水の中のねこ

監督:喜島克明

ピンホール・カメラの中に棲んでいるスナとミズ。彼らの語りにそって映画はあらゆる夢を見る。レンズを持たないカメラは貪欲に首を振って、世界のあらゆる光を集めようとする。スナは、ピンホールを抜けて来る光だけではあきたらず、自分の眼をピンホールにして、脳に直接焼き付くような風景が欲しいと願う。画面は、そんなスナの野望どうりに、いつも物の周囲を回り、パンし、フォローし、左に走り抜ける列車と右に駆けていく男を同じフレームの中に見ていたいという欲求にギラつく。天地左右を逆に写す虚像の風景からスナは脱出しようとする。ミズは動かない。彼女はカメラの中の暗闇に座っていても充分に自由だからだ。スナはとうとう、まぶしすぎる外界に出る。彼はやがて目がかゆくなり、すぐに実態の世界を疑うはずだ。“見る”という生理的機能を、メカニカルな記号に置き換えてみようとする実験的精神が息づいている作品。

  • 1980年/29分/カラー/8mm
  • 監督・脚本:喜島克明
  • 撮影:高島健一 撮影補:中野民夫 製作:映酩亭プロダクション
  • 出演:森 道子、石富由美子、南 晋一郎、喜島克明