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山下敦弘監督×深田晃司監督「映画の醍醐味は、ナチュラルと虚構のバランス」

朝日新聞紙面に掲載された第38回PFF特別対談 山下敦弘監督×深田晃司監督「映画の醍醐味は、ナチュラルと虚構のバランス」を、紙面では掲載できなかったエピソードを追加して特別に掲載!PFFディレクター荒木啓子が、最新作の公開迫る自主映画出身の山下敦弘監督(『オーバー・フェンス』)、深田晃司監督(『淵に立つ』)に「映画づくりの面白さ」を伺いました。

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監督は全能でなくていい

荒木D:数年前、山下監督と諏訪敦彦監督に対話していただきました。スタッフとキャストは全員イコールで、全員が対等の立場で一緒に映画をつくっていくというスタイルを持つ諏訪監督と、撮影所的ピラミッド構造を前提に活動している山下監督と、お二人の違いが印象的でした。でも、さきほどの『オーバー・フェンス』のお話からすると、今回は監督がトップにいて指示を出すという形が、いい意味で崩れたようですね。

山下監督:はい。うまく説明できませんが、全員が適材適所にはまっていて、誰かひとりが突出しているということはなく、撮影も照明も編集も、たぶん演出も、すべてちょうどいい感じという気がしました。それは今まで感じたことのない感触でしたね。

深田監督:『オーバー・フェンス』は、蒼井優さんが鳥の求愛ダンスを踊ったり、明らかに変な女の子を演じていますよね。彼女のキャラクターをどう見せるか、そこらへんの演出のさじ加減が難しいところであり面白いところでもあると思います。

山下監督:僕はオダギリ(ジョー)さんが演じる白岩にピントを合わせていたところがあって、蒼井さんが演じる役を、僕は説明できないんです。打ち上げのとき、蒼井さんに「山下さん、何も言ってくれないから、すごくきつかった」と叱られました。

深田監督:男から見ると、蒼井さん演じる聡という女性は、理解を超えたところがありますよね。彼女の言動に白岩が戸惑うところは、男性観客の目線と合致すると思います。

荒木D:監督という仕事はひとことで説明しづらいものではと感じています。演出方法だって、製作体制だって作品によって変わるし、現場に入る前に完全に映画が完成している監督もいれば、作品全体を必ずしもつかめないまま現場に臨んで、そこで新しい発見をする、という監督もおられるし。

深田監督:僕は助監督を経験しているわけではないので、それこそ現場の把握力でいったら、チーフ助監督の動きはすごいなと思いますよ。

山下監督:深田さんみたいに、企画・脚本・監督・編集をこなす方と、僕みたいに監督のみの場合は、ケースが異なるかもしれませんが、僕の場合、現場においての自分の役割は、役者を見ることだと思っています。演技する役者をひたすら凝視しつづける。人をずっと見続けるって、けっこう疲れますよ。体はほとんど動かさないのに、毎回、ぐったりします。ただ、編集にはプロデューサーが口を出すことはあっても演出には口出しされないので、現場が僕の聖域だと思っています。

ナチュラルとリアル

山下監督:たぶん『淵に立つ』も『オーバー・フェンス』も、リアリティはないと思うんです。見ている間は気にならないけど、例えば『淵に立つ』の、浅野さんの真っ赤なTシャツ、あれは演出ですよね? 浅野さん演じる男自体、突っ込みどころ満載でもあるし。

深田監督:そうですね、漫画寸前のキャラクターですね。今回、浅野さんと話し合って役のテーマカラーを赤にしました。なので、彼が不在の場面では画面のあちこちに赤を置いて浅野さんの気配を残すことができました。赤い機械だとか、赤いリュックだとか。僕は、ナチュラルとリアルの違いということを考えます。2000年以降の日本映画って、それまでの劇映画が持っていた虚構臭さみたいなものからナチュラルなものへと変化したところがあって、山下監督の作品にも、「こんなナチュラルな芝居もありなんだ!」と衝撃を受けました。でも、ナチュラルであることはスタート地点でしかなくて、映画としての面白さとかリアリティというのは、たぶん別なところにあって、『オーバー・フェンス』の鳥のダンスや動物園のシーンなど、虚構性の高い設定がナチュラルな芝居のなかに平気でぶちこまれていく、そこがすごく面白いと僕は思いました。

山下監督:僕も、そこらへんは久々にでたらめなことが出来たなって気がして、楽しかったですね。しかも僕のアイディアではなかった。(脚本にある)動物園のシーンは、いつもの経験から、きっと誰かが「危ないから」と止めるだろうと思っていました。でも誰も止めなくて、動物をあちこちから集めたり準備がどんどん整っていって、「お! みんな、やる気だな!」って、そういういうところも新鮮でした。

時間が足りない!

荒木D:この人の現場を見てみたいと思う監督はいますか? 自分が悩んだとき、あの人だったらどうするだろうと思う監督とか。

山下監督:どうだろう、悩んだときは…現場に行けばなんとかなる(笑)。それこそ、ハリウッド、例えばスピルバーグの現場ってどんなだろう、どういう空気でつくっているのか見てみたいというのはありますけど。こないだハワイで撮影したんですが、向うのスタッフもいて、1日10時間拘束と決まっているんです。最初はまだまだ撮れるのにって物足りなく思ったけど、そのリズムに慣れると、確かによく眠れるし、朝もちゃんと起きれる。体力的にはいいなと思いました。あと、必ず毎日パイナップルとかハムとかチーズがテーブルに並んでいて、そんなの3日に一度ぐらいでいいじゃんと思いましたが、それも契約で決まっていることなんですね。日本人スタッフは、時間がもったいないと思う貧乏性だから、みんな食べなかったですが。

深田監督:その貧乏性のところが、実は創作面にも影響しちゃっているところがあるんだろうと思いますけどね。『淵に立つ』のポスト・プロダクションはフランスで作業したんです。フランスでも午後6時以降に働くことはないし、どんなに時間がないときでもランチに1時間からときには2時間かける。僕なんかは、アッバス・キアロスタミ監督の現場を見てみたかったと思いますよ。例えば『友だちのうちはどこ?』のメイキングを読むと、すごく贅沢な作り方をしている。子供がカメラに慣れるよう、1週間ぐらいカメラにフィルムを入れないまま教室でカメラを回したり、予算も時間も手間もかけて、監督のこだわりをスタッフも共有する。

山下監督:日本は、すごく詰め込みますよね。限られた時間内でぎりぎりの体力とぎりぎりの集中力でつくっていく。ドキュメンタリー監督の松江(哲明)くんは、時間的な無理はしない、ご飯は美味しいものを食べるっていうスタンスで、新鮮でした。ただ、実際のところ、もしも予備日が10日もあるなんてことになったら、逆に何をしていいのか途方に暮れるだろう自分もいるんですよね。

荒木D:時間がもたらしてくれる豊かさみたいなもの、日本映画も試してみる時期かもしれませんね。

山下監督:でも、いまの予算で時間をとるのであれば、スタッフは最小人数にするとかになりますよね。最近、松江くんと一緒に、いまおかしんじ監督の『あなたを待っています』をプロデュースしたんですが、俳優もスタッフもギャラは一律で1日3千円にしました。総予算70万円ぐらいで、完全自主映画ですね。9月24日公開です。

荒木D:初プロデュース作品になりますか?

山下監督:そうですね。キャスティングにちょっと口を出して、現場にたまに行ったぐらいで、たいしたことはしていませんが。

荒木D:完全に趣味という感じですね。

山下監督:趣味というか、今回は巻き込まれた感じですが、でもそうですね、映画を仕事にしていて、趣味も映画なんですよね。

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