・第12回京都国際学生映画祭 準グランプリ・観客賞受賞
・第32回ぴあフィルムフェスティバル 審査員特別賞受賞
・第29回バンクーバー国際映画祭
・ドラゴン&タイガー・ヤングシネマ・アワード(グランプリ)受賞
・第61回ベルリン国際映画祭 フォーラム部門出品
・ポートランド国際映画祭(アメリカ)出品
・ブレダ国際映画祭(オランダ)出品
・香港国際映画祭 アジアデジタルコンペ部門 国際批評家連盟スペシャルメンション授与
・ブエノスアイレスインデペンデント国際映画祭 メインコンペ部門出品
・第25回高崎映画祭出品
・第5回シネマデジタルソウル映画祭出品
・INDIE2011国際映画祭(ブラジル)出品
・ウラジオストーク国際映画祭(ロシア)出品
・カメラジャパン映画祭(オランダ)出品
2011年/カラー/HD/16:9/ステレオ/117分(全4編)
東京藝術大学大学院映像研究科5期オムニバス制作作品
・2011年3月渋谷ユーロスペースにて劇場公開
・第24回 東京国際映画祭 ある視点部門出品
・ハンブルク日本映画祭
・小津国際短編映画祭「Focus Japan」部門
・音楽ユニット「Teatro Raffinato」とのコラボレーション作品
・2ndアルバム「equals beauty~イコールズ ビューティ」収録
脚本を書き始めたのはずいぶん前で、大学生の頃です。黒沢清監督の『ニンゲン合格』(99)に影響されて、家族のドラマを撮りたいと思いました。その時からタイトルは『HOMESICK』と決めていました。家にいるのにホームシックというコンセプトが面白いと思ったんです。これを僕にとって初長編となる大学の卒業制作の題材にするつもりだったのですが、結局、脚本を完成させられなくて、あたためていたもう一つの企画『世界グッドモーニング!!』(09)を撮りました。
それから約3年後、PFFスカラシップ作品の企画を提出することになり、自分は何についての映画を撮りたいんだろう?と自問しながら『HOMESICK』の脚本をほぼゼロから書き直しました。『世界グッドモーニング!!』と『返事はいらない』(11)でどこかを旅したりどこかへ逃げたりする人の話を撮ったので、今度は一カ所に居続ける人の話を撮りたいと思いました。ところが脚本を書き始めたら、困ったことに主人公が家に居続けなきゃいけない理由があまり見つからない。何とか理由を見つけようとしたのですが見つからなくて、そこで気づいたのが、理由がないから家に留まるのではないかと。一方で世界中を放浪する主人公の妹は、どこへ行けばわからないから旅を続けている。アプローチは正反対だけど、二人の思いは同じなんです。そのことに気づいた時、これは居場所についての映画なんだと確信しました。
特に三部作として作ったつもりはありませんが、『世界グッドモーニング!!』で少年期を、『返事はいらない』で青年期を描いてきて、次は老年期を描いてみたいという思いはありました。僕の中では、健二はおじいさんのイメージなんです(笑)。劇中で咳き込んだりしているのは、彼がおじいさんだから。
30歳全般ではなく、あくまで健二のイメージです。ただ自分の兄をはじめ、周囲の30歳過ぎの人たちを見て漠然と思っていたのは、これから新しい経験を積んだり新しい道に進んだりするよりは、考え方が変わる年齢、つまり新しい考え方をするようになる年齢なのかなと。
家に閉じこもった健二の日常にズカズカと踏み込んでくる存在として、子どもの登場は初期から考えていました。でもここまで大きな役割を果たすようになったのは、震災の直後に見た1枚の写真がきっかけです。新聞の一面に載っていたその写真は、がれきの中からお気に入りのノートを見つけて喜んでいる小さな女の子を写したものでした。その女の子の顔を見て以来、健二だけでなくその次世代にも思いをめぐらせるようになって、映画の中には、何もない場所で子どもたちが遊んでいる場面を入れたいなと思い始めました。
健二役には、小学生3人組に対して大人として接する人ではなく、一緒に子どもになれる人を探していました。何人かの俳優さんに会った中で、郭さんが一番子どもになれる人のような気がしたんです。面接の時に、妹にプリンを食べられて怒った話をしていたのも印象に残りました。また、自分のことはあまり語らない、不思議な印象が健二役のイメージにぴったりでしたね。
郭さんの演技は、間の取り方が魅力的。一人のシーンが多かったのですが、「このシーンの健二はこう見せたい」という僕の意図を説明しなくても的確に汲み取ってもらえました。
のぞみ役は脚本を書いている時から奥田さんを想定していました。藝大の同期の修了作品(伊藤丈紘監督『MORE』)にカメラマン役で出演されていて、その時の凛とした姿が印象に残っていたんです。
ころ助役の金田悠希君、ヤタロー役の舩﨑飛翼君、オッチ役の本間翔君の3人とは、オーディションで出会いました。オーディションでは、まず100人以上の候補者から12人に絞り、自由に遊ぶ様子を見ながらキャラクターに合う3人を選びました。3人とも本格的な芝居は今回が初めてです。いつも一緒に遊んでいる雰囲気を出すために、クランクインの1ヶ月前から週末ごとに集まって公園で遊びました。その延長で撮影を始めた感じです。演技というよりも、シーンごとにルールを作ってゲームをしていた感じですね。「じゃあ今からピンポンダッシュしてきて!」みたいな。とはいえ、本人たちにはちゃんとプロ意識があったようですね。たとえば3人が健二の家を雑巾がけするシーンで、ころ助だけが真面目に掃除して他の二人は遊んでいたので、僕が「ころ助は真面目だな」と言ったら、他の二人から「こっちは芝居でやってんだよ」と返されたりしました(笑)。
健二と3人組がトリケラトプスにペンキを塗るシーンです。脚本段階ではあまり深く考えていなかったのですが、撮った映像を見たら、一生懸命に働く4人の表情が本当によくて、健二の中で仕事に対する考え方が変わる象徴的なシーンになりました。僕がすごく好きなシーンのひとつです。
学生の頃からトクマルさんの音楽が好きで、特にアルバム『PORT ENTROPY』(10)に入っている「Lahaha」という曲(恐竜にペンキを塗るシーンで流れる曲)を脚本執筆中によく聴いていたんです。音楽に触発されて書いたシーンもあり、この映画はトクマルさんの曲以外には考えられなかったので、「Lahaha」とアルバム『L.S.T.』(05)の2曲を使わせてほしいとお願いしたら快くOKしてもらえて、さらに当時制作中だったニューアルバム『In Focus?』(12)の曲も使えることになりました。