1977年から続く発見映画祭

第39回PFF(ぴあフィルムフェスティバル)

2017916日[土]~29日[金]
東京国立近代美術館フィルムセンター(京橋)

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審査講評

― 最終審査 ―

2017年9月29日(金)の「PFFアワード2017表彰式」にて、最終審査員5名およびパートナーズ各社より述べられた、各受賞作へのコメントをご紹介します。[人名敬称略]

グランプリ

【受賞作品】

『わたしたちの家』
監督:清原 惟

【プレゼンター】

最終審査員:李 相日(映画監督)

「物凄く刺激的でした。若い頃に、別次元や時間軸をいじった世界を描いてみたいと頭の片隅にはよぎるのですが、それを実際にトライする胆力というか、ただ勢いだけじゃなく、撮影、照明はもちろん美術も含めて技術がしっかり裏打ちされていました。特に、カメラの位置が本当に的確でした。二つの世界を描き分けることを細部まで計算し尽くしている、ちょっとその技術が鼻につくかもっていうぐらい完成された、審査員の中でも非常に評価が高かった作品です。17作品を拝見した中で唯一、映像に匂いを感じました。監督が映画というものをすこし掴みかけているような、そんな力強さがありました」

[副賞:賞金100万円]

準グランプリ

【受賞作品】

『子どものおもちゃ』
監督:松浦真一

【プレゼンター】

最終審査員:渡部 眞(撮影監督)

「この作品が準グランプリに落ち着くのは1番早かったです。他は審議の中で入れ替わりましたが、最後までそこで不動でした。それはこの作品のクオリティの高さであったと思います。けれどもグランプリに届かなかった。それが何故かというところが、恐らく松浦監督のこれからの課題になるのかもしれません。本当に難しい子供の芝居を、あの西部劇という形を取らせることによって、上手く演出していました。ですがその分大人の演出がもうちょっとじゃないかという意見があったこともつけ加えます。しかし総論としては最初から最後までこれは準グランプリを取るにふさわしい、ということで一致しておりました」

[副賞:賞金20万円]

審査員特別賞

【受賞作品】

『同じ月は見えない』
監督:杉本大地

【プレゼンター】

最終審査員:永井拓郎(映画プロデューサー)

「入選作品の中で1番長尺だったのですが、その中に複数の視点を持たせたことによって、映画に奥行が出ていると思いました。一方で、その奥行が、本当のテーマを薄めてしまっているということも正直感じました。ただ、映画のテーマである若者の孤独や空虚感を、複数の視点で薄めてしまっている以上に、監督自身のもがきや、足掻きみたいな事が上回って、この映画自体の大きなエネルギーとなっていたことを僕は高く評価して、選ばせて頂きました」

[副賞:賞金10万円]

【受賞作品】

『沈没家族』
監督:加納 土

【プレゼンター】

最終審査員:市川実日子(女優)

「(作品を通して)監督の生い立ちからずっと観ていたので、私も沈没家族の一員のような気持ちになっておりまして、すごく嬉しいです。審査会議は、はじめに何作品か候補の名前を出して、それぞれの審査員が手を挙げて話す、という形で決めていったのですが、実は最初は名前が出ていなかったんですね。でも、もう一度、票が割れているから他の作品についても考えてみようという話になった時に、ふわっと、『沈没家族』が挙がってきました。そういう魅力のある作品でした。お母様の逞しさ、人が生きていく逞しさを感じたり、あとは、監督のとても大切で真剣な時間を観せていただいたので、私も私自身の真剣な部分というか、そういうことを考えるきっかけを頂きました」

[副賞:賞金10万円]

【受賞作品】

『狐のバラッド』
監督:藤田千秋

【プレゼンター】

最終審査員:横浜聡子(映画監督)

「見ている側が自然に画面に見入ってしまう、見ずにはいられない、すごく吸引力のある登場人物が、この映画を最後まで引っ張っていると思いました。監督自身が、この方々を撮らずにはいられない気持ちだということが、とても伝わって来ました。そして、母親だとか友人だとかそういった自分の仲のいい人々に寄り添い過ぎることなく、あくまでも第三者の視点で彼らを見つめる眼差しと距離を、最後まで貫き通していました。面白い人々や魅力的な出来事を嗅ぎ分ける鋭い嗅覚や、センスの良さが滲み出ているなと、また、それらをちゃんと監督自身の今の切実さに結びつけて、結晶させようとしている過程を、この映画の中で見られたことが私はすごくよかったです」

[副賞:賞金10万円]

エンタテインメント賞(ホリプロ賞)

【受賞作品】

『春みたいだ』
監督:シガヤダイスケ

【プレゼンター】

株式会社ホリプロ 映像事業部プロデューサー
宮川宗生

※代表取締役社長 堀 義貴よりのコメント代読

「本作は、セクシャルマイノリティを扱った題材でしたが、根底にある部分には人の持つ普遍的な感情の揺れ動くさまを感じ、またひとつひとつの画の強さにも惹かれ、監督の細部にわたる演出も33分間の中に凝縮され、最後まで見入った作品でした。他に門脇監督の『蝋石』は独特の世界観で見る者を最後まで惹き付けさせる魅力を感じた作品でしたが、シガヤ監督の他のテーマを扱った作品が見てみたいなと思い、エンタテインメント賞とさせて頂きました」

[副賞:AMAZON商品券]

ジェムストーン賞(日活賞)

【受賞作品】

『赤色彗星倶楽部』
監督:武井佑吏

【プレゼンター】

日活株式会社執行役員映像事業部門長
永山雅也

「選考会では、17作品中6作品に絞り、更に深い議論をしましたが、この場を借りてどのような作品が残ったのかをご紹介させて頂きます。『あみこ』『春みたいだ』『わたしたちの家』『情操家族』『子どものおもちゃ』そして、『赤色彗星倶楽部』です。最終的には、見終わったあとに、監督の思いをいちばん強く感じた作品ということで、全員一致でこの作品に決定いたしました。これからの更なるご活躍を期待したいと思います」

[副賞:旅行券]

映画ファン賞(ぴあ映画生活賞)

【受賞作品】

『赤色彗星倶楽部』
監督:武井佑吏

【プレゼンター】

ぴあ株式会社 新ぴあ事業局 デジタルぴあ事業開発室 室長
岡 政人

【一般審査員】

池田泰子、石井優樹、島田真行、鈴木胡桃

「一般審査員の方の声をご紹介させて頂きます。本作については『見終わった後に余韻が非常に残って、何度も見たくなる作品だった』『17作品の中で、最も観客のことを考えて作られているのではないかと、細部に渡って感じました』。武井監督の次の青春映画を是非、見てみたいです。また、当たり前ではあるのですが、映画は作る人がいて、スクリーンで上映して、観客がいて、そのあと、感想を語り合ったり、ああじゃないかこうじゃないかと議論をしたりして、それで成り立つのだと感じるような、濃密な審査会議でした」

[副賞:映画館ギフトカード]

観客賞

【受賞作品】

『あみこ』
監督:山中瑶子

【プレゼンター】

東京都近代美術館フィルムセンター主幹
とちぎあきら

「映画作る人は、作ることに本当に一生懸命で忙しいと思います。でも、決して観客も暇ではない。忙しい中でも時間を見つけて、わざわざフィルムセンターまで電車賃を払って、入場券を買って、会場で観ていらっしゃいます。映画の生みの親は、もちろん作り手なんですけれども、育ての親は、基本的には観客ですよね。一旦産み落とされた映画を、どうやって大きなものにしていくかは観客です。この観客賞というのは、ある種のエールを与えられたと思って、一生忘れずに、これからの映画人人生の糧にしてもらえればと思います」

[副賞:フィルムセンター招待券]

[特別設置] ひかりTV賞

【受賞作品】

『あみこ』
監督:山中瑶子

【プレゼンター】

株式会社NTTぷらら 取締役/サービス本部 本部長
沼尻 孝

「私も一映画ファンとして、メジャーな映画からインディー系のものまで、結構見ている方だとは思うのですが、そういった自分が見てきた映画のなかで、本作は、“枠組みから飛び出した作品”という印象を受けました。弊社審査員の中で、「ハチャメチャ女子高生の映画作品」と呼んでいます。正直に申しますと、最初に見た時は分からないな、と思ったのですが、2回、3回見るうちに、若い人の価値観や、ある意味一途な恋愛観が、とても共感を得るものがあり、特に女子高生の生態を改めて認識することが出来ました」

[副賞:ひかりTVポイント]

― 最終審査員による審査講評 ―

「PFFアワード2017表彰式」の最後に、最終審査員の方々に審査を振り返っていただきました。

渡部 眞(撮影監督)

本当に粒揃いの作品ばかりだったと思います。勉強になりました。しかもこのような素晴らしい会場で上映される機会に恵まれてうらやましい限りです。これから映画作家を目指す人にとって、このフィルムセンターで上映されることは本当に憧れなのだと思います。ここは映画における日本のメッカのようなところで、自分自身もここで見た心震える映画の数々を思い出します。自分の将来には不安を抱く日々でしたが、名作を見るとそんな気持ちも吹き飛び、必ず映画を目指す気持ちが湧き起こりました。あなた方もぜひ映画を作り続けてください。PFFはそういう意味で毎年素晴らしい作家を次々と育ててきました。私はPFFから巣立った監督、長崎俊一監督や石井岳龍監督、長尾直樹監督とキャメラマンとしてお仕事させていただきました。共通して言えるのは精神的に常にチャレンジンングでアマチュア精神を忘れない監督たちだということです。与えられた企画をただこなすだけのプロにはならないぞ、必ず撮りたいものを撮るというような気持ちでやられていました。ここにいらっしゃる皆さんもそういう方向で、賞があるなしに関わらず、そういう心意気でこれからもやってもらえればなと思います。今ここに集まっていることも大きなチャンスです。次の作品へ向けて自分以外の作品のスタッフやプロデューサーに話しかけてください。授賞式が終わりではなく、もう次の映画づくりが始まっているのだと意識し、良い作品づくりを目指してくれたら嬉しいです。本当に期待しております。

李 相日(映画監督)

審査会議は、近年に無いほど時間がかかったと言われました。僕は、しつこいとよく言われているので(笑)、しつこく、何度か掘り起こして、ひとつひとつの作品について話し合う過程を、この審査員の方々と共有出来たことが非常に光栄ですし、あるべき経緯を踏んで結論を出せたことに、満足とは言わないですけど、良かったのではないかと思っています。その過程で、僕が受賞した時よりも、物凄く技術が向上しているなと感じつつも、例えば最終審査で5本を選ぶ中、最後の枠を競る作品というのがいくつかあって、その時に話し合いを超えて残るのは、結局推す人の気持ちが強いものが残るんです。それは、作り手の思いが深く伝わっているからだと当然思うのですが、皆それぞれ作りたい映画のイメージや、動機は様々だと思います。観客を喜ばせたいとか、自分の思いを伝えたい、いろいろあると思いますが、監督は基本物凄く孤独なんですね。思いがあって出発しても、そこに俳優が加わり、スタッフが加わり、あと日程、お金、いろんな要素が加わって、最終的に作品を作り上げるまで、途切れることなく毎時間、毎分試されていく。そこを通り抜けて、最初の衝動からぶれずに走り抜けた時に、多分僅差でその思いの差というのは生まれるのかもしれないと、審査会議を通じて感じました。今回、「作ったものを人に見せることの怖さを感じる」と話す入選者の方がいましたけど、本当に怖いです。僕は未だに観客に見てもらうのが怖い。何億もかかって作ったのに見せたくない、って平気で思います。慣れることなんてないんです。それ位物凄く怖いことです。その怖さを今回感じられたということだけでもいいスタートなんじゃないかなと思います。受賞できなかった方は大いなる殺意をもって、受賞できた方も、背中を気にしないで、とにかく、前に、上に進んで行って欲しいと思います。

永井拓郎(映画プロデューサー)

PFFが始まった1977年に私も生まれたので、それなりの歳になっているのですが、今回入選された方々のものの見方、それをどう表現するかということにすごく刺激を受けました。こんなにも感覚が違うのかと驚いたことの方が多くて、でも、イコール自分には作れない映画だなということに、すごく嫉妬を覚えたのも正直な感覚でした。物事に対する眼差しが、どんどん自分の感覚とは変わってきていると感じましたが、独自の眼差しこそ、監督の作家性だと思います。これからも真っ直ぐに物事を見続け、答えがでないことだらけでしょうが、そのような視点を変わらず持ち続けて、どんどん新しい映画を作って頂きたいなと思いました。あと、物凄く馬鹿みたいな話をさせていただきたいなと思うんですけれども、映画ってひとりじゃ絶対出来ないことで、このPFFで受賞や入選されたということをきっかけに、1人でも多くの信頼出来る方たちと出会って行って欲しいなと思います。次が撮れなければとても残念な事で、映画を撮るということ、それに向かって一緒に進んでいけたらいいなと思います。これだけ捕まるもののない、あやふやな時代で、国際情勢もこんな時代だからこそ、映画に対する業とか、思いの丈とかそんなシンプルなことが、最後の最後には勝つんじゃないかなと僕は思っていますし、今回審査員をさせて頂いて、それは凄く確信めいたものに変わりました。一緒に頑張っていきましょう。

市川実日子(女優)

私が初めて映画の現場に参加させて頂いたのは、PFFスカラシップ作品の奥原浩志監督の『タイムレスメロディ』という作品だったのですが、それが約20年前になります。今回この17作品を拝見している時に、何だか、1番最初の『タイムレスメロディ』の現場のことをいろいろ思い出しておりました。私は、自分から映画に出たいと思って参加した人間ではないので、“よく分からない、何をしたらいいのかも分からない、怖い、緊張する”という、すごく硬い気持ちで現場に行っていたのですが、現場の撮影部の方や照明部の方、録音部の方、監督という、職人さんの集まりを目撃して本当に格好いいなと思って、クランクアップの時には硬い気持ちだったものが柔らかくて温かくて熱くて、自分にとって初めての気持ちを経験できました。そんな自分に残ったのは、人が集まってひとつの作品を作ることの喜びでした。私は、今まで仕事をしてきて、人の想像力ってすごいなっていうことをいつも感じます。それは映画を観る方もそうですし、現場のいろいろな方々の想像力によって映画って出来ているんだなと、毎回感じています。今回受賞された監督の皆様もそうでなかった皆様も、個性と想像力を大事にされてこれからもいろんな作品を作られて下さい。私もそれを楽しみにしております。

横浜聡子(映画監督)

今回、自主映画の最高峰と言われるPFFの審査員をやらせて頂きましたが、自分としては、自主映画を見るという感覚ではなく、普段自分が劇場に足を運んで商業映画を見る気持ちと全く同じ、わくわくした気持ちだけを持って、17本、スクリーンで拝見しました。上位の2作品、『わたしたちの家』と『子どものおもちゃ』は、とにかく演出がすごく細やかだと思いました。役者さんに演出する、それを的確に撮る、それを的確に繋げる。映画の基本的なことばかりですが、その3つがとてもよく考えられていて、作る姿勢とか、ものの見方、全てに私は勉強させられました。また、今回受賞にはならなかったですが、太田達成監督の『ブンデスリーガ』という作品が心に引っかかっています。映画を見ていくうちに段々と主人公や状況が分かってくるという、私にとってはその様な映画でした。その「事後的に分かってくる」ということが、ストレスにはならずに気持ちよく見られたのは何故かと考えた時に、頭で理解すること以上に、見る瞬間の楽しさや喜びが映画に散りばめられていたからなのではないかと思いました。今回17作品を監督されたみなさん、多分まだまだやるべき事が山積みだと思います。今日はあくまでも始まりであり、終わりでは全くないとみなさん自身がよくお分かりだと思います。私も映画を作っている者としてはやるべきことが沢山ありまして、それについて一生懸命考える日々です。みなさんと一緒に今後の日本映画界を楽しく盛り上げて、真摯に映画と向き合って行けたらいいなと思います。

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