後髪引かれながらオールナイトから帰宅し、村上春樹について考えてみる
ただいまテアトル新宿では、「PFFルネッサンス」オールナイトプログラムの2夜め「グランプリ!グランプリ!」にて、グランプリ6作品の上映中です。
実は別の仕事の締切を一夜過ぎてしまった私は、後ろ髪引かれながら帰宅しました。
観はじめると止まらない6作品なのです。映写状態を確認、という理由で場内に入り、ついつい見入ってしまい、必死に離れたのです。
『電柱小僧の冒険』の創意工夫の塊!塚本監督がご来場くださり、お話をしてくださいましたが、新作も長い長い構想の果ての実現だそうで、塚本監督の頭の中には、いったいどれだけの映画の萌芽が詰まっているのだろうかと、思わずビジュアルで想像してしまい慌てました。
『夕辺の秘密』の、俗と聖のコントラスト。橋口監督ならではの漲る緊張感。
スタッフに、斎藤久志さん、鈴木卓爾さん、成島出さんがおられることを再認識し息をのみます。
『雨女』の先の読めない展開。電柱に昇っての撮影中に転落して骨折した矢口監督の回復を待って再開されたものの、製作は丸2年を費やし、生活費を削るために農家の作業小屋を借りて暮らし、トイレは駅や公園で借り、食事は冗談抜きでパンの耳だったという話などを、くっきり思い出しました。
その『雨女』の途中で帰宅してきたのですが、後に続く『5月2日茶をつくる』も、『青~chong~』も、『モル』も、最終審査員全員一致のグランプリだったことを思い出しました。
『5月2日茶をつくる』は、ぼーと口を開けて茶畑にいる気分になっている自分に驚いたことを、『青~chong~』は、「4賞も独占する?」とむっとしたことを、『モル』は、故・筑紫哲也さんが大変感動しておられたことを、思い出します。個人的には、『モル』のあと「ろくでなし」が入ったCDを買いに行ったことが懐かしい・・・
それはともかく、先週末のオールナイトをみてから、しみじみと実感したのですが、時代順に自主映画をみることが、これほど映画制作の変容をみることにも繋がること、驚くほどです。
意外に変化のないのが、服装。
大きく変化があるのが、電話と、俳優陣。
身の回りの人を配役するのではなく、キャスティングをすることが普通になっていきます。
明日日曜は、「21世紀のPFF」企画として、近年のオリジナリティ溢れる作品3本を上映します。
その後、月、火、水、木、と4日間再び「群青いろのすべて」企画が続き、
金曜の「21世紀のPFF」で、「PFFルネッサンス」が終了します。
「群青いろのすべて」トークでは、来週はどこかで、村上春樹についてお話を伺いたいと考えています。というのも、高橋泉監督は、海外で、何度か「あなたは村上春樹を映画化すべきだ」と言われたというのです。
何が海外の観客にそう言わせるのでしょう。
その高橋さんは、リアルタイム読破は「ノルウェーの森」からだそうです。
村上春樹。その影響力は計り知れない。
今この地球の全域に、村上春樹ファンがいますし、書かれた言語のままで読める幸せを享受する日本では、勿論更に濃く影響はあるでしょう。
個人的には、先週のオールナイトで上映した、奥原浩志監督の『ピクニック』には、村上春樹的なものを色濃く感じたのを覚えています。
そういえば、15年くらい前に香港に仕事で行ったときに、現地の春樹ファンのスタッフと春樹世界について話が盛り上がり、帰国に際し、春樹作品に出てくるジャズを集めた香港製のCDを貰いました。ジャスファンを増やす貢献もしているのは間違いない気がします。
「原語で読める」幸せ。
改めて考えると、すごいことです。
原語で読んでみたくても叶わず、翻訳を待つしかないことは多い。
しかし、私たちには、世界が愛する「日本語で表現活動をする」作家や映画監督、芸術家が多々いることに気づきます。
小津安二郎監督もそのひとりです。
年々歳々、世界に小津ファンが生まれています。
先日も、韓国の監督から、その熱い想いを聞きました。
死後半世紀以上を経ても尚、新しいファンを生む小津映画。
すごいですね。
もしも最愛の映画作家が、同じ言語を使う人であれば、そのニュアンスは理解しやすく、そのロケーションは空気を想像しやすい。それは、実にありがたいことだと突然実感するのでした。