1. ホーム
  2. 海外映画祭レポート
  3. No.27:『恋に至る病』in 第62回ベルリン国際映画祭

海外映画祭レポート

日本国内のみならず、海外の映画祭でも上映される機会が多くなったPFFアワード入選作品&PFFスカラシップ作品。このページでは、そんないろいろな映画祭に招待された監督たちにも執筆していただいた体験記を掲載します。

第21回PFFスカラシップ作品『恋に至る病』in 第62回ベルリン国際映画祭 (ドイツ:2012年2月9日~19日)

『恋に至る病』海外映画祭用ポスター。

CINEMAXにて質問に答える木村承子監督(中央)。

人の目を見ることと朗らかな談笑が最大の苦手事項、挙動不審と滑舌の悪さが特技。ものすごく陰鬱な性格をした自分が、海外映画祭なんて華やかな場所に行くことになるなぞ、自主映画を始めたころには予想も出来なかったことだ。はじめて取得したパスポートの写真だって、初海外の不安丸出しのひどく間抜けな表情をしている。重度の精神的ひきこもりがベルリンで何をしてきたか?その様子を日記形式でレポートさせて頂こうと思う。

2月14日 早朝から成田へ。初めてのことだらけで大きな不安をかかえながらも、無事搭乗。美しい金髪客室乗務員からの英語での問いかけはすべて指差しと身振りで答えるという荒技で乗り切る。フランクフルト乗り換えを経て、合計14時間かけてベルリンに到着。きちんと乗り換えできるかが自分にとって大きな難関だったのだが、飛行機で隣に座っていたのが、偶然同じベルリン行きのおばさま三人組だったので、一緒に連れて行ってもらうことで無事クリアした。空港には、日本人ゲストのアテンドを担当してくださっている近津さんのお迎えが。帰国後聞いた話だが、私があまりに不安がっているのを察してわざわざ来てくださったそうだ(本当にすみません)。ホテルまで送ってもらう車内で、丁寧に今までの映画祭の模様や滞在中の事を話してくださった。夕方にホテルに到着。次の日の上映後に設けられているQ&Aの事を考え、上手く答えられる自信がなくひとり震え、自分で考えた質問に自分で答えるという気持ち悪い一人二役を延々繰り返す。「今回の作品のテーマは?」「撮影中大変だったことは?」など、ベタすぎる質問を思いつく限り並べては、一人でブツブツと司会役と自分役を演じるという、絶対に誰にも見られたくない時間を過ごしながら夜明けを迎えた。

2月15日 先にベルリン入りしていたPFFディレクター荒木さんと合流。フォーラム部門の事務局に挨拶に向かい、パスをもらう。『恋に至る病』を招待してくれたクリストフ、宿泊等の滞在に関するケアをしてくれたキャロラインなど、スタッフの方々と対面する。持ち前の人見知りと挙動不審を遺憾なく発揮してしまい冷や汗をかくも、皆温かく迎えてくれた。初回の上映は、CINEMAXという会場で21時45分から。平日の夜遅い時間にも関わらず、ほぼ満員で一安心。この時間帯のせいか、上映を待つ間ビールを飲んでいた人が多く、あちこちで乾杯の声が聞こえてきたのが印象的だった。上映前にこの会場でのQ&A司会担当のアスカと、通訳をしてくださる梶村昌世さんに挨拶。『恋に至る病』は、セックスすると男女の性器が入れ替わるというかなり奇妙な恋物語なため、この設定がどう受け入れられるのかかなり不安だったのだが、この会場での反応は意外な程温かいムードで、コメディシーンできちんと笑いが起きたときは正直安心した。ただ、日本人の感覚ではどうして笑うのか理解できない部分など制作意図とは違うリアクションも。ネタバレになってしまうのだが、作中、かなりロマンチックなシーンに「ちゃんと腐れるようになれよ」というセリフがあるのだが、ここで何故か爆笑が起きていた。ベルリンで観賞してくださった日本人の方々の感想は、偶然にも真逆でこのシーンが一番しんみりしたし好きだったという意見が多かった分、すごく印象的だった。「腐る」という言葉の受け止め方が違うのか?(本作では「腐ることへの恐怖心」とか「防腐剤」が結構大きな要素として出て来る)などと考えてみるも結局答えは出ず。でも、こういう意外な反応こそ、かなり視野が狭く凝り固まっている自分の思考や趣向をほぐす機会になったと思う。(どんなシーンなのか気になった方は是非公開時に劇場へ!!どう感じるのかすごく興味があります)
Q&Aでは、どうしてこのような奇妙な設定を思いついたのかについてや、結末の解釈の仕方などの質問が。昨晩の一人予行演習は全く役に立たずガチガチになりながらだったが、アスカが常に場を和ませる名司会ぶりでリードしてくれたので、ひとつひとつ最大限の丁寧さで解答していく。中でも一番印象的だったのは、名前に関する質問だった。本作の登場人物はすべて「円」という漢字の読み仮名からとられていることが映画祭のパンフレットに紹介されていたようで、この名前の由来や意味を問われたときには、漢字の文化の無い国でもそこまで強く関心を持ってくれているのかと観客側の意識の高さに頭が下がる思いだった。深夜の時間帯のせいかお客さんもテンションが高く終始ハッピームードだったため、最終的に調子に乗って歌まで歌ってQ&Aを終える。自分の緊張を解き、会場を盛り上げてくれたアスカに深く感謝しつつ、ホテルに戻った。 

2月16日 この日の上映は19:30からCINESTARというかなり大きな劇場。この会場からリアクションがあったシーンをメモしながら見ていたのだが、観客が多い分昨日とは違うリアクションが起きる場面もあり、すごく興味深かった。自分が意識していたせいか「腐る」という言葉には昨日よりも反応があったように感じた。(この部分に関してはどう解釈して見てくれたのか質問しておけばよかったと今になって後悔。)コメディシーンでは、昨日と同じところで笑いが起き、安堵する。下ネタは国境を超えるのだ。
この上映後のQ&Aでは、ジェンダーに関する質問が多かったのが印象的だった。(ドイツでは学校でジェンダー論の授業があるほどで、日本では考えられないくらい関心が高いのだそうだ)制作している時には特にはこういったテーマを意識していた訳ではないのだが、ゲイ&レズビアン映画を対象としたテディ賞にノミネートされていたこともあり、今後きちんと勉強して作品に反映させていきたいと思った。このジェンダーに関する質問は、自分の意識が無い分満足な答えが出来なかったが、見る側から次のテーマを投げかけられた気がしてとても大きなものを得たと思う。それ以外では、「フロイトの取り上げていたことを思い起こさせる内容だったが、それを意識しているのか」という予想外の意見もあり、逆にどんな場面にそういう感想を抱いたのか質問してしまった程で、自分の勉強不足さが恥ずかしかった。今回は、色々と制作時の意図を超えて解釈が広がっていく質問ばかりで、観客がいて初めて映画が完成するという言葉を、身をもって体験する機会になった。本当、お家にばっかり籠ってちゃだめだなーと反省。
この夜は会場から一人でバスに乗って帰ったのだが、バス停からホテルまでの本来なら五分でつくはずの道のりで迷子になる。ウロウロ彷徨う中、荒木さんに聞いていたセックスミュージアムを発見。自分が迷子であることも忘れて即入場。館内は誰一人客がおらず、舐め回すように観賞。熱海の秘宝館のようなバカバカしさ溢れる内容を期待していったのだが、各国のポルノグラフィーや裸体彫刻メインでどこか上品な雰囲気だった。少しガッカリするも、セックス中に男性器がもげる様子を描いた絵巻物(セックスに失敗しまくる男女のギャグ漫画のような内容だった。もげる様子はその一部分。)に巡り会い、自作との奇妙な一致に胸を熱くする。浮かれて美術館を出た後さらに30分迷って無事ホテルに到着。途中ちょっと泣きそうになった。

(写真上)CINESTARでのQ&A。観客から質問を受けている木村承子監督。
(写真左下)CINEMAXにならぶ観客の方々。(写真右下)会場内の様子。

2月17日 フォーラム部門日本人ゲスト、スタッフの方と昼食。スタッフの方々に昨晩撮ったセックスミュージアムの収蔵物の写真を見せるも苦笑を誘う。食事中に下品なことしてしまって本当にすみません。気をとりなおして、ずっと気になっていた「もし自分の身に性器交換が起こったらどうするか?」という質問をしてみたら、「そういう状態になってみたい。もしなったらどんな事をしようかとよく考える」という答えが。脚本を書いていたときに色々な人にこの質問をしていたのだが、一番多かった答えが「気持ち悪い」「考えたこともないし、なったら絶対に困る」という意見だった分、すごく意外だった。「本当に性器が入れ替わってしまったら最初に何をするのか?」と更に質問すると、ある男性スタッフの方は「そういう体になって、普段女性がどんなことを考えるのか体感してみたい」と言っていた。ものすごく異性を思いやった意見だと思う。自分がこの性器交換というモチーフを思いついたのは、独占欲や束縛を突き詰めていくとどうなるのかと考えていた時だった。相手の体を自分の体に取り込むことによって、それが人質となって自分から離れていかなくなるのでは?というかなり一方的な愛情表現を主人公に託し、物語を書いた。だから、自分の着想とは真逆のこの答えには衝撃を受けた。彼は続けて「いつも女性がどんなことを考えているのかもっと知りたいし、どんどん言ってほしいと思っている」と言っていた。「気持ちを確認されることや、過度な愛情表現を煩わしいと思わないのか」と尋ねると、「そうは全く思わない、きちんと知りたいし、伝えたい」と穏やかに答えてくれた。慈愛溢れる大人の恋模様を垣間みてしまった…と自分の普段の振る舞いの幼稚さを振り返って赤面する。いつかは自分もこんな風に考えられる様になれたらいいなと素直に憧れの念すら抱いてしまった。いくつもの経験をしてこの境地に辿り着くことが出来たら、きっと撮る映画もそれにともなって変化していくのだろう。いつも自分の面倒くさい性格につきあってくれている彼氏に、帰ったらものすごく優しくしようと秘かに誓う。

2月18日 3回目の上映は、アーセナルという小さめの劇場。会員制でシネフィルが多く、観客の反応もシビアなのが特徴だそうだ。今回も反応があったところをメモしながら観賞。やはり何回目の上映立ち会いでも、笑い声があがると嬉しくなってしまう。Q&Aでは、登場するモチーフや衣装の色が意味するもの、劇伴の使い方の意図などといった細かい部分に関する質問が多かった。そこまで突っ込んで見てもらえた事を嬉しく思う反面、きちんと納得してもらえる程の解答を用意できたのか反省が残った。自分の作品を客観視することにもっと意識的にならないといけないと痛感。
ホテルに戻り、荷造りをしつつ、今回感じたことを咀嚼し直す。得たものもと同じだけ今後の課題があり、ぐるぐると色々な思考が浮かんでは消えていく。意固地に外の世界を見るのを怖がっているのをいい加減止めたい、今の自分は何も知らなすぎる、いつまで自分はものすごく狭い視野を守ろうとし続けるのだろう、などと一つずつ自分の弱点について考えていく。ああー。自分、小さい。どんどん思考は拡散していき、それと同様に荷物もまとまらず、結局この日は眠れなかった。

普段、とにかく殻に籠った性格と生活をしている分、たまにこういった表舞台にたつと皮までずる剥けにされたような気分になる。脚本執筆も撮影も一緒で、とにかく恥ずかしい思いをしないと誰かに見てもらえるものなんて作れないのかも知れないし、特に経験値が低く知識も少ない自分なんてどんどん恥をかいていかなければいけないと思う。帰国した今、何というか通過儀礼を終えたような、靄が晴れた気分だ。今回自分に多くのものをあたえてくださった方に何かを還元できるような次回作を生み出すべくたくさん恥ずかしい思いをしていこうと思う。ベルリンで優しくしてくださったクリストフ、アスカ、キャロライン、カレン、アンナ、近津さん、梶村さん、観客の方々、本当にありがとうございました。

文:『恋に至る病』監督 木村承子

ページ上部へ