ジンジャーエール

監督:田淵史子

観客賞(東京)、観客賞(大分)

その時のジンジャーエールは、苦かった。

高校卒業と同時に生まれ育った故郷を出て東京にやって来た僕は、大学を卒業した後も何となく東京に留まっていた。そこへ幼なじみのリキちゃんから、結婚することになったと連絡がある。僕とリキちゃんとヒコちゃんは、タイプは違うがずっと仲良しで、いつも一緒にいた仲だった。そして15歳の時に「10年後の自分に向けた手紙を書いて、10年たったら掘りおこそう」と、ジンジャーエールの空き瓶に、お互いに何を書いたかは秘密のまま、町の片隅の木の根元に埋めていた。ちょうど10年目に当たる年、久々の再会を楽しみに、かつて3人でよく行った定食屋で仲間を待つが、彼らは現われない。傷心のまま東京に戻った僕は、しばらくして彼らが来なかった理由を知る。そして再び故郷に戻り、1人きりで木の根元を掘り起こし、ジンジャーエールの瓶から3人分の手紙を取り出すのだった。
明確な理由もないまま、宙ぶらりんな状態で東京にいることに不安や虚しさを感じ始めた主人公が、帰省を通して自分を見つめ直す。その寡黙な工程が、故郷の定食屋のテーブルという定点から、いくつかの時間を戻るという作業によって描かれる。過去、現在、ありえなかった時間と重ねられていく風景は、店の小ささもあり、ややもすると変化に乏しい。しかし全体から伝わってくるつくり手の映画に対する誠実さが、小さな欠点を補ってあまりある魅力になっている。

  • 2001年/47分/カラー/video 英題:GINGER ALE
  • 監督・脚本:田淵史子
  • 撮影:上原源太 アドバイザー:諸江 亮 照明:奥田賢太、鯉淵雄一、樋ロ哲史 録音:北川悟士 音楽:オケラ座、THE MICETEETH ヘアメイク:高野毅弘 協力:万場町役場
  • 出演:阿藤利郎、宗形力也、本山彦次郎、小山萌子、高橋和久、楊 崇、立花あかね、西村道勝、石井 泉、小浅和大、中牟田栄喜、木下祐子、久保公二、新堀創世、蔵 一彦