577本の応募作の中から、約4ヶ月もの厳正な審査を経て選出された20作品を、お披露目上映。まずは、気になる1作品から観てみよう!あなたの投票で賞が決まる「観客賞」にもご参加ください。
※審査員、賞一覧、審査方法などPFFアワードの詳細は、「PFFアワードについて」をご覧ください。
炎天下、田んぼ道を自転車で疾走する女性は、町なかの一軒家へやって来る。ボーリングをしている男性の写真やトロフィーがあちこちに飾られている家は、今は無音だ。でも、耳を澄ませば、子供達の歓声や料理をつくる音が聞こえてくる。水で冷やした西瓜。冷やし中華。懐かしい、確かに存在した時間がここにある。
夏。家は透明な明るさに満ちている。そこを流れた歳月そのものが、長い時間をかけて蒸留され、微細な光の粒となって充満しているかのようだ。帰ってきた女の伸びやかな身振りに心を奪われる。一息遅れて現れる鳥の影に小さく驚く。微笑むように揺れる色彩に眼が歓喜する。一つ一つが驚くべき緻密さで、優しい詩のように配置され、観る者の五感をそっと押し広げる。束の間のうたた寝に招き入れられ、いつまでも続く爽やかな快感を残す秀作。
杉浦真衣(書店員)
1986年青森県出身/東京芸術大学 大学院映像研究科映画専攻撮影照明領域 卒業
武蔵野美術大学の卒業制作『MY FORM』は、祖父が亡くなって壊されることになった家の写真を撮っていく自分を撮影したものでした。ひとりで出演も撮影もこなして、出来栄えは悪かったけど、思い入れの強い作品です。専門的な技術と集団で作ることを学びたくて、東京芸術大学大学院の撮影照明領域に。卒業後、『MY FORM』をつくり直したい気持ちが高まり、会社を辞めたことをきっかけに、まだ残っている祖父の家で『マイフォーム』を撮りました。
冒頭に登場する家の模型は、祖父が亡くなったとき、近所のおじさんが作ってくれたもの。家が形としてはなくなることの象徴に思えます。祖父の家の仏間にひとりで寝ていたとき、お盆の行燈がミラーボールのように見え、その光がおじいちゃんの写真に当たって、何かとても晴れやかな気持ちになりました。祖父と家との別れを、哀しみとは正反対の感情で受け入れられた瞬間でした。その一種の爽快感を、ラストのポーズで表現しました。
【繰り返し観ている作品】
『霊幻道士』(1985年/リッキー・リュウ監督)、
『フェリーニのローマ』(1972年/フェデリコ・フェリーニ監督)、
『ショートバス』(2006年/ジョン・キャメロン・ミッチェル監督)
【好きな映画監督】
北野 武
[2015年/15分/カラー]
監督・脚本・編集:跡地淳太朗/撮影:清水絵里加/録音:西垣太郎/照明:稲葉俊充/美術:堀 千夏/助監督:松尾健太
出演:潮 美華、矢島康美