アルドリッチ作品集めの困難は、現在の映画状況を教えてくれました

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Images courtesy of Park Circus/Warner Bros.

「PFFアワード2018入選発表」を超える反応に狼狽えた、去る7月30日のアルドリッチ特集発表。本日公式サイトアップ致しましたが、上映作品は10本です。全て日本語字幕付きでスクリーン上映を行います。

映画祭での限られた枠ですので、現在日本に公開権のある『合衆国最後の日』のみ1回上映とし、他は複数回を達成しました。スクリーンでの鑑賞が、今後いつ実現するかみえない作品集ですので、是非、アルドリッチ未体験の皆さんに、「初体験参加」いただきたいと願っています。本年のPFFでは、学生の当日券を500円として、前売り券完売回でも、当日券をご用意します。

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『女の香り』

そして『女の香り』撮影中のスナップを嬉しくなって使ってしまったことで期待をさせてしまいましたが、アルドリッチと冠した以上、最も上映したい作品であった3本『女の香り』『甘い抱擁』『傷だらけの挽歌』の映画祭上映は不可能、という結果でした。残念です。

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『傷だらけの挽歌』

これまでPFFでは数々の監督を特集上映してきました。
しかし今回、2018年、このロバート・アルドリッチ企画を通して、時代の変遷を恐ろしいほど実感しました。
現在、映画はますますパーソナルな視聴に向かっている。パブリックな展開=大スクリーンでの上映は、映画というビジネスの中心からはずれてきている。
という変化です。

映画祭の上映は、劇場公開や、テレビ放映、配信とは権利交渉が違います。
権利者からすれば細かい数字、細かい作業で、利益率の悪い商売相手と言えるでしょう。
その映画祭上映権保持者の不明、そして、権利者がわかっても上映する素材が、ない。という現実。そんな映画が、驚くほど増加中です。
上映可能なフィルムがなければ(つまり劣化しすぎて上映に適さない...特にデジタルがメインになった現在、見劣りするからと痛んだプリントは消えていきます)ニュープリントをつくるか、デジタル素材を制作するか、が必要になります。アルドリッチには、どちらも少ない・・・・
独立プロの倒産や、権利の売却がままあったアルドリッチ故に不遇なのか?
繰り返されるアメリカメジャー会社の身売り時に、過去の作品として冷遇されてしまうのか?
さまざまな哀しい想像をしてしまいました。

膨大な予算をかけ、全てニュープリントやDCPを作成するという交渉を何年もかけて「大回顧展」を行う意志があれば、いまでもまだ映画祭での特集は可能なのかもしれない、が、PFFでは、その予算はありませんし、PFFの目的は、「いま、映画を志すひとにみてほしい、映画」としての<PFFアワードがあって、それと両輪での特集>ですから、方向が変わってしまいます。

ともあれ、映画祭がこれから特集を組めるのは<その監督の作品を守っている団体・組織のある監督>になる日は近いのかもしれないと、うっすらと予感します。
ですから、現在を生きる監督たちには、是非、自分の作品の保護を考えて欲しいと切実に思いました。
ニュープリントやデジタルフォーマットを、1本でいいので映画祭上映や将来の特集上映に向け、自身で確保する契約を結ぶ、というのが常識になってほしい。監督がフリーランスであるこの時代では、毎回製作者が変わるということは珍しくありません。将来、作品を集めるのが困難な状況になることは、充分考えられます。いえ、既に起こっています。
自分の作品を揃えておくために、予防が必要です。

ところで、今回のアルドリッチ特集に際し、どの作品を入手できるかわかる前に、字幕制作の準備のため、各国でのDVDやブルーレイの存在も調べました。そんななか、海外のコレクターから「全作品のコピーをつくってあげようか」という嬉しい申し出もいただきました。
コレクターおそるべし!
「ああ、個人の視聴に関しては、ある監督の回顧展を組むことは、こんなにも簡単・・・」しみじみと実感するのです。
だがしかし、映画祭は、スクリーン上映を体験してほしいのです。それは、映画の原点だから。いまや、得難い体験だから。

・・・・なんだか愚痴めいてきました。
『ビッグ・リーガー』『キッスで殺せ』『悪徳』『枯葉』『攻撃』『何がジェーンに起ったか』『ふるえて眠れ』『特攻大作戦』『合衆国最後の日』『クワイヤボーイズ』
過去にご覧になっておられる方は、是非初体験者を誘って、映画の輪を未来に拡げていただけると嬉しいです。
ご来場、お待ち申し上げております。


追記:アンゲロプロス監督の別荘が火災に巻き込まれ、貴重な資料が全て灰塵に。日本では原將人さんのご自宅が火災にあわれ、同様の事態が。

作品・資料の保存は、個人でどこまで可能なのか。

つくる、こと、みせる、こと、保存し、次代につなぐこと、長いタームで「作品」と向き合っていかなくてはならないこと・・・図書館や美術館同様、映画映像作品の保存は大きな課題であることを改めて考えながら、PFFの会場にもなる国立映画アーカイブに向かいます。