『I AM NOT INVISIBLE』は、この世界、この社会、そこに⽣きる、ひとりひとりに、⾃分⾃⾝に、どこまでも誠実に、真摯に向き合った切実な作品で、私は深い感銘を受けました。
審査会でも、多くがはじめから『I AM NOT INVISIBLE』を挙げ、全員の意⾒の⼀致でグランプリに決まりました。
フィリピン、タンザ川周辺の貧困地区、英語と⽇本語の情報がほぼ存在しない、「名もないスラム。検索してもでてこないだろう。」といわれる「インビジブル」なスラムを訪れ、「⼈⽣で最も⾟い記憶は?」という質問からはじまる前半パート。
そして、後半パートでは、そのスラム出⾝で、そこを案内してくれたおばあちゃんと作者⾃⾝の会話が続く中で、いまここ、私たちのこの社会が、写し鏡のように投影され、「正しさ」や、「幸福」「貧しさ」「努⼒」という⾔葉が、ゆらいでゆく瞬間が、⽬の前に提⽰されてゆくさまが、秀逸です。そのことで、鑑賞者もまた、作者とともに、並⾛しながら、⾃分⾃⾝の中に潜んでいる「インビジブル」「⾒えなさ」に⽬を⾒開かされる、という構造が、この作品を個⼈の物語をはじまりに、社会そのもののひずみを⾒つめ、そこに⽣きるひとりひとりを⾒つめ、私を含む、私たちひとりひとりが、その⾒つめるそのやり⽅を、その在り⽅を問われることになる。そのことが、この作品を普遍的なものにしているという事実が、この受賞の主な理由です。
また、私には、前半に記録するひとりひとりの名前、そして、後半、おばあちゃん、そして、作者⾃⾝もまたひとりの名前をもつひとりとして、「I」、わたし、という存在、そのひとつひとつを、この映画をもって、迷いながらも⾒つめようとする、刻もうとする姿勢そのものが、とても尊い⾏為に思えました。
くわえて、審査の席では、作者が、この映画をつくること、それを発表してゆくことも含め、映画というものが、作者⾃⾝にもまた、救いをもたらす存在でもあり得るのではないか、という可能性についても、話し合われました。
その事実は、映画を愛するものたち、創作をおこなうもの、志すものたち、私を含む、ひとりひとりにとって、⼤きな希望であり、真実であると、私は、信じたい。
だからこそ、川島佑喜監督がこれからも、この世界の、この社会の中を⽣きのび、ひとりひとりの、I、わたしの、わたしたちの、INVISIBLEに、切なるNOTをつきつけながら、弱さを⼤切に、しなやかさをもって、すすんでいってくれることを、そしてわたしに、わたしたちに、また新しい世界を⾒せてくれることを、私は強く願っています。
毎年お話をしておりますが、このエンターテイメント賞、ホリプロ賞は、観客を楽しませるということを一番意識して、とにかく面白い作品を選びましょうという視点でスタッフと色々話をしてきました。今回受賞された『さよならピーチ』は若い世代の監督、キャスト、スタッフの映画に対する愛が本当にぎっしり詰まっていて、そしてこの世代の人たちのリアルな瑞々しさが、余すことなく発揮されておりまして、観客の心を捉える作品に仕上がっていたということで、この賞をエンターテイメント賞とさせていただきました。
とはいえ、14歳という一番若い才能が、素晴らしい発想で作った、ひがし沙優監督の『正しい家族の付き合い方』、そして最後本当にエンディングのテーマと共にじんわり泣けてきてしまう畔柳太陽監督の『松坂さん』、これらも大変素晴らしい仕上がりで、甲乙つけがたい作品になっていたと思います。本当に楽しませていただきました。
おかげ様で2016年にこの賞を取りました吉川鮎太監督が弊社に入社しまして、様々な作品の助監督や監督を経て、ついに映画館でかける劇場映画の監督デビューを果たすことができました。この1週間後、9月27日に『SOUND of LOVE』という作品で、シネマロサで公開が決まっております。そして昨年受賞しました渡邉龍平監督もうちに入りまして、今一生懸命いろんな作品で助監督として走り回っております。何年か後に、渡邉君の作品も是非監督でデビューさせてあげたいな、という風に思っておりまして、今回の遠藤監督はじめ、とにかくこの若い人たちをバックアップして、うちのタレントで是非いい作品を作っていただきたいと心から願っております。
2024年9月20日(金)の「PFFアワード2024」表彰式にて述べられた、各賞授与理由および、最終審査員による総評をご紹介します。[人名敬称略]
授与理由
グランプリ
【受賞作品】
『I AM NOT INVISIBLE』
監督:川島 佑喜
【プレゼンター】
小林 エリカ(作家/アーティスト)
『I AM NOT INVISIBLE』は、この世界、この社会、そこに⽣きる、ひとりひとりに、⾃分⾃⾝に、どこまでも誠実に、真摯に向き合った切実な作品で、私は深い感銘を受けました。
審査会でも、多くがはじめから『I AM NOT INVISIBLE』を挙げ、全員の意⾒の⼀致でグランプリに決まりました。
フィリピン、タンザ川周辺の貧困地区、英語と⽇本語の情報がほぼ存在しない、「名もないスラム。検索してもでてこないだろう。」といわれる「インビジブル」なスラムを訪れ、「⼈⽣で最も⾟い記憶は?」という質問からはじまる前半パート。
そして、後半パートでは、そのスラム出⾝で、そこを案内してくれたおばあちゃんと作者⾃⾝の会話が続く中で、いまここ、私たちのこの社会が、写し鏡のように投影され、「正しさ」や、「幸福」「貧しさ」「努⼒」という⾔葉が、ゆらいでゆく瞬間が、⽬の前に提⽰されてゆくさまが、秀逸です。そのことで、鑑賞者もまた、作者とともに、並⾛しながら、⾃分⾃⾝の中に潜んでいる「インビジブル」「⾒えなさ」に⽬を⾒開かされる、という構造が、この作品を個⼈の物語をはじまりに、社会そのもののひずみを⾒つめ、そこに⽣きるひとりひとりを⾒つめ、私を含む、私たちひとりひとりが、その⾒つめるそのやり⽅を、その在り⽅を問われることになる。そのことが、この作品を普遍的なものにしているという事実が、この受賞の主な理由です。
また、私には、前半に記録するひとりひとりの名前、そして、後半、おばあちゃん、そして、作者⾃⾝もまたひとりの名前をもつひとりとして、「I」、わたし、という存在、そのひとつひとつを、この映画をもって、迷いながらも⾒つめようとする、刻もうとする姿勢そのものが、とても尊い⾏為に思えました。
くわえて、審査の席では、作者が、この映画をつくること、それを発表してゆくことも含め、映画というものが、作者⾃⾝にもまた、救いをもたらす存在でもあり得るのではないか、という可能性についても、話し合われました。
その事実は、映画を愛するものたち、創作をおこなうもの、志すものたち、私を含む、ひとりひとりにとって、⼤きな希望であり、真実であると、私は、信じたい。
だからこそ、川島佑喜監督がこれからも、この世界の、この社会の中を⽣きのび、ひとりひとりの、I、わたしの、わたしたちの、INVISIBLEに、切なるNOTをつきつけながら、弱さを⼤切に、しなやかさをもって、すすんでいってくれることを、そしてわたしに、わたしたちに、また新しい世界を⾒せてくれることを、私は強く願っています。
[副賞:賞金100万円]
準グランプリ
【受賞作品】
『秋の風吹く』
監督:稲川 悠司
【プレゼンター】
小田 香(フィルムメーカー/アーティスト)
ゴミ収集員のショットのあらゆるディテールに魅せられました。稲川さんが見ている社会、見せたいと思っている世の中を感じました。
ゴミ袋の中から飛び出た、匿名の、鋭利な物で、ゴミ収集員の身体が傷つく、ごみ収集中に責任のないことで理不尽に殴られる、歩いてるだけなのに犬に吠えられる、道端でガムをふんじゃう。そんな1日の終わりに、家に出てきたゴキブリを殺さなかった主人公のありよう、そしてその後の顛末の容赦無さ。『秋の風吹く』全体に流れる乾いた優しさと憤り、それらを俯瞰する視線。諦念を表現することによって諦念に抗う手段とすること。 好きでした。 作品をつくっていただき、ありがとうございました。
[副賞:賞金20万円]
審査員特別賞
【受賞作品】
『松坂さん』
監督:畔柳 太陽
【プレゼンター】
高崎 卓馬(クリエイティブ・ディレクター/小説家)
審査は当然ですが、それぞれ推すものが違いました。審査の基準というのがそれぞれのなかで違うものがあったからだと思います。僕はそのなかでこの作品にとてもポテンシャルを感じました。セリフや細かい描写のセンス。ディティールをきちんと定着させる力。たとえば「プリントしたての紙の温かさ」とか。世界を丁寧に見つめる作家の存在を感じました。
荒削りの部分もふくめ、将来に魅力を感じざるを得ませんでした。骨太な映画をつくってください。そしてぜひ来年、グランプリを狙ってください。
[副賞:賞金10万円]
【受賞作品】
『END of DINOSAURS』
監督:Kako Annika Esashi
【プレゼンター】
仲野 太賀(俳優)
個人的にはもうめちゃくちゃ好きでした。本当に面白かったです。監督の私小説的なことですかね、ノンフィクションとフィクションであるような部分を、すごくうまく行き来して、30分間本当に一切飽きることなく映画が進んでいって、演出も脚本も編集もめちゃくちゃうまいなと思いました。セリフ1つとっても、セリフのためのセリフというよりかは、もっとため息のような、個人的で実感のこもっているセリフばかりがあったのも、すごく僕としては印象的でした。それに加えて、日本に対するシニカルな批評性とかも垣間見えて、映画の中にその視点が1つあるだけで時代性が出るというか、今撮るべき映画になっているのではないかなと思いました。個人的には、ぜひ長編作品を早く見たいなという思いでいっぱいです。日本映画に新しい風をふかしてください。おめでとうございます。
[副賞:賞金10万円]
【受賞作品】
『これらが全てFantasyだったあの頃。』
監督:林 真子
【プレゼンター】
吉田 恵輔(映画監督)
審査めちゃくちゃいっぱい頑張って、みんなで審査しました。すごく割れました。て言うと、大体みんなに気遣って割れたふりして、本当は大体決まっているんだろうと思いつつ、本当にバラバラで、初めて会った審査員の人たちなんですけど、俺と趣味全然違うと思って、なかなか時間かかったんですけど、僕は一番好きで、正直最後の方鳥肌立って、ちょっと泣きそうになりました。話の内容的に全部理解しているかと言ったら、結構複雑な話なので分かってない部分は結構あるかもしれないですけども、この物語、結構今回映画をテーマにしてる作品が多かったと思うんですけど、その中でもこの作品は、痛みであったりとか映画を作る苦しみみたいなものが割と出ていて、そこの中でも儚さであったりとかそういうものがあるし、何よりもこの1個1個のアイデア、細かい毎シーンぐらいにアイデアがいっぱいあって、僕は脚本を書いてるので、もういいでしょうと思うところから、いやもう1個ぐらいアイデア入れられるだろうって詰めて作業、本当に地獄の作業をしないと、この作品にはならないことが分かるので、1アイデアで走った作品でないことがものすごく分かるので、あなたの努力がものすごく伝わった作品でした。なのであなたの未来は明るいと思っております。おめでとうございます。
[副賞:賞金10万円]
エンタテインメント賞(ホリプロ賞)
【受賞作品】
『さよならピーチ』
監督:遠藤 愛海
【プレゼンター】
菅井 敦(株式会社ホリプロ代表取締役)
毎年お話をしておりますが、このエンターテイメント賞、ホリプロ賞は、観客を楽しませるということを一番意識して、とにかく面白い作品を選びましょうという視点でスタッフと色々話をしてきました。今回受賞された『さよならピーチ』は若い世代の監督、キャスト、スタッフの映画に対する愛が本当にぎっしり詰まっていて、そしてこの世代の人たちのリアルな瑞々しさが、余すことなく発揮されておりまして、観客の心を捉える作品に仕上がっていたということで、この賞をエンターテイメント賞とさせていただきました。
とはいえ、14歳という一番若い才能が、素晴らしい発想で作った、ひがし沙優監督の『正しい家族の付き合い方』、そして最後本当にエンディングのテーマと共にじんわり泣けてきてしまう畔柳太陽監督の『松坂さん』、これらも大変素晴らしい仕上がりで、甲乙つけがたい作品になっていたと思います。本当に楽しませていただきました。
おかげ様で2016年にこの賞を取りました吉川鮎太監督が弊社に入社しまして、様々な作品の助監督や監督を経て、ついに映画館でかける劇場映画の監督デビューを果たすことができました。この1週間後、9月27日に『SOUND of LOVE』という作品で、シネマロサで公開が決まっております。そして昨年受賞しました渡邉龍平監督もうちに入りまして、今一生懸命いろんな作品で助監督として走り回っております。何年か後に、渡邉君の作品も是非監督でデビューさせてあげたいな、という風に思っておりまして、今回の遠藤監督はじめ、とにかくこの若い人たちをバックアップして、うちのタレントで是非いい作品を作っていただきたいと心から願っております。
[副賞:Amazon商品券]
映画ファン賞(ぴあニスト賞)
【受賞作品】
『ちあきの変拍子』
監督:白岩 周也、福留 莉玖
【プレゼンター】
岡 政人(ぴあ株式会社メディアビジネス・プロデュース部 部長)
映画ファン賞(ぴあニスト賞)は、ぴあ株式会社で提供しておりますエンターテインメント情報サービス「ぴあ」というアプリで、一般公募で選ばれた審査員の方で選んだ賞になります。このエンターテイメントアプリ「ぴあ」は、映画好きはもちろんこと、演劇や音楽、美術など様々なエンターテイメントに積極的なユーザーのことをぴあニストとして、そしてそのぴあニスト審査員の方が会場で会期中、スクリーンで全ての作品を見て、審査会議で色んな意見や感想を言い合って決まった賞です。その審査員の方のコメントをご紹介させてください。
「31分がすごく短く感じられる、長尺の映画を観たのと同じぐらいの満足感、印象を受けました。それはやっぱり仲間同士のチームワークの勝利、みんなで工夫して作り上げたからこそ、セリフも演技もシーンも濃密で凝縮されているから、そういう風に感じるのでないかと思いました。それからリアルな今の高校生の姿、時代の空気を表していると感じる一方で不変的なテーマでもあって幅広い世代に共感できる切ない気持ち、次につながる爽やかな気持ちで楽しめて、映画館でかかっていてもなんら遜色がない作品だという風に感じました。」ということで、いつも議論分かれることが多いんですけど、実は一発で3人の審査員の方、満場一致で決まりました。おめでとうございます。
それとちょっと他の作品も少し触れさせてください。3人全員が共通で推していた作品、共通でというのがもう1作品実はありました。それは『チューリップちゃん』でした。絵のデザインから動き、セリフまで本当に独特の世界観で見入ってしまう、監督はお若いですけど人生3度目なんじゃないかって感じてしまうぐらい、深いすごい才能を感じる作品だったいうのが、審査員の方3人共通の意見でした。他に、『さよならピーチ』、『さようならイカロス』の長尺2作品であったり、若い才能ですね、『正しい家族の付き合い方』、『サンライズ』の2作品も、すごくいろんな感想、意見が出ました。
映画ファン賞の副賞は、鳥取でも見られるはずです。映画ギフトというデジタルギフトでして全国共通で使えて、映画を見る際に使えるギフト券5万円分をお渡しします。お二人でぜひたくさん映画館で映画見ていただいて、次の作品の構想に活かしていただければと思います。ありがとうございます。
[副賞:映画館ギフトカード]
観客賞
【受賞作品】
『あなたの代わりのあなた展』
監督:山田 遊
【プレゼンター】
入江 良郎 (国立映画アーカイブ 学芸課長)
ぴあフィルムフェスティバルを今年も国立映画アーカイブで開催できましたこと、大変光栄に存じます。私ども国立映画アーカイブで、今年の上映作品だけをとってみても、例えば成瀬、小津、黒沢、あるいはロッセリーニ、それから例えばジョー・ダンテの大変珍しい映画がかかってそれで場内が満員だったという、そういったこともございました。そういう場所なんですけれども、ぴあフィルムフェスティバルの中のプログラムで、今年は特に「はじまりの映画」というプログラムがございましたので、この中でリュミエールのまさに本当に最初の映画ですね、そこから始まって、それから皆さんの最も若くて新しい映画が同じスクリーンでかかったということで、大変壮観だったと思います。その中で観客の皆さんから最も支持を集めた作品が『あなたの代わりのあなた展』です。お客様が選んだ賞なんですけれども、印象としてはすごくシンプルだけれども先が読めない作品だったと思います。それで『あなたの代わりのあなた展』という不思議なタイトルをヒントにしながら、ずっと観てしまうという作品だったと思います。出てくる女性の方のキャラクター、それから喋り方ですよね、それがどんどん変わってくんですけれども、それが最後関西弁になるという、面白かったと思いますし、今回上映された映画の中で若さと、それから生きの良さということで突出していたかと思います。おめでとうございました。
[副賞:国立映画アーカイブ優待券]
最終審査員による総評
小林 エリカ
(作家/アーティスト)
受賞者のみなさま本当におめでとうございます。⼊選者のみなさまも本当におめでとうございます。そして、映画を完成させることができ、この賞に応募することができたみなさまにも、ただそれだけで、それが本当に凄いことであるということを、⼼からのおめでとうの⾔葉を、お伝えしたく思います。
審査をとおして、作品について、たくさん語り合いました。しかしどれほどまでに語っても語り⾜りないと思えるほどの作品をつくってくださったみなさまに、それを⽀えつづけるPFFのスタッフのみなさまに、⼼から感謝します。
先ほどの高崎さんと同じように、私も25年前にPFFに応募して落とされた一人でございまして、PFFに憧れながらもそこに⼿さえ届かなかったわたしがいまここで、このPFFの審査にかかわらせていただいていることを思うと、映画を好きでよかった、死ななくてよかった、というのが正直な感想です。
いまこの世界も、この社会も、私にはとても過酷なものに思えますが、どうかここにいるひとりひとりが、映画を、創作を、⽇々をとおして、ともに⽣きのびることができたらいい、と私は切に願っています。
その意味で、この場所は、私にはとてつもなく⼤切な場所に思えるのです。
今⽇はありがとうございました。そして、みなさま、本当におめでとうございます。
小田 香
(フィルムメーカー/アーティスト)
実は自分も過去にぴあに・・(笑)。入選された19本の作品の作り手のみなさま、映画を拝見できて大変光栄でした。作り手のみなさま が、作品をつくり、誰かに届けようと思い、映画祭に応募し、誰かに届いたからこそ上映がなされ、より多くのひとの目に触れる機会に繋がったこと、それを実現している運営者やボランティアの方々のご尽力、志に、観客のひとりとして、作り手の一人として、感謝いたします。
異なる個性をもったひとつひとつの映画は、これからどのような道を歩んでいくことになるでしょうか。自主映画、商業映画、個人映画、アート映画、娯楽映画、つくっている作品が、どのような名前で呼ばれても、今わたしたちには他者と映画を共有する術があり、それに向かって日々努めることができます。映画祭、映画館での興行、美術館での上映、ギャラリー、ネットでの配信、場所をみつけてホールや小さな空間で自主上映をすること。つくったものを誰かに見てもらう、どこかにいるかもしれない誰かに届ける。映画はつくっただけでは終わらないことを、作品を上映する機会に恵まれるたび、自分も学び続けています。
今回PFFで上映された19作品が誰かとの縁を見つけ、今後の上映に繋がっていくことを、心から願います。
わたしたちは、理不尽な日本社会のなかで、虐殺を許す世界のなかで、傷つけ合ったり、ケアし合ったりしながら、映画をつくっています。矛盾、無力感、やるせなさ、それらの感情にのまれそうになっても、他者との関わりを諦めずに、まだ映画をつくっているのは、上映活動に勤しむのは、映画を見続けているのは、なぜでしょうか。
今回グランプリ、準クランプリとなった『I AM NOT INVISIBLE』と『秋の風吹く』は、わたしたち がいち市民として、一作り手として、主体的に生きることを手放さないこと、迷いや葛藤の中にあっても現状に納得しないことを、描いているように感じました。
その姿勢と実践に、大変励まされました。ありがとうございました。
高崎 卓馬
(クリエイティブ・ディレクター/小説家)
今日ここで今グランプリの川島さんが「精進してまいります」と最後にひと言言われた時に、鳥肌が立ちました。まさに本当に、審査してる時に、この映画をどういう気持ちで作ってるのか、それを作り上げた映画が、今監督の川島さんとか、出てくださってる方々にどういう影響を与えてるのか、いろんなことを考えました。そしてやっぱり映画ってすごいなって純粋に思いました。
先ほどご紹介にあったように、私はヴィム・ヴェンダースさんと『PERFECT DAYS』という映画を作ったのですが、ヴェンダース監督がずっと作ってる中、「映画はカメラの後ろが映る」と言ってました。カメラの後ろにいる僕たちがどういう気持ちでいるかとか、どういう覚悟があるかとか、何を考えてるかというのが、そこにセリフがなくても、そこにそういう芝居がなくても、そういうテーマがなくても、それは映っちゃうんだ、だからちゃんと生きろという、ずっと何度も言われていて、そのことを今、皆さんのスピーチを聞いて思い出しました。今日、受賞式で皆さんのキラキラしてる顔を見れてめちゃくちゃ良かったです。
僕はあの30年以上前の学生の頃、4回PFFにトライをして、ノミネートもされずポイッとされて、その時の悔しさで、すごい頑張ったっていう気がします。30年経って、ヴェンダース監督と映画を作れるということも、それもそれで1つのうちかなって思うんですけど、なので今日受賞されてる方はもちろん精進して欲しいし頑張って欲しいし、素敵な映画を作って映画の力っていうのを広めて欲しいんですけど、受賞されていない方、ノミネートされてる方も相当すごいです。僕は本当にこのポジションにいるっていうだけで、35年前の僕はめちゃくちゃ嫉妬してた人たちで、ここで感じたこと、ここで「うっ」てなっていた気持ちというのを生涯忘れずに物づくり、是非して欲しいなと思います。素敵な作品をありがとうございました。
仲野 太賀
(俳優)
私も過去にPFFのスカラシップで作る映画のオーディションに落ちたことがあります(笑)。あの時の悔しい気持ちをずっと胸に、俳優人生なんとか頑張って、今日という日が来たのかなという風に思っております。話すとやっぱ思い出しますね、あの日のことは。僕自身が映画を好きになって、憧れる監督みんなPFF出身の方ばかりで、それに気づいてからスカラシップ作品を見あさったりだとか、そうやって無我夢中にたくさん映画を見ていて、すごく俳優として育ててもらったというか、いろんな感性を磨いてもらったっていう、そういう風に思っているので、僕にとっても憧れのPFFのこの場所に来れたことを、すごく感慨深く思っております。今回全部で19作品をゆっくり見させてもらったんですけど、本当にそれぞれ個性が強くて、映画に対する情熱と愛と、なんとかして自分の表現を貫き通したいっていう気持ちと、見ているだけですごくパワーをもらえる作品ばかりでした。今日、授賞式で本当に監督さんたちのキラキラした表情を見ていると、やっぱり映画って素敵だな、と改めて思いました。個人的には会場出た時に、『さようならイカロス』のチームに撃たれたりしないかなって、そんなことを思ったりもしています(笑)。審査員の中でも今回受賞に至らなかった作品でも、めちゃめちゃ映画談義で盛り上がる作品っていっぱいあって、何かしらの最優秀男優賞誰かなとか、最優秀女優賞誰かなとか、本当にみんなに賞をあげたいぐらいの気持ちでいっぱいだったんです。審査する時間もすごく楽しかったです。いつかどこか映画の現場で皆さんとご一緒できる日を楽しみにしています。今日はありがとうございました。
吉田 恵輔
(映画監督)
僕もぴあに落ちました。だけど今結構活躍してるつもりです。ぴあに通らなかった時の作品、20代の作品を今見るとね、びっくりするぐらいつまんないですよ。本当に。多分それみんなに見せたら多分ため口になるぐらいつまんない。なんだけど、今結構活躍できてるのはやっぱりね、やり続けました、俺は。作り続けたから今があると思ってます。なので皆さんも、すごい才能を持ってる方々なので続けてほしいと思います。続けていれば、何かきっかけは多分やってくるかもしれないし、かと言って、ちょっと言っとくけど、もし続けて、プロになったりしたとしても、それはそれで結構苦しいこといっぱいあります。映画は。コミュニケーションを取るのも大変だし、理不尽なこともあるし、予算がつかないことも、プロデューサーがセンスないこと言ってきたり、いろんなストレスがあって、時には映画を嫌いになることもあるし、うつうつとすることもあると思う。それでもやっぱりやる価値があるなって思う瞬間がいっぱいあります。なので映画を作って、完成した時にはやってよかったとか、映画監督になって本当に幸せだと思う瞬間があります。本当に100辛くて1のその幸せの1の力がとんでもなくでかいので、それをやる価値があるので、どうか今ある才能を手放さないように走り続けてもらえたら幸いだと思っております。頑張ってください。