2011年9月30日(金)に開催したPFFアワード2011表彰式にて述べられた審査講評を掲載しています。
プロデューサー
阿部秀司さん
塚本監督が言ったように、全体的に同じ傾向の作品ということに僕も驚きました。『ダムライフ』だけは独特で、他の作品は自分の身近な世界にとどまっている。日本は1億2千万人の人口がいて、国内でビジネスできてしまうせいで、発想も内にこもりがち。例えば、韓国のよさは、どんどん外に向かって行く作品を生んでいるところ。今回の大半の作品が小さくまとまっている感じが不満に思いました。もっと自由な幅広い発想で挑戦してほしい。
そして今回、審査員をして(入選した監督たちは)PFFから次はどこに行くのかということを考え、僕は彼らが次に行く道をつくりたいと思いました。今年は時間の関係上、DVDでの審査になりましたが、来年からは会場に足を運んでスクリーンで見て、新しい才能を発見していきたいと思っています。
映画監督
塚本晋也さん
観る前はスリラーとかいろんなジャンルの映画があるんだろうと期待したんです。でも、実際観てみたら、どれも身近なところにある題材の作品で、さらにいうと編集手法やテンポも結構似ていて“あれッ”と思ったんです。ただ、今の厳しい日本の映画状況と照らし合わせると、自分の想いをまじめにまっすぐにみつめて、真摯に描くことになってしまうのかなと思いました。
そんな中、『ダムライフ』が一等賞になったのは、自分の伝えたい想いだけではなくて、お客さんに届けるデザインもできているというか。自分の想いを伝えようという意志とそれをお客さんに届けようという試みがなされていて、それが大きく爆発して何かを生む可能性とパワーを感じたからだと思います。
女優
南 果歩さん
17作品の監督の皆さんと同様に私も審査すごく緊張しました。なるべく劇場で出会いたいと思い、フィルムセンターに足を運ぶ中、こうやって監督は生まれてくるんだという瞬間を何度も味わいました。今回審査員を引き受けたきっかけは、スカラシップ作品の吉田光希監督の『家族X』に携わり、2年前には熊切和嘉監督の『海炭市叙景』に出演させていただいた、その出会いがすごく大きかったことがありました。自身も独立プロ制作の映画でデビューをしたので、原点に戻るとてもいい経験をさせていただきました。有難うございました。賞からもれた作品でも心に残るものが沢山ありました。
審査会議で、審査員それぞれ推薦したい作品を5本ずつ上げました。私は選びきれなくて9本になりましたが。
『ニュータウンの青春』、これは劇場でお腹を抱えて笑いました。審査ということを忘れるほど笑った後に、ふとさみしさが心に残る、一瞬のかけがえのない時間が描かれていまいた。やりすぎ感は少しあったかなという感じはしました。『PICARO』は完成度が高く、俳優さんもプロの方だと思うのですが、独特の静謐感があってその緊張感というものにとても惹かれました。『僕らの未来』は、監督が「これを作らなければ私に明日はない」というほどの強い意志を感じさせる作品でした。出演者の方はアマチュアだと思うのですが、その素朴さがとても胸にくるものがありました。その魅力、監督の意図と俳優のマッチングが素晴らしかったと思います。『チルドレン』は主人公の男の子と女の子、それぞれ抱えているものを口に出さないけれども、目に宿っているものを、とことん追い詰めて撮ろうという監督の意思を感じました。『春夏秋冬くるぐる』は準グランプリの時にお話した通りです(※受賞ニュース参照)。『チョッキン堪忍袋』は、その設定と描写の面白さ、ユーモアも女性監督ならではのもの。ぜひ次回作が見たいと思いました。『山犬』は、ストーリーと芝居をじっくり見せようと言う腰の据わった監督の演出が見えました。キャラクター作りが面白く、人と人の距離感がとてもよく描かれていました。『ダムライフ』にはブラックな所があり、閉鎖された中で、最初は私も面白可笑しく笑っていた部分が、段々と笑ったことの罪悪感に観る者を追い詰める怖さを持つ、独創的な作品だったと思います。『TAITO』はよく練れた作りで、上司の人が空腹を埋めるためにお弁当をかきこむ場面、食べる音がむなしく響く、人間というものはただ空腹を満たせればいいものではないということを、あの音で感じました。「言いたいことがあるなら面と向かって言えるようになりましょうよ」というセリフが心に残りました。
吉田監督、熊切監督とお仕事をした中で、監督、作品、俳優の幸せな出会いというのは、誰もが望んでいることだと思うんです。作り続けるということは本当に大変なことだと思のですが、続けていればきっといい出会いが待っていると私も信じています。
映画監督
瀬々敬久さん
今年は「ダメな親、ダメな子ども」というテーマが非常に多かった。子供もダメなら、親もダメ。以前は、“親を殺してでも何とかしよう”というテーマがありましたが、もはや親世代が殺すにも値しないという時代。自分自身は子どもを持っていませんが、親世代になってみて思うのは、自分たちの世代が日本をダメにしたということ。それを痛切に反省しました。そういう、にっちもさっちもいかない日本、それを打破していくのが『ダムライフ』だと思いました。そうした意味で、この作品がグランプリに値する作品だと思います。でも僕が一番好きだったのは、『春夏秋冬くるぐる』です。これを観た時に僕は涙しました。
以下、受賞外の作品について述べます。
『untitled』は、日常生活を撮ることで、主人公が生きていることを見せている作品ですが、もうひとつ何か異物が必要だと思いました。『101』は、非常に巧み。でもラストに何か驚くものが必要だと思います。『オードリー』は、女子高生を生き生きと捉えており、力がある監督だと思います。ただ、これだけの力ある監督なら、もうひとつプラスアルファに何かが必要だと思いました。『偶像讃歌』は、キャストや芝居も素晴らしく、テーマもいいし、ロケ地も素晴らしいですが、なんとなく物語が展開していかずに、気持ちを持っていかれないところが残念だと思いました。『ケージ』は、僕の大好きな東京東地区を舞台にしている。作者の気持ちは伝わってくるが、生々しいものがいまひとつ伝わってこなかった。『チョッキン堪忍袋』、コミカルに兄と妹の愛を描いた作品だと言うことはわかったのですが、コミカルに終始してしまった。その関係性をもっと追い込んで描くことは、監督の意図ではないのかもしれませんが、そこまでいってほしかったというわだかまりが残りました。『反芻』は、僕はちょっとよくわからなかったのですが、パンフレットを見ると、あえて実験的な試みを行ったということだと思います。だったら、非常に無責任な言い方になりますが、もっともっとこのような作品を撮っていってほしいと思う。『PICARO』、非常にきれいで上手で、そのまま一般の映画館で上映できるような作品ですが、でも、大事なもの切実なものが撮られていないのではないかという気がしました。『山犬』、これも僕には理解不能だったのですけど、瑛太さんが非常に気に入っていました。パンフレットには“安心して観ていられない作品を撮りたい”と言う監督の言葉が書いてありましたが、だったらそこを掘り下げ、もっともっと受け入れられない作品を撮ってほしいと思いました。『Recreation』、僕はすごく好きだったんですが、僕の力不足で(受賞に至らず)本当にすみませんでした(苦笑)。生々しいところを撮っていて非常にいい。でも、ラストはあれで終わってよいのかと疑問です。もっとつきつめてほしいとも思いました。他の作品にも言えることですが、いま日本の状態の中で、今後どういう映画を作るかということが問われていると思います。以上です。
偉そうに言いましたが、僕も25年前は、PFFに応募しました。見事入選も果たせず、なにもいいことがなく終わった青春でした。それで僕はすぐピンク映画の助監督を始めて鞍替えしましたが、でも決して映画を撮ることをあきらめないでほしい。といいつつ、映画でメシを食うという意味では、いつかあきらめなければならない日がやってくることもあります。ただ自主映画は一生、関わっていくことができる映画だと思います。誰から言われて作るわけでなく、自分が作りたいと思ってこそ出来る映画だからです。ですから、ずっと映画を作り続けていただきたいと思っています。ありがとうございました。
俳優
瑛太さん
このような重大な任務を与えていただき本当にありがとうございます。普段の俳優の仕事とは違って、純粋に楽しませていただきました。
僕は俳優を10年やってきて、映画やドラマの大変さは身に染みていることもあり、一人一人の方が時間やエネルギーをたくさん使って、監督やスタッフやキャストみんなが結束してつくったんだな、と感じました。
応募作品の監督の平均年齢が28歳だそうですが、僕も今ちょうど28歳です。世の中が本当に大変な時期なので、僕ら若い世代ももっともっとアイデアを出していかなきゃいけないと思っています。また、映画をつくっている入選監督の皆さんの力を僕もすごいもらいましたし、自分たちが前向きに映画を作って、世の中の人にいろんなことを与えるってことをやっていきたいと強く感じました。
皆さんの強い信念だったり、映画が好きなんだなということをたくさん感じました。これからも映画をつくっていただきたいですし、もし機会があれば、僕を俳優として出演させてください(笑)。本当に今回はありがとうございました。