もしもし

監督:木下 恵

完成しない家族パズル

すずは哲が好きだ。哲もまた同じ気持ちでいる。しかし哲の父は、すずの母の再婚相手。血はつながっていないが、2人にはある種の家族意識と後ろめたさが付きまとう。そしてその感覚こそが、共犯関係のようにすずと哲をつないでいる。だから彼女は、母と義父(哲の父)の間に冷たい風が吹き、不吉な予感をはらむ哲の母の変化に気付きながら、哲と哲の母のアパートに家族の一員のように出入りする。だがある日、義父と哲の母がよりを戻して駆け落ちしてしまう。親たちの関係がもつれるほど密度を深めていくすずと哲の愛は、どこへ行くのだろう。
5人の登場人物をさまざまな“2人”に切り取り、それぞれの感情と関係を的確に伝える抑えた演出が冴える。特にロングショットに見られる緊張感は“熟練したデリケートさ”と呼びたいほど。また、何度も登場する食事のシーンが“家族”の意味を問うアクセントとして、見事な役割を果たしている。

  • 1996年/32分/カラー/16mm 英題:MOSHI MOSHI
  • 監督・脚本:木下 恵
  • 撮影・照明:田中利夫 録音・MA:照井康政
  • 出演:酒井桂子、上原大介、河原田あや子、早藤昭次、浜田明子