香港でカラオケ
既報のように、『恋に至る病』が香港国際映画祭Young Cinema Competitionで審査員特別賞をいただきました。今年から名称がリニューアルされたこのコンペ。昨年までは「デジタルシネマコンペティション」という名称で、その時代からほぼ毎年、何らかの作品を出品してきたPFFです。
賞は、「グランプリ」と「審査員特別賞」の2つのみ。大きさの少し違うトロフィー、少しランクの違う賞品、そして副賞として現金が少し贈られます。
今年の賞品は、Nikonのデジタルカメラセット。グランプリにはD7000、審査員特別賞にはD5100が贈られました。
8年前の『ある朝スウプは』の受賞の際には、賞品はSonyのビデオカメラ=香港仕様のPALシステムで、高橋監督がPFF事務局に寄贈してくださったのを思い出しました。また、中国映画の『牛革』とどちらがグランプリか紛糾して、最終的に2作品ともグランプリとなった異例の年でした。昨年は、『世界グッドモーニング』が、スペシャルメンションを授与されています。
このYoung Cinema Competitionのほかに、香港にはDocumentary Competition(ドキュメンタリーコンペティション), Fipresci Prize(国際批評家連盟賞), SIGNIS Award(人道賞), Short Film Competition(短編コンペティション)があります。
本年、日本映画では、他に短編グランプリを山村浩二監督『マイブリッジの糸』が獲得、人道賞のスペシャルメンションが、是枝裕和監督『奇跡』に授与されました。
表彰式のあと、会場では引き続き台湾映画「10+10」の上映が。
後ろ髪をひかれつつ、「日本のアジア映画祭できっとやるはず!」と願いを込めて映画祭ディナーに移動します。席が一緒になった香港のPR会社のOLさんと話していたら、やはり今、広東語では商売にならず、中国語と英語は必須だと。ディナーのあとは、なんと、初体験「香港でカラオケの夜」に突入。
審査員のひとりで、ハワイ映画祭のプログラマー、アンダーソン・リーさんの熱意に誘われて大人数でカラオケです。アメリカ、フランス、韓国、香港、日本と、多国籍の大グループ。部屋にトイレがついていてびっくり。そして、世界共通で盛り上がるのは、ビートルズ、U2、Queenなど。もともと外国語の曲がそれほど入っていないので、選択肢はそこそこのため、一番盛り上がりそうな唄を選べなかったりするのですが、アジアで誰でも知っていると聞いていた「昴」は、やはりすごかった。まず、日本語の歌詞の上に、ローマ字表記でルビが振られている。他にはないのでびっくり。そして、「あ~この曲知ってる」という人の多いこと!なぜか唄える人の群れに、むちゃくちゃ盛り上がるのでした。「リンダリンダリンダ」も結構いけました。
そんな私は、部屋でオリジナル鼻歌をうたうのは得意ですが、カラオケからはとても縁遠い暮らし。しかし、今回、音楽のコミュニケーション力に脱帽したのでした。
そして、かいがいしく飲み物の世話や、選曲の世話をしてくれる人がいて、映画祭スタッフかと思っていたら、The Hollywood Reporterの人だったのには驚きました。「"客に飲み物を絶やさない"という中国人気質にスイッチが入っちゃうのよね~」という姉御な感じにしびれるのでした。
これまで映画祭中盤に設定されていたコンペティションの発表が本年からは後半になり、映画祭も明日が最終日。私も、映画を観る事に集中できるのは明日のみ。明後日には帰国で、いささか焦っているところです。
香港の観客は、とにかく若い。『恋に至る病』の観客は、ほぼ全員高校生と大学生のようにみえました。30歳以上が見当たらない雰囲気なのです。この観客層が、毎年毎年入れ替わっている感じがするので、映画祭の最古参、アーティスティックディレクターのリ・チョク・トーさんに聞いてみました。
「香港は、日本のように年金や手当てが充実していないので、仕事についたら、自分の人生を支えるために少しでもお金を稼ごうとそれでいっぱいになり、映画祭に来なくなる。また、日本では大きな映画観客層であるシニア層は、香港では悠々自適という生活は獲得が難しいため、映画祭に来ない(何らかの形でずっと働いている人が多い)。
そのような環境で、映画祭は、エンターテインメントに限りのある香港では、若い人の年に一度のイベントとして盛り上げるのが使命になる。しかし、昼間に映画祭上映に集ってもらうためには、学生でも会社勤めでもない人に来場を促す必要があり、そのため、デイタイム上映の料金を、少し安く設定することをやっている。」
ただ、昨日小さい会場でみた、ドキュメンタリーコンペティションのグランプリ受賞作品『Jai Bhim Comrade』は、客席の年齢層も人種も大変多様でした。3時間に及ぶインドのカースト制に関する作品です。インド人の居住者数の少なくない香港なのに、インド人来場がひとりもないのが、この映画を物語っているところがあるのですが、子供のころは知っていたことを忘れかけてるのに愕然としたカースト制度。その歴史やプロテストを唄の力で熱く伝える場面の多さに、インドの口伝文化を目の当たりにする驚きと、戦い方の違いに対する驚きがありました。
先日は、伊集院静さんの「お父やんとオジさん」を読んで、北朝鮮と韓国が休戦状態なのだということをすっかり忘れていた自分に気づき赤面し、今回、『Jai Bhim Comrade』をみて、インドの(のみならず各国でありますが)カースト制度のことを忘れていた自分に赤面し、生活に追われて身の回りのことでいっぱいになるのって、あっけなくやってくるなあと怖く思ったのでした。