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鶴岡慧子監督×小川努カメラマン×柳島克己撮影監督「デジタル撮影で手に入れた新しい表現の選択 vol.01」

2015年2月に開催したイベント【CANON EOS SYSTEM SPECIAL SEMINAR「PFF映画製作特別セミナー vol.1」~第23回PFFスカラシップ作品『過ぐる日のやまねこ』の撮影テクニックについて~】。『過ぐる日のやまねこ』の鶴岡慧子監督と小川 努カメラマンに加え、小川カメラマンの師であり日本を代表する撮影監督である柳島克己氏にもご登壇いただき、同作を題材に、具体的なデジタル撮影体験を実例とした撮影テクニックについてお話しいただいたきました。

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照明の工夫によって夜の撮影の自由が広がった

柳島氏:照明はどんなものを持っていったんですか?

小川氏:一番大きいライトでは、夜のシーンに使用する2.5キロのシネバルーンというものを持っていきました。1つの方向に向けて照らすものではなく、気球みたいなものの中に電球が入った工事現場で使われるようなライトを、高い位置に置いて撮影していました。照明の跡地さんが、一方向から照らしてしまうと、光を柔らかく変える手間だとか、照らせる範囲が狭くなってしまうことを危惧されていて。多分、自主で撮られてる方は、夜間に撮影する際に、照明の光量や台数の不足の所為でカメラで撮れる範囲の狭さに相当苦しんでいると思うのですけれど、今回このような方法を選んだことで、規模の割には夜の撮影の自由が利きましたね。当然、グレーディングで後から明るくしていますが、撮影の段階からバランスだけは取っておかないと、と気を付けていました。

荒木D:他に「ここは工夫した」というシーンはありますか?

鶴岡監督:崖のシーンは反省の多いシーンです。人が通らないような足場の悪い道を登っていったのですが、あまり高く見えなくて。というのが反省点ですね。

小川氏:苦労して崖の上まで登ってきたのですが、その分撮影環境が制限されてしまい、逆に実際の山の高さが画面になかなか映せなかったということがあります。

柳島氏:斜度を映像で出すのは非常に難しくて、実際そこに行ったからといって高さが見せられるわけじゃないんですよね、どうしても。だから、横位置に入ったり、対斜面というんですが、反対側の山に登ったりして、いかに急斜面かという映像を一度説明しないとなかなか表現できないところがあるんですよ。最近は、ドキュメンタリーなどでは、登っている人の横にザイルを付けて一緒に登っていくっていうやり方をしたりしますね。本当に急なところって、カメラを差し出すようにしないと撮れなかったりしますからね。

鶴岡監督:そういう撮影をされたことがあるんですか?

柳島氏:ありますよ、いっぱい。安全のために体にロープで拘束しているけれど、そのままグッと乗り出してね。乗り出さないと高さがなかなか出ないからね。それでもやっぱり映像的な高さが中々出ない。画面サイズにもよるけどね。

小川氏:山頂で画面を全然引けなかったっていうのは、本当にもったいなかったというか。

柳島氏:全体にこの映画はワンカットが長いじゃないですか。その辺はどうだったんですか?

鶴岡監督:それ、私の癖なんですかね…?実際カメラが1台だったので、そんなにカットを細かく割る感じじゃなかったというか。

柳島氏:僕はこれくらいのサイズで撮るの好きなんだけれども、でも普通だと、アップを撮りたくなるじゃないですか?一切そういうことをしないで撮り続けるっていうのはある種、覚悟がないと。

鶴岡監督:自分はカットを割るのが好きなんですけれど、多分、今回、グッと寄った画がそんなに多くないんですかね?ミドルショットが多いですね。

小川氏:今回長野での撮影だったので、都内のマンションなどではできないことをやろうということで、少し広めの画を、普段の映画撮影での「寄り」扱いにしようということは意識してやっていましたね。

柳島氏:レンズは何本ぐらい使ってました?

小川氏:基本的にCANONのEFシリーズのレンズを使っていました。以前撮影でC300を使った時には、狭い室内での撮影だったので短めの24ミリを使いましたが、今回平原だったり広い場所でのロケがあったので、50ミリで撮ったりということは意識的にやっていました。ワイドレンズをつけてカメラ自体を近付けるのではなく、50ミリ、80ミリ、あとズームレンズで遠くの人物にレンズで寄る、といった感じで撮影していくことが多かったと思います。

柳島氏:グレーディングはどうやっていたんですか?

小川氏:ルックアップテーブル(※カラーコレクション用のソフト。LUT。入力色に対応する出力色を参照する対応表)を自分で準備するカメラマンの方もいらっしゃいますけれども、自分の場合は特にテストの時間もなかったので、基本的にカメラが吐き出したログデータを基盤に考えて、元々のカメラの性能に頼って、そこで救われてるシーンていうのはいくつもあるな、という印象ですね。

柳島氏:今のデジタルって、黒に結構強いじゃないですか。僕なんかは黒をどうやって表現していくかっていうことをテーマにしているんですけれど、今回の作品はまったくその真逆の方にいってるっていう。それを狙ってたんだろうな、っていうのがあって。

小川氏:コントラストをそこまで強くしてないですし、でも、単なる柔らか目の画という風にもしたくなかったので、グレーディングには時間を掛けました。

基本になるのは自分の体の動き

荒木D:小川さんは柳島さんに伺いたいことがあるとか。

小川氏:同じ年頃の監督は移動撮影をやりたがる人が多いのですが、出来上がってきたものが「移動撮影がしたいがためのカット」に見えることがあります。柳島さんの撮った『アウトレイジ』(2010年、北野武監督)を例にすると、狭い部屋の中で何人かが話しているところを役者の喋り出しのタイミングに合わせて移動する、といったカットがありますが、何かしらの効果を狙ったものというより、欲もなくただ被写体を誠実に追いかけていった結果こうなった、というような、必然性のある撮り方に至る境地はどのようなものなのでしょう。

柳島氏:『アウトレイジ』の場合はカメラを動かそうというアイディアは、僕が監督に言いました。はっきり言ってすべてが効果的になっているかと言ったらそうじゃないと思うんですよ。でも、そういうカメラ移動が効果的な意味なくカメラが動いたりするのが『アウトレイジ』という作品の流れの中では、1つの表現だったかなと思っていたんです。他の作品の場合は、カメラ移動した時の最終的なサイズを基準にするのか、引いているときのサイズを基準にするのか、というところから発想していくだけの話で。でも今回『過ぐる日のやまねこ』は上手く撮れてたんじゃないかな。一番良いなと思ったのは、お父さんが運転している車内からパンするでしょ。あのタイミングが絶妙に良かった。ちょっと水平線が歪んでたけどね。自主映画を手持ちで撮る方は、どうしても肩に担いだとき歪むんですよね。手持ちカメラの時に、画面の中の縦のラインを垂直にするトレーニングをした方が良いと思いますね。

荒木D:トレーニングとは具体的にどのようなことを?

柳島氏:自分の感覚を鍛えるしかないですね。後はそれを意識した経験数かな。例えば車や動くものの撮影って1テイクを撮るのに凄く時間が掛かるじゃないですか。だから撮影を1発で決められるよう上手くやれば、その後の撮影に使える時間が全然違ってくるからね。その為にも普段から意識した方がいいと思う。僕は電車でもなるべく座らないようにして、下半身は動いても上半身はなるべく動かないようにね。下半身が安定しないと。昔は1000フィート巻きというフィルムがあって、10分くらいしか撮れないんだけれど、20キロくらいの重さだったんです。だから、体力をつけていないと、すぐフラッっとしちゃうので。その頃の癖が未だに残っているのかもしれないですね。

小川氏:手軽にスタディ撮影が出来るC300や一眼レフなどの機材が出てきていて、これも体の揺れを抑制はしてくれるのですが、やはり基本になるのは自分の体の動きなので。上手い下手の差が明確に出てしまって愕然とすることもありますね。

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