映画の持つ大きな力。そのひとつが「知らなかったことを伝える」力です。第35回PFF全国開催では、この力を持つ作品を招待作品として、各地でヴァラエティ豊かに展開します。「え!」という驚きを与えてくれる時間を堪能してください。
ある夫婦のありふれた日常と、そこに潜む孤独。
誰かと生きていくことの意味を問う
[2013年/110分/カラー]
製作・監督:斎藤久志/脚本:加瀬仁美/撮影:石井 勲/照明:大坂章夫/録音:小川 武/音楽:小川 洋
出演:高尾祥子、吉岡睦雄、岡部 尚、山田キヌヲ
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恵理は小さな映画館に勤めている。上司の剣持のことは少し苦手だが、同僚の久美子や加藤とは仲が良く、忙しくも充実した日々を送っている。恵理には夫・史也がいる。二人の間に子供はいない。生まれてくる誰かの父や母になるのではなく、一生を互いの夫と妻でいようと決めたのだ。楽しい同僚、優しい父母、父母の可愛がる小さな犬。その全てを共有する夫。愛しく大切なものたちに囲まれた恵理の生活には、何の不足もないはずだった…。
ある夫婦のありふれた日常を描きながら、その中に潜む孤独、心の機微を掬い取る。どんなに愛しく大切であっても、人は人を思いやることしかできない。その愛と欺瞞を暴き、夫婦でいるということ、誰かと生きていくということの意味を問う。劇中、宮沢賢治『ひかりの素足』の一節が、すべてを包括するように印象的に引用されている。高尾祥子の透き通る眼差しが、作品に新鮮な風を吹き込む。吉岡睦雄の言葉少ない佇まいに隠された感情が、圧倒的な説得力を持って突き刺さる。
85年、PFFに「うしろあたま」で入選。スカラシップを獲得し「はいかぶり姫物語」を監督すると同時に審査員だった長谷川和彦氏に師事する。92年2時間ドラマ「最期のドライブ」(監督・長崎俊一)で脚本家デビュー。97年「フレンチドレッシング」で劇場監督デビュー。00年には、舞台「お迎え準備」の作・演出を手がけている。
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© Saito Hisashi