第40回ぴあフィルムフェスティバル
会期/2018年9月8日(土)~22日(土) *月曜休館 会場/国立映画アーカイブ

審査講評

授与理由

2018年9月20日(木)の「PFFアワード2018表彰式」にて、最終審査員5名およびパートナーズ各社より述べられた、各受賞作へのコメントをご紹介します。[人名敬称略]

グランプリ

【受賞作品】

『オーファンズ・ブルース』
監督:工藤梨穂

【プレゼンター】

最終審査員:生田斗真(俳優)

「僕の「『オーファンズ・ブルース』が大好きです」というひと言から審査会議はスタートしました。それぐらい僕は、観た瞬間からこの映画に魅了されました。主演の村上由規乃さんをはじめ、俳優陣の演技がほんとうにすばらしかったです。今でも頭の中に、登場人物たちが生きているような感覚があります。ひかりTV賞のスピーチの際、工藤監督が「遺作かもしれない」と仰っていましたが、今後の作品も絶対に観たいなと思っています」

[副賞:賞金100万円]

準グランプリ

【受賞作品】

『ある日本の絵描き少年』
監督:川尻将由

【プレゼンター】

最終審査員:佐藤信介(映画監督)

「審査員全員が総じて「好きだという意見で、その「好き」の度合いにあまり差がなかったのも受賞の大きな要因でした。今回のノミネート18作品中で、唯一、涙がこみあげてきた作品でもありました。アニメ、劇映画というジャンルを特定できない作品で、テクニックにも優れ、ユーモアもある。それでちょっと気を抜いていたら、最後には感動が待っていて、すばらしい作品になっていたと思います。私も実写の劇映画出身で、実写映画を贔屓目に見がちかもしれませんが、どうしてもこの作品に賞をあげたいという気持ちが抑えられませんでした」

[副賞:賞金20万円]

審査員特別賞

【受賞作品】

『川と自転車』
監督:池田昌平

【プレゼンター】

最終審査員:冨永昌敬(映画監督)

「この作品に驚いたのは、なるべく「自分」を語らずに純度高く映画を作ろうとしている点でした。というか、自分を語らないことによって言外に「自分」が大きく表されています。ものを作る人間には、自分を表現したいという欲求と、そう簡単に知られたくないという相反する気持ちがあると思います。映画祭カタログの推薦文に、なぜ『川と自転車』という題名なのか、という選考委員からの問いがありました。確かに妙なタイトルですが、察するにそれは、題名によって作者自身の内面が漏れてしまうのを避けたかったためではないか。だからこそ、何も語っていないに等しいこの題名を便宜上あてたのではないか。本編中にも言葉はまったく出てきません。そういう自己韜晦に、表現という括りによって何でもかんでも同一視されることへの作者の強い抵抗を感じました。池田監督がほぼ一人で作ったような映画で、作風からは一人で映画を撮るための知恵すら伝わってきて悲しみを感じるんですけども、その知恵によってむしろ映画の次の形が予見されてもいるという、誰もが無視できない傑作だと思います(ジャック・タチみたいだ、と一瞬興奮したんですが、タチのような物量も人員も風刺性もこの映画は持ちません)。また審査員としては、そういう作品を賞に選ぶことができたというのは喜ばしいことでした。審査会議の早い段階で『川と自転車』をプッシュする声が集まりましたが、満場一致の審査員特別賞というのは、長い議論の末に選ばれたグランプリとは別次元の畏敬の念が込められていると理解してほしいです。そういう意味での特別賞です」

[副賞:賞金10万円]

【受賞作品】

『19歳』
監督:道本咲希

【プレゼンター】

最終審査員:大九明子(映画監督)

「18作品、すべて拝見し終えたときに、『19歳』を推そうと、心に決めていました。この作品は独り語り、モノローグで進んでいく映画なのですが、私は正直言うと、こういったタイプの作品が得意ではありません。ですが、すごく言葉のセンスがいい。言葉ひとつひとつの持つ力を監督がよく知っていて、それを丁寧に配していく力があると感じました。撮影・編集の的確さも見事で、『19歳』というタイトルが、観ているとだんだん心に沁みてきます。友達が主人公のカメラを落とそうとする一瞬の悪意を、二人のカットバックで見せられた時、主人公が未熟な19歳である時、この友もまた多感で未熟な19歳なのだと切なくなりました。この微妙な時期のもやもやした気持ちや、本人たちにとっては切実な悩みが伝わってくる。そういったことに悪意を交えながら、きちんとエンタテイメントにしている点がすばらしかったです」

[副賞:賞金10万円]

【受賞作品】

『すばらしき世界』
監督:石井達也

【プレゼンター】

最終審査員:佐藤公美(映画プロデューサー)

「本作の映像の力、画面の確かさを高く評価しました。映画の主題や物語の展開、ダイアローグなどは特別斬新という訳ではないのですが、作品全体を通じ、人物や風景あるいは空間を、監督とスタッフがしっかり掌握し、考え抜いて撮影・編集されていることが伝わってきました。そして4名の俳優のみなさんの演技に強く感情を揺さぶられました。特に主人公の優が母親を押し倒し「諦めないでよ」と気持ちをぶつけ、それに対し今度は母親が反転して優を地面に押しつけ彼をじっと見おろすシーンは、忘れ難いものになっています。監督は入選者の中で最年少の20歳。より一層たくさんの映画と出会い、多様な映像表現を発見し、磨きをかけてください。心から期待しています」

[副賞:賞金10万円]

エンタテインメント賞
(ホリプロ賞)

【受賞作品】

『からっぽ』
監督:野村奈央

【プレゼンター】

株式会社ホリプロ
映像事業部プロデューサー 宮川宗生
※代表取締役社長 堀 義貴のコメント代読

「監督独自の世界が遺憾なく発揮されていたと思います。
役者のキャラクター作りにコミカルな表現センス、そして最後までひきつけさせるストーリー展開など、観る側にあっという間と感じさせるところに、監督の演出力を高く感じた作品でした。『ある日本の絵描き少年』『貴美子のまち』『カルチェ』など、それ以外にもさまざまな作品が選考に出てきました。エンタテインメントとひと言でいっても、さまざまなジャンルや角度から、その魅力が放たれているので、どの観点から吸い上げるかが悩みどころではありましたが、最終的に野村監督の次回作をみてみたいという思いからエンタテイメント賞とさせていただきました」

[副賞:AMAZON商品券]

ジェムストーン賞
(日活賞)

【受賞作品】

『ある日本の絵描き少年』
監督:川尻将由

【プレゼンター】

日活株式会社
代表取締役 執行役員社長 佐藤直樹

「「才能の原石を発掘しよう」。それが日活らしいのではないかと思って作った賞なのですが、実は今回の川尻将由監督の『ある日本の絵描き少年』については、ほんとうに原石=ジェムストーンなのか、と声がありました。ただ、この作品は僕自身、ヒリヒリさせられるというか。映画を作り続けていくための覚悟、「これでプロになる」「これでめしを食っていくんだ」という意志がこの20分という尺の作品からひしひしと伝わってきました。
私ども日活のプロデューサーは通常、映画やドラマ、最近だと配信の作品を作っているんですけど、アニメーションという違うジャンルの才能と向き合ってみたい、そういうつもりで選んだタイトルです」

[副賞:旅行券]

映画ファン賞
(ぴあニスト賞)

【受賞作品】

『すばらしき世界』
監督:石井達也

【プレゼンター】

ぴあ株式会社
デジタルメディア・サービス局 新ぴあ事業推進部部長/統括編集長 岡 政人

「今回の審査会議で出た声を代弁させていただきます。『すばらしき世界』は、感情の揺らぎ、ぶつかり合いがとにかく見る者に伝わってくる。鳥肌が立った。撮りたいという監督の意志が強くつたわってくる作品で、役者の演技の引き出し方も含めすばらしく、初めての長編とは思えない。こうしたことが一般の映画ファンの目線でみても強く感じられる作品で、「次回作も映画館でみてみたい」という意見も出ての受賞となりました。
それから審査会議で、最後まで争ったのが『一文字拳 序章-最強カンフー少年対地獄の殺人空手使い-』で、いますぐ映画館で上映されてもおかしくない作品と声が出ました。特にチームみんなで撮っている感じが出ていて、すでに中元組になっているというのが印象的という声が出ました。ほかにも『からっぽ』『貴美子のまち』『ある日本の絵描き少年』『川と自転車』など、あげるときりがないのですが、会議の机上にあがりました。
映画は、撮る人がいて、観る人がいて、そうやって成立するのだと改めて実感する審査会議になりました」

[副賞:映画館ギフトカード]

観客賞

【受賞作品】

『一文字拳 序章 ― 最強カンフー少年対地獄の殺人空手使い ―
監督:中元 雄

【プレゼンター】

国立映画アーカイブ
学芸課長 入江良郎

「観客賞は、その会場に実際に足を運んで作品を観た人たちの選んだ賞ということになります。私が審査したわけではなく、観客のみなさんが選んだ賞になりますが、『一文字拳 序章-最強カンフー少年対地獄の殺人空手使い-』は、私ももちろん拝見させていただき、とても好きな作品でした。映画への愛と自主映画マインドに溢れた作品で。中でも観客の心をとらえたのはやはりアクションシーンではないでしょうか。ワンカット、ワンカットがすごい出来で目が釘付けになりました。最後のNG集をみればわかるのですが、シーンのひとつひとつの本気度というのが見応えのあるものにしていたと思います」

[副賞:国立映画アーカイブ招待券]

[特別設置] ひかりTV賞

【受賞作品】

『オーファンズ・ブルース』
監督:工藤梨穂

【プレゼンター】

株式会社NTTぷらら
代表取締役社長 板東浩二

「ひかりTV賞の選考は、まず構成力・描写力・演技力などを総合的に評価させていただきました。今回選ばれた『オーファンズ・ブルース』は大学の卒業制作作品ということで、言ってみれば卒論のようなものだと言っていいかもしれません。でも、すばらしい作品で、ひかりTVですぐに配信したいと思いました。それから主演のエマを演じられた村上由規乃さんの演技力もすばらしかった。観ているうちにどんどんと自然に(作品に)引き込まれていきました。これからも新しい作品をつくっていただければと思います」

[副賞:VISA商品券]

最終審査員による総評

生田斗真 
俳優

初めてPFFに参加させていただき、入選された18本の自由で無垢な作品を観て、そして今、みなさんの晴れ晴れしい笑顔を見ると、感無量です。涙が止まらないというか、感動しています。お前が泣いてどうすんだって話なんですけど(苦笑)。

近い将来、みなさんの時代が必ずくると思います。その時代に僕も乗り遅れないように頑張っていきます。今後とも、日本のエンタテインメントを一緒に育てていきましょう。

冨永昌敬 
映画監督

『愛讃讃』は、どストレートな言葉で義母を追想しながら、ざらついた画面によってむしろ彼女を遠くへ逃しているようで、義母に対する監督の複雑な感情がずっしりと伝わってきました。ただ、8分というのが短いですよね。ナレーションを導入したことで語るために必要十分な尺がそれになったのかもしれませんが、「期限切れの8ミリフィルム」と謳うからには、それを見せびらかすくらいの余裕がほしかったです。

『オーファンズ・ブルース』は見ている途中から、これがグランプリになるんだろうな、と思わされる迫力がありました。特筆すべきはキャスティングです。主だった登場人物はどの役も、童顔で幼く見える俳優を起用してました。画づくりや脚本など、誰もが力を入れて当たり前のところは言うまでもありませんけども、工藤監督は俳優のフィジカルな面についても強い意図を持っているのだとわかりました。前半の雑踏の場面で村上由規乃さんが太鼓の音に振り返るところ(ここ格好いい)、監督によれば録音技師のアイディアだったそうですが、音の演出も堂々としてましたね。

人生に窮屈さを感じた大人がやむをえず変身する映画を僕は好きなんですが、『貴美子のまち』もそういう作品でした。監督は素晴らしい俳優を見つけたんじゃないですか。自分の母親が面白いから出したとか、ほかに出てくれる人がいなかったからではなく、冷静に母親の資質を買ってキャスティングしているような気がしました。とりわけ彼女の食べっぷりは画になるようで、登場人物のほぼ全員と何かを食べるシーンがありました。

脚本の構成力という面で抜きん出ていたのは『最期の星』です。が、主人公が死んだクラスメイトとの空想の「放課後」を楽しむ様子が、いかにも楽しいであろう場面のダイジェストにすぎず、そのディティールの不足が惜しまれました。巨大なパフェを前にして驚く女の子二人は確かに意味合い的には「楽しそう」なんですけども、見ている観客を巻き込むような臨場感はなかったと思います。そのパフェをどうやって食べるか、じゃないですかね、本当に楽しいのは。

『19歳』は、作者とカメラが一体化しているような全能感が圧倒的でした。僕も以前そういうことが少しはできたかな、と思ってましたが、この映画にはちょっとかないません。で、エンドクレジットで監督が主人公を演じていたと知って、また驚いたんですけども(これはカメラマンの力も大きかったんだと思います)。「めぐみ」や「おのちゃん」という友人たちとの互いにぶつからないギリギリの距離は、ぶつけるだけのエゴを持たない主人公の正直さの現れでしょうか。三人の19歳の静かな自意識は決して安易な滑稽になど落ちず、くり返す毎日の先の先を互いに思い合っているようで、すごく感動的でした。

『すばらしき世界』について、いい映画なのになんでこんなにおさまりが悪いんだろうと、しばし考え込まされました。両親の決断に反発した少年が食堂を飛び出したあと、彼がひとり、どこでどんな気持ちで夜を迎えようとしていたのか。母親との別れを受け入れるのに、どれだけの苦い逡巡を重ねたのか。その変遷を省略して、食堂の次の場面はもう夜の川べり。土の上で母親に涙ながらに本心を吐露する。という運び方がどうも性急で、川べりの場面が重要なだけにもったいないと思いました。石井監督の今後の作品に期待しています。

『小さな声で囁いて』は、熱海という観光地で全編ロケをしていて、そこだけ考えるとまったくそそられないんですが、何なんですかね、このアントニオーニ感は。そんなに暇ならさっさと家に帰ればいいのになぜか滞在を続ける登場人物みなが、人生にすごく気楽に飽きていて、それなりに風光明媚な土地のはずの熱海が退屈でしかない近所の公園程度に見えてくる。一人カラオケも、一曲まるごとは長いよと思いながらも見入ってしまう。もし助演男優賞があるとしたら、背中に傷のある彼に贈りたいと思います。

『モフモフィクション』は、吹奏楽をバックにナレーションが「モフモフ動物」を紹介するという形式に馴染めませんでした。足音や鳴き声みたいな、モフモフ動物に特徴的に備わっているはず(と勝手に言ってますけど)の音をどうして聞かせてくれないのか疑問です、というか不満でした。監督がモフモフ動物なるものを心から愛しているなら、修飾や説明なく、まんま画面に突き出してほしかったです。家でDVDで見直したとき、ためしに音を消して見たんですけども、無音のほうがずっと面白かったです。

佐藤信介 
映画監督

審査については、一個人の趣味趣向性を超えて、もう少しユニバーサルな視点に立って、各賞を選ばなくてはならなかったのですが、僕個人として、ひとりの映画ファンとして、ひとりの映画人として、感銘を受けた作品がいくつかあります。

ひとつは『川と自転車』です。絶対に映画でしか表現できない時間と空間を飄々と素朴に描いていて、観た瞬間は「これがグランプリだ」と思ったぐらい。何も語られていないような、何かを語っているようなこの短い作品を見ていると、逆にその寡黙さが高じて、ある種、哲学的な気持ちにさえなりました。池田監督がQ&Aで「実は学校の課題制作を3つ繋げただけ」と仰って、それだけ?!と驚く反面、いや実はその背後では、無意識の内に監督が感覚的にとらえていた映画、あるいは映画を通して見ようとした世界が、計算されて作られた映画よりも、しっかりと形作られいていたのかもしれないという気さえしました。

そして今回の賞からは漏れましたが、『貴美子のまち』。この作品も大きな特徴としてあるのが、何かを語っているようで何も語っていないような奇妙な感覚。とても妙な映画ですが、非常にユーモアがあって、理由もなく、なぜか面白い。会場でもとてもウケていました。カメラの構え方や、何気ない絵、何気ないカットの積み重ねなど、無視できない映画の濃度に満ちていました。眉間に皺を寄せず、大仰なテーマもなく、力を抜いてフワッと作ったものなのに、映画が本来持っている力によって観る者を魅了する。大好きな作品です。

そして、『すばらしき世界』。静謐な映画の空間を備えながら、監督自身の経験や想いを、主人公の少年を通して綴った作品ですが、内容的にも表現的にもやはりグランプリに相応しい作品だと思いました。石井監督はこの作品を19歳で撮ったと言います。こんな若い才能が現れていることを今回知った驚きは、今回個人的に一番の収穫だったように思います。
それと、もうひとつ。ドキュメンタリー映画の『山河の子』です。作者の語りが入らない、淡々とした素朴な画作りのドキュメンタリーです。押しの強さが前に出ると見落とされそうな、ささいな仕草や言葉や表情が、強く胸に残り、僕の中で忘れられない1本になっています。

ノミネート作品はどれも非常に強い個性と魅力に溢れていました。それだけに選考会でも、推している作品がみんなバラバラで、とても時間がかかりました。身近に優れたカメラや編集ソフトも揃うようになり、またデジタルの技術は年々、天井知らずで向上し、映像の画質もポスプロ技術もプロとの隔たりが少なくなってきています。ジャンルもメディアも問わず自由に作られたノミネート18作品は、予測不能で、商業作品に引けを取らず面白かった。「賞」ということだけでは括(くく)れない魅力を持った才能が、今後、まさにこれからが主戦場の映像の時代に羽ばたいていくこと、とても楽しみにしています。

大九明子 
映画監督

時間の許す限りなるべく多くの作品について触れたいと思います。

まず、『愛讃讃』は、『川と自転車』と同時に語りたいと思います。この作品は映像の中でオフにしていることが多くあり、見えないところのなにかをこちらが触りにいきたくなる。そういう魅力にあふれていました。

『川と自転車』については、監督自身が受賞スピーチで「なんの役にもたたない映画、人生の役にたたない映画にしたかった」と仰っていて、「そうか本人はなにも表現したくなかったんだな」と、いうことが伝わって、その感じはちゃんと私に届いたよと、伝えたいと思います。そして、『川と自転車』のいちファンとして、映画を撮り続けてほしいなと、思います。

『ある日本の絵描き少年』は、私はすぐに泣くので、この評価はあまり役に立たないと思いますが、かなり泣かせていただきました。「心を震わされる」ということを私は映画に期待しているので、泣けることが総てではないですが、涙が出た時点でこれは確実に映画であるのだということを審査員のみなさんと話したことを覚えています。

『一文字拳 序章 -最強カンフー少年対地獄の殺人空手使い-』は、アクションをあそこまでやりきれることがうらやましい。私はいつもいつもアクションに苦労するので、ほんとうに眩しい才能です。

『カルチェ』は、この世界感を発明したことにほっとけない才能を感じました。いろいろ矛盾はあるのですが、何か力で見せ切るところがある作品。何より、主人公のエンちゃんの幸せを祈らずにはいられないようなあったかい気持ちにさせられました。

『貴美子のまち』は、主演女優が監督のお母さまと伺いまして、度肝を抜かれました。もし、私が自分の親を演出するようなことがあったら、そんな苦行に耐えられない(笑)。あまり幸せな家族は眩しすぎて苦手な私ですが、この家族ドラマは演出力がすばらしく、完成度が高いので、エンタテインメントとして堪能しました。

『Good bye,Eric!』は、監督が主演も務められ、いい顔をしていて印象深かったです。

『山河の子』は、登場する子どもたちが大人になるまで追っていくもりだということを伺いまして、そういうことも考えると、なおのこと賞をあげたほうがいいのではないかと審査会議で長い時間、話し合いました。ドキュメンタリー映画がほかになく、私どもも5本しか選べない中でどういったことを決め手にするのか紛糾したのですが、最後まで賞を巡って悩みに悩んだ作品でありました。

まだまだ全作品、個人的な感想をお伝えしたいところですので、この後直接お話させていただければと思います。全作品心底楽しませていただきました。今回18名の監督たちが入場してきたとき、自分でも良く分かりませんが、なぜだか涙がこみ上げて来ました。18人のみなさまと、私も一緒に死に物狂いで映画作りに邁進していきたいと思います。

佐藤公美 
映画プロデューサー

今回、PFFが自主映画の最高峰と言われている理由を身をもって実感しました。

最も心奪われ、「この作品にグランプリを」と考えたのは『オーファンズ・ブルース』でした。特に撮影のすばらしさに圧倒されました。俳優陣の見事な演技とそれを引き出した演出も含め、「力のある映画」という表現がありますが、まさにその言葉にふさわしいと思います。『川と自転車』には魅了されました。池田監督はもしかしたら孤独な気持ちで映画を作っているかもしれませんが、世界に目を向けるとおそらく共鳴できる作品や、同じような姿勢を貫いて制作している監督たちがいると思います。ぜひ、世界という場に自分から飛び込んでいってください。

『一文字拳 序章 -最強カンフー少年対地獄の殺人空手使い-』は、いちファンとして大好きです。最強の仲間たちによる続きの物語を期待しています。

『山河の子』は、そこに映された膨大でささやかなひとつひとつを確かめるため、これからも繰り返し観たいと思います。

『からっぽ』『わたの原』『小さな声で囁いて』も非常に愛おしくなる映画でした。次の1本に期待し、上映には駆けつけたいと思います。

映画を撮るということは、仲間づくりや技術的なこととは別に、圧倒的な量の映画をひたすら観ることからしか始まらないと常に感じます。そして観た映画を誰かと話すこと、あるいは批評として書かれたものを読んで考え抜くこと。こういった循環から産まれる映画を私は信じています。その点で、今年のPFFはアルドリッチを見ながら自主制作を考えることができる稀有なチャンスだったと思います。

最後に、二人の映画監督の名前を挙げさせて下さい。没後80年の山中貞雄、そしてごく近い時代を生きたジャン・ヴィゴ。どちらも二十代の数年間に忘れがたい傑作を撮って、三十歳にならず逝去しました。今日集った入選監督の皆さんの中でもしご覧になっていない方はぜひ出会ってください。そして一生の友人のように繰り返しこの二人の作品をご覧戴ければと思います。私もそのようにして映画に携わって参りたいと思います。

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