蝸牛庵の夜

監督:横田丈実

青い空を白い雲が流れていく。場所は京の寺、浄念寺。住職の息子は日がな1日、何をするでもなく、ぼんやりと過ごしている。やってくるのは、酒好きの先輩1人だけ。季節は、2人が酒を酌み交わすうちに、ただ静かに過ぎていく…。緑萌える春、祭囃子の夏、月の照る秋、雪の降る冬。そんな折々の季節の風物を盛り込みながら、過ぎていく時間の流れを描写した映像詩。的確なフレーミングが生み出す奥行きのある画面、風の流れや光の微妙な変化を捉えたフィックスのカメラ、葉裏のそよぎまで取り込んだ録音など、そうしたすべてが相まってまさに映画的としかいいようのない“ドラマ”が展開していく。“脚本にできない映画、それでいて物語のある泣ける映画”をつくりたいという作者の意図は、画面の隅々に滲み出ている。無為に見える日々がどれほど豊かなものであるかを、光と音とゆったりとした時間の流れの中に表現した、情感豊かな作品だ。

  • 1992年/48分/カラー/8mm
  • 監督・制作・脚本・撮影:横田丈実
  • 音楽:釋臣洋文
  • 出演:扇谷泰伸、大原一仁、横田昌子、横田兼章