ケン・ラッセルと侯孝賢と

ケン・ラッセル監督が亡くなりました。
私がPFFに初めて観客として参加したのが1987年、ケン・ラッセル監督の大特集と最新イギリス映画の特集に通いたくてでした。そして、これが、人生で映画祭の初体験でした。デレク・ジャーマン、ビル・ダグラス、アレックス・コックス、ニール・ジョーダン、デヴィッド・ヘア、ピーター・グリーナウェイなどなど。これら監督の作品上映チャンスが少なかった頃です。そして、告白します。当時「一般公募部門」と呼ばれた現在のPFFアワードが目的ではありませんでした。すいません。
しかし1987年。現在のPFFアワード応募監督のかなりが、まだ生まれていないなと思うと、大変な昔に思えます。映画祭カタログも買って今も持っています。後にPFFで仕事するなどカケラも思わなかったときでした。映画評論家の川口敦子さんのインタビューに、ケン・ラッセル監督が非常に感動していたのを覚えています。
そして、そのとき、実は、ケン・ラッセルより、多くのイギリス映画より激しいショックを受けたのが、偶然が重なって観た、侯孝賢監督の『童年往時』(原題であり、日本公開タイトルですが、PFF上映時タイトルは『阿孝の世界』でした)。そこから台湾ニューウェーブと呼ばれたあの時代を体験できたことを、しみじみ嬉しく思っています。
そして、侯孝賢監督と言えば、ナント三大陸映画祭。フランスで中国語圏の映画を積極的に紹介していた映画祭で、『フンクイの少年』(フンクイは漢字ですがうまく出ません・・・)で侯監督を高らかに世界に知らしめた映画祭です。これ、いわばチンピラ映画です。しかし、「映画の王道、それはチンピラ映画」ではないでしょうか?そのナント三大陸映画祭で『サウダーヂ』がグランプリというニュースに、改めて「チンピラ映画よ永遠に」と感慨が湧きました。
チンピラ映画の魅力、それは、「切なさ」です。断言してますけど。
そして世界に誇るチンピラ映画の本家、それは日活映画だったのではないかと。日活100周年を記念したチンピラ映画祭りをしたいくらいです。で、つい、ひとり映画祭して観てしまいました。『赤い波止場』(1958)と『紅の流れ星』(1967)二本立て。舛田利雄監督がセルフリメイクした二作です。ジャン・ギャバン主演の名作『望郷』をベースにした、東京から神戸に身を隠すチンピラの物語を、石原裕次郎(小栗旬を彷彿とさせます)が演じる『赤い波止場』そのリメイクは渡哲也(妻夫木聡を彷彿とさせます)が演じる『紅の流れ星』。10年という時の流れは、ヒロイン像を大きく変えていますし、ゴダールの『勝手にしやがれ』も導入したという『紅の流れ星』は、会話やスタイルに変化がありますが、どちらも切ないチンピラの話。あからさまな他の映画からのパクリは素晴らしいですし、あきらかに、後にこれらの作品を香港映画がパクって、更に震えるチンピラ映画を創りあげています。
映画は、盗んでなんぼだなあと、改めて思う二本立て。ただ、時の流れは映画産業の衰退も映し出して興味深いのです。『紅の流れ星』はあきらかに『赤い波止場』より低予算。60年代から映画産業の斜陽は叫ばれていたことを痛感しながら、でも今よりずっとお金あるなあと思うのでした。
この二作品をみたのは、神戸が舞台だからでもあります。
17日から始まるPFFin神戸。今回は夜の上映のみで8日間の展開。神戸には2日ほど参加しますが、その昼間に、これら2本の映画に出て来るロケ地を訪ねてみたいと思います。美術は両作品とも木村威夫さん。二作共通のロケ現場もあります。ロケから40年を超える月日が経っていますので、もう現存はしていないでしょうが、面影でもあればと期待です。
昔、映画評論家の宇田川幸洋さんが、史跡観光に行かなくても映画にすべて記録されているから、昔の暮らしは映画を観ればわかるというようなことをおっしゃってましたが、改めてそう感じる古い映画を観る喜びです。
あ、渡哲也さんといえば、東映映画ですが『仁義の墓場』これ、全人類必見。
・・・つい、映画ファンのブログ?になって失礼しました。
&ヨーロッパでは、中国語の出来る映画祭ディレクターがたくさん生まれた80年代なんだなあ・・・とふと思い出しました。