若松作品の状態について

カタログ制作やプリントチェックなどに追われ、もう二週間が経ってしまいました・・・。
若松孝二監督特集のプリントチェック、出来るものは全て終了しました。

『血は太陽よりも赤い』(1966)は、噂通りの掛け値なしの傑作です。これが残されたただ一本のプリントということで、大切に上映されてきたそうですが、カラーパートの色の劣化はあります。*映画祭チラシには、白黒と記していますが、パートカラーの作品でした*そして、ショックなことに、最後の巻の崩壊が始まり、湾曲しています。これは、大変惜しい出来事ですので、何らかの改善方法がないか、ただいま必死に調査中。エンディングの重要な作品ですから、良好な上映を目指します。

『性の放浪』(1967)は『血は太陽よりも赤い』に連続してみたのですが、ほぼ同時代に製作されたこれら2作品の豊かさに眩暈がしました。
『性の放浪』は、現存する唯一のプリントである、16ミリ・シネスコサイズプリントでの上映です。ロードムービーでもある、この色褪せない面白さを、どう伝えたらいいのか・・・兎に角、『血は太陽よりも赤い』と『性の放浪』は是非ご覧いただきたいと改めて思いました。『性の放浪』のプリント状態は上々です。

『性賊/セックスジャック』は、誰もが声を揃える傑作であることを、再度確認です。秋山未知汚の存在感を、『ゆけゆけ二度目の処女』(シネマヴェーラの足立正生特集で上映があります)とあわせて、堪能していただきたいです。代々木公園の安保反対デモをゲリラ撮影したオープニングシーンからクラクラ。是非フィルムで体験して欲しい、瀬々敬久監督の選んだMy Best Wakamatsu作品です。プリント状態は、こちらも上々です。
>>シネマヴェーラ 足立正生の宇宙

有名な『胎児が密猟する時』。My Best Wakamatsuに選んだ石井岳龍監督が、「当日は、どうしたらこんな発想が湧くのか監督に伺いたい」とおっしゃっていますが、登場人物は2人だけ。場所はあるアパートの部屋だけ。という実験作であり、男のどうしようもなさに関する映画です。これも、プリントはきれいで素晴らしいです。

『聖少女拷問』。唯一の80年代の作品です。こちらも、現存する唯一のプリントである16ミリシネスコサイズでの上映です。最新作『キャタピラー』と共通する、戦争という暴力から来る女性への抑圧についての映画です。昭和初期の東北の冷害が生んだ飢饉のため、身売りするしかなかった5万人以上に昇る娘たちの側に立った作品で、兵隊に代表される権力者への怒りが根底に流れる、若松監督らしい作品と言えるかと思います。色の劣化が少し始まっていますが、充分にきれいです。なんだか大作の風格があります。

最後になりますが、今回の特集記念に、若松プロダクションが所蔵するネガから、一本ニュープリントをつくることを決めたときに、若松監督が選んだのが『新宿マリア』(1975)です。監督にとって、思い出深い作品で、黒テントの女優、中島葵が主演しています。新宿の街を舞台にした、35年前の歌舞伎町、百人町、ゴールデン街の姿をくっきり残す作品ですが、他の上映作品といささか赴きの違うことに驚きました。監督がレバノンで毎日耳にしていた唄をバックに、美少女売春婦と、テロリストと、スクープを狙う記者と、その夫である映画監督が登場します。今回上映する若松作品の中で、一番ざっくりとした登場人物の設定かもしれませんし、他にない濃密なベッドシーンにも呆然とします。同時に、かなりロマンチックな恋の物語でありながら、強引な展開は、当時執拗に警察にマークされ大変な日々だったという若松プロダクションの状況を反映しているのかもしれません。そして、プリント状態ですが、現像所から色がにじむことを連絡いただきましたが、色むらが少し出ています。

以上が今日までチェックできたプリントです。その他ですが、『腹貸し女』と『寝盗られ宗介』は、状態のいいプリントであると報告を受けています。『逆情』は、プリントの完成待ちです。もうひとつ、サプライズ企画を、若松特集の最終回となる、7/25日17:30~の回で計画しています。実現次第お知らせします。

>>各作品の上映日程はこちら