順。
ここで、いくつかの作品を挙げておきます。『サヨナラノアト』(緒方一智監督)の俳優の素晴らしい演技、『PAKKKKKKKIS』(相馬あかり監督)の奇妙なパワー、『奴物語1出発』(榎園京介監督)の切実さ、は長い時間をかけて議論されました。
加えて、『斥力』『デイ・ドリーム』『バイバイ、おっぱい』『羊は楽園を探す』『マネーのトラッシュ』『向こう側』も強く支持するメンバーがいたことをお伝えします。
「PFFアワード2015」入選20作品は、第37回PFFのコンペティション部門にて上映されます。東京会場では2回、京都、神戸、名古屋、福岡の会場では各1回の予定です。
思いもよらない驚きと喜びを体験しに、是非会場に足をお運びください。
そして、コンペティション部門の他に、招待作品部門も展開します。
まず、自伝"A Third Face:My Tale Of Writing,Fighting, And Filmmaking"の発表にあわせ製作された実娘によるドキュメンタリー『A FULLER LIFE(原題)』でサミュエル・フラーを浴びる。日本でも近日発売予定のフラーの自伝の一節を、フラーファンで知られるジム・ジャームッシュやヴィム・ヴェンダース、そしてジェイムズ・フランコなどが朗読し、そこに語られた世相や自作の映像が紹介され、フラーを、アメリカを、映画を体感できます。
次に、日本未公開の貴重作『ベートーヴェン通りの死んだ鳩』を目撃してください。その他上映作品は、追って発表します。お楽しみに!
●「映画のコツ~こうすればもっと映画が輝く~」
PFFが密かに続けている映画講座シリーズ。
本年はタランティーノとのコラボでも知られる美術監督、種田陽平さんが美術の名匠たちを訪ねた「伝説の映画美術監督たち×種田陽平」(SPACE SHOWER NETWORK)からインスパイアされ、種田さんをはじめ美術監督をお招きしての、映画のコツを伝授いただく映画上映&トークの時間を設けます。
音の大切さ、撮影の大切さをキャンペインしてきたPFFですが、本年は、視覚の大きなキーである美術の世界に入ります。
また、映画の総合的なリーダーでもあるプロデューサーの講座も継続して展開予定。
映画をつくるために大切で役立つことを持ち帰っていただく時間です。
●特集「映画内映画」
映画製作にまつわる映画は驚くほど沢山あります。
PFFでは、本年完成した長崎俊一監督『唇はどこ?』と鈴木卓爾監督『ジョギング渡り鳥』の完成披露プレミア上映を行うにあたり、奇しくも両作品が見事に描く、映画製作参加者の公平性という課題に強く興味を掻き立てられ、「映画内映画」という特集をつくりました。
上記2作品に加え、ピンク映画製作現場を活写した森崎東監督の傑作『ロケーション』と、その『ロケーション』内で、何度も呟かれるフランソワ・トリュフォー監督の『アメリカの夜』を上映します。映画をつくることの歓びと苦しみと何かをこの4作品で浴びてください。
●特別企画「世界が絶賛した日本の短編たち」
昨年のカンヌ映画祭シネフォンダシオン部門で大きな話題となった平柳敦子監督の『Oh Lucy!』を上映します。あわせて、近年世界を湧かせた日本の短編を一挙に集めたプログラムをつくります。
伊藤高志監督、平林勇監督、山村浩二監督、和田淳監督らの作品をラインナップ予定です。
ご期待ください。
Copyright (c) 2015 Oh Lucy!. All Rights Reserved.
「第37回PFF」
9月12日(土)~24日(木)、東京国立近代美術館フィルムセンターにて開催!*月曜休館
【公式サイト】
京都:10月3日(土)~9日(金) 京都シネマ
神戸:10月31日(土)~11月3日(火・祝) 神戸アートビレッジセンター
名古屋:11月12日(木)~15日(日) 愛知芸術文化センター
福岡:2016年4月予定 福岡市総合図書館