詭弁の街

監督:飯野 歩

審査員特別賞

ヤツは見てほしいんだ、おれに

大学を中退し、毎日を虚無的に生きる坂巻。彼の家には時々、奇妙な電話が入る。「池袋、ロングヘアーの女」など、地名と人物の特徴だけを言って切れるその電話は、実は殺人予告だった。それに気付いた坂巻は犯行を目撃すべく、偶然再会した大学時代の友人・馬淵を「おもしろいものを見せる」といって連れ回す。彼の真意を知って責める馬淵に、人間の非力さをうそぶく坂巻。彼には高校時代、目の前でクラスメートに自殺された経験があった。しかし自分の自殺未遂を馬淵に命がけで助けられたのをきっかけに、坂巻の中で何かが変わる。犯行の動機が孤独にあると考えた彼は、犯人を救うため人混みの中を走る。
ドラマチックに傾きがちなテーマを、硬質の画面がしっかりと支える。自殺を見せられ、今また殺人を見せられようとする主人公が、“見る”から“関わる”へ自分を変えた途端に走り出すカメラが、この作品を頭でっかちでなく生きたものにしている。

  • 1996年/48分/白黒/16mm 英題:SOPHISTICATED CITY
  • 監督・脚本:飯野 歩
  • 映像演出:今井秀道 音響演出:青山真之
  • 出演:五十嵐正俊、石山英憲、中川玲子、鈴木 優