第31回ぴあフィルムフェスティバル

JAPAN国際コンテンツフェスティバル

PFFアワードについて

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概要

グランプリ、準グランプリ、審査員特別賞のトロフィー

グランプリ、準グランプリ、
審査員特別賞のトロフィー

PFFパートナーズ各賞のトロフィー

PFFパートナーズ
各賞のトロフィー

「PFFアワード2009」は、2007年12月2日以降に完成した作品を対象に、2008年10月1日~12月1日の期間、募集を行いました。
そして集まった569本の作品を、PFFディレクターを中心に、映画ライター、映画製作・配給・興行・宣伝関係者、キュレーターなどからなるセレクションメンバー16名が審査しました。
「一次審査」は、全応募作品を1作品につき、最低3人以上で審査し、各々からの推薦により、一次審査通過作品を決定。続く「二次審査」では、一次審査通過作品を、セレクションメンバー全員が審査し、多数決ではなく討議の上、二次審査通過作品(入選作品)を決定しました。
こうして選ばれた二次審査通過作品(入選作品)全16作品が、「第31回ぴあフィルムフェスティバル」での上映となります。

入選16作品は、最終審査員やPFFパートナーズ各社により審査され、東京会場の最終日に行う表彰式にて、グランプリなど各賞を発表します。
賞は全部で6つ(最大8作品が受賞)。最終審査員5人から選ばれるグランプリ、準グランプリ、審査員特別賞、PFFパートナーズ各社から選出される賞、そして東京会場の観客から支持された観客賞です。
賞を獲得した監督には、トロフィー(右写真)と表彰状、および副賞を贈呈します。
また、いずれかの賞を獲得した監督全員に、PFFスカラシップへの挑戦権が与えられます。

受賞結果一覧

受賞作品 監督
グランプリ
映画監督として最も期待したいつくり手に贈られます。
『一秒の温度』 井上真行
準グランプリ
グランプリに迫る才能を感じさせるつくり手に贈られます。
『靄の中』 飯塚 諒
審査員特別賞
無視することができない才能を感じさせるつくり手に贈られます。
『大拳銃』 大畑 創
『chain』 加治屋彰人
『普通の恋』 木村承子
企画賞(TBS賞)
作品の優れた企画性に対して贈られます。
『私の叙情的な時代』 任 書剣
技術賞(IMAGICA賞)
撮影、照明、映像の質等、技術に特化した作品に贈られます。
『私の叙情的な時代』 任 書剣
観客賞
観客の人気投票で最も高い支持を得た作品に贈られます。
『夢の島』 蔦 哲一朗

受賞&授賞コメント

「PFFアワード2009表彰式」での、受賞者および授賞者のコメントです。

グランプリ

一秒の温度

最終審査員 吉田大八氏
「もう20年以上前になりますけど、僕も学生時代、自主映画を作りつつ、PFFには観客として来てました。今回審査をしながら、当時会場で味わった感動や嫉妬、その他モロモロが甦ってきて感慨深かったです。その審査ですが、結構長い時間かかって難航しました。
最終的に井上監督の『一秒の温度』をグランプリとすることで話はまとまりましたが、僕はこの作品を見終わったあと、主人公のノボルと別れ難くなったんですね。見ているうちにだんだん登場人物と一緒に生きているような気持ちになっていく。自分も映画の中に入り込んで、ノボルに話しかけたくなる。映画を観始めたころのウブな感覚を呼び覚まされたような気がして、僕にとってはそこが決め手でした。」

井上真行監督
「(ちょっとびっくりした表情で)ありがとうございます。実は、今日仕事だったんですけど、なにもいわずに会社を飛び出して、この会場にきました。ずっと携帯電話の電源も切ってるんで、上司が怒ってるかなと冷や冷やしていて。その上、ぜんぜん名前呼ばれないので、席に座りながらちょっとやさぐれていました。でも、これで仕事を放り出してきた甲斐がありました。ほんまうれしいんですけど、これをどう表現していいやら。すんません、いい言葉が頭に思い浮かびません。本当にめちゃくちゃうれしいです。ありがとうございます。」

準グランプリ

靄の中

最終審査員 諏訪敦彦氏
「始まってから暫くは、“ずいぶんでたらめな映画だな”と思いましたが、見ていくにつれて、この監督はもしかしたら映画を自分で発見していく力があるんじゃないかなと感じ、同時にここで描かれていることを映画にしたことで、彼が生きることを発見することが出来たように思いました。つまり、この映画が提示する問題は映画の中だけの問題ではないと私は思えて、同時に飯塚監督には映画を作る才気を感じたんです。おめでとうございます。
ひとつ話しておきたいのですが、僕は現在、ヨーロッパを活動の拠点にしていますけど、欧州における日本映画の存在は小さくなってきているように思えならない。そこで考えてほしい。“四畳半の自分の部屋も確実に世界につながっている”と。今の日本の若者を取り巻く貧困や失業の問題はなにも日本だけで起きていることではない。世界の多くの人が同じ問題を抱えながら生きている。“私”だけと思っている世界が、実は世界とつながっていることを意識してほしい。そういう意識を持つことで、もっと映画の世界が広がると思う。映画としてできることももっと発見できるはず。あと、たまにこんなことを考えるんです。“世界に映画が存在していなくて、ムービーカメラを目の前に置かれたら何を撮るだろう”って。不可能だけどそういう気持ちで映画を撮ってみたい。また、そういう映画を見てみたい。そんなことを考えると僕は映画の可能性がもっともっとあると思えるんですね。だから、みなさんにはもっともっと映画の可能性を信じてこれからも創作活動を続けていってほしい。」

飯塚 諒監督
「ありがとうございます。この作品を作る過程で、諏訪監督の『2/デュオ』を何度となく見返していました。ですから、この賞を諏訪監督からいただけるというのが夢のようで、僕の勝手な思い込みなんですけど運命のような気がしています。ほんとうにれしいです。この作品で僕自身が生きる力を見出しているとの話がありました。実際、僕自身が映画の主人公の置かれている状況と同じような状態にいたのは確かで。それがこういう形で認められたのはうれしいのひと言です。」

審査員特別賞

大拳銃

最終審査員 松田龍平氏
「今回、賞を決めるのにこれほど苦悩するとは予想していませんでした。それぐらい各作品ともに面白くて、刺激的で大きな差はなかったです。『映画の中の風景や役者さんの微妙な表情の変化から物語を感じ取り、そこからこちらが様々な想像をめぐらせる』。そういった主要なテーマの解釈を、受け手にいい意味で委ねながら、かつ想像力の試される作品ばかりで、審査という立場では苦しかったですけど、観ることに関してはとても楽しい時間を過ごせました。その中でも『大拳銃』はその世界観からストーリーまで僕のツボ。とにかく面白かったです。中でも劇中で”大拳銃”がでてきたときは、胸が躍りました。おめでとうございます。
最後に、今回の審査を通じて、映画が改めて素敵なものだと感じました。同時に、自分が今そのフィールドに立てていることに改めて感謝する機会にもなりました。良い機会を与えてくださって、ありがとうございます。」

大畑 創監督
「(バックに映画『夕陽のガンマン』のテーマ曲が流れる中登場)いや、まさかこのテーマソングをバックに、この場に立てるとは思いもしませんでした。ほんとうにありがとうございます。僕は30歳なんですけど、これまでの人生においてこんないい年はないというぐらいつきまくっていて、お前の人生のピークだとも言われました。でも、ここをピークとしたくない。まだまだだと思います。そんなことがないようにこれからもがんばっていきたいとおもっております。ありがとうございました。」

審査員特別賞

chain

最終審査員 三浦しをん氏
「『chain』の受賞に、はじめ私は異議を唱えました。議論の対象となったのは主に、惨劇描写の塩梅についてです。私はここまで執拗に描くのは露悪的で、かえって観客の想像力や思考力をそぐと思いました。でも、映画全体としては女の子たちのおかれた境遇や、彼女たちの心情の揺れ動きが繊細に描かれていて、それがほんとうに胸に迫ってくる。また、審査員からは演出、撮影、編集といった映画技法のレベルが高く、即戦力になりうる逸材との声が相次ぎました。以上を踏まえて私は『chain』を再度拝見し、その結果、自分自身がこの映画のラストの惨劇に大きな衝撃を受けたのは、登場人物それぞれの小さな、しかしかけがえのない幸せがきちんと描かれているからこそだと思い至った次第です。描くべきことをぶれることなく描ききった作品と確信し、今は『chain』の受賞を心から喜んでいます。
ただ、加治屋監督には本作における惨劇の描写のベストな形について今一度お考えいただきたい。それは“人は死とどう向き合い、死をどう受け止めればいいのか”という問題と向き合うことです。この映画を拝見することで、私もそれをもう一度自分でよくかんがえなければならないと思いました。そしてこの問題は現代の社会で生きるひとりひとりが真剣に考えていくべきことでもあると思います。そういう問題提起をしたという意味でも、『chain』が非常に重要な作品であることは疑いようもありません。本当におめでとうございます。」

加治屋彰人監督
「正直なことを言うと、複雑な心境です。本音を言えばグランプリがほしかったです。先ほど、審査でいろいろと議論されたとの話がありました。そのように物議を醸すことは僕としてはうれしい反応です。作品を制作するとなった段階から、賛否両論が間違いなくあると思っていました。それでもなおこの物語と内容になぜこだわったのか? それはこの作品がきっかけとなって様々な意見が交わされ、議論を深めるきっかけになってくれたらいいと思ったからにほかなりません。三浦さんから命の価値について今一度考えてほしいとの指摘がありましたが、ご安心ください。僕だってちゃんと真剣に考えています。惨劇シーンで血が流れますが、その血糊にとても嫌悪感を覚えながらずっと撮影していました。大丈夫です。ありがとうございました。」

審査員特別賞

普通の恋

最終審査員 下田淳行氏
「今回のPFFで、私にとっての最大の出会い。それが『普通の恋』という1本の映画との出会いでした。『普通の恋』には驚きがありました。『普通の恋』には誰にも真似できない個性がありました。僕は審査の間に5回も観てしまいました。なんでそれほど観たのか理由はよくわかりません。でも、5回観ても毎回おもしろかったです。木村監督には160キロの剛速球を投げる肩の強さがありました。感動しました。ここに集まられた16名のみなさんには豊かな才能があることは間違いありません。でも、それだけでは新しい映画は作れないかもしれません。では、何が必要なのか?それは当たり前のことかもしれませんが“努力”です。今後も頑張ってください。」

木村承子監督
「なんかもう嬉しくて、涙がとまりません。ほんとありがとうございます。わたしは人に褒められたくて映画を撮っていて。それは自分が人に認められたいということでもあり……。だから、本当に下田審査員の言葉と受賞できたことが心の底からうれしいです。この映画は、今の自分にしかとれないテーマに挑みました。22歳の自分の中にまだ残る女の子の部分というか、少女的なところというか、そこにひとつ区切りをつけたかったんです。これでやっと気持ちの整理がついて自分自身の中にあった青臭さと思春期から抜け出すことができる気がします。次は成熟した大人の映画を撮ろうと思います。ほんとにありがとうございました。」

企画賞(TBS賞)

私の叙情的な時代

TBSテレビ コンテンツ事業局長 氏家夏彦氏
「この作品は中国人留学生の目を通して、徐々に深まっていく人と人の絆や愛情がドキュメンタリー・タッチで活き活きと描かれています。劇中では社会的問題にもさりげなく触れているのですが、そこに悪人を登場させずに成立させている。ひじょうによく練られた物語で、99分という長尺にも関わらず、最後まで飽きさせない。そのすばらしいストーリー展開に見入りました。観終わったあとに、なんともいえないすがすがしい感動を覚えるのは監督の優しさからくるもののような気がします。私は自信をもって『私の叙情的な時代』をTBS賞とします。どうもおめでとうございます。」

任 書剣監督
「僕はTBSさんにもすごく感謝しているんです。今からさかのぼること4年ぐらい前になるのですけれど、『北朝鮮の夏休み』というドキュメンタリー映画を作りまして。これが山形国際ドキュメンタリー映画祭で幸運にも上映されたんです。それがきっかけでTBSさんの報道特集という番組で、『北朝鮮の夏休み』の映像の一部が使用されて、ちゃんとギャランティをいただきました。そのギャラが『私の叙情的な時代』の制作費となった僕の貯金の中に入っています。だからほんとうに感謝しています。ちょっと恩返しできた気分です。ほんとうにありがとうございます。」

技術賞(IMAGICA賞)

私の叙情的な時代

株式会社IMAGICA 代表取締役社長 北出継哉氏
「いくつかテクニカルなお話をさせていただくと、手持ちでのドキュメンタリータッチの撮影やドリーショット(移動撮影)、長回しの撮影や切り返しのショットを画面の効果としてひじょうにうまく使っている。しかも、こういった技術をあくまでおしつけがましくなく、さりげなく用いることで映像に力を与えている。また、全体はビデオ形式ながら1部分ではフィルムを使うなど、おもしろい試みも忘れていない。あと、私個人が印象的だったのは音楽です。ピアノとバイオリンをテーマに用いて、それを映像の効果としても画面の映り方としてもうまく生かしていました。すばらしい作品だと思います。おめでとうございます。」

任 書剣監督
「ありがとうございます。この作品はスーパー16ミリカメラで撮影して、最初は35ミリの作品に仕上げようと思っていたんです。でも、どうしても予算が足りなくなって泣く泣くテレシネ作業をして、ビデオの形にしたんです。テレシネ作業はIMAGICAさんにの学生割引サービスを利用しました。本当に助かりました。また、音楽がすばらしいとのお言葉をいただきました。今日、この会場にこの映画の音楽を手がけた作曲家の巨勢典子さんが来てくださっています。彼女にも感謝したいです。本当にありがとうございます。」

観客賞

夢の島

ぴあ株式会社 取締役 PFF担当 林 和男氏
「驚くべき作品です。16ミリフィルムを使い、色はモノクロ、しかも画面サイズはシネスコを選択している。現在の応募作品はデジタルビデオがほとんどですから、これは異色中の異色です。また、蔦監督はこんなことをおっしゃっています。“古きよき時代の日本映画の技術と精神を受け継いでそこから新しい映画の可能性を広げていける監督になりたい”と。なんとも頼もしいではありませんか。この言葉を信じて、私は蔦監督の今後に大いに期待したいと思います。」

蔦 哲一郎監督
「この受賞で、次回作に向けて、ひとつのチャンスが生まれました。ひとりでも多くの人にまずは見てもらいたかったので、自分で200枚ぐらいチケットを売りました。その努力が報われた気分です。ありがとうございます。」

最終審査員 講評

映画監督・東京造形大学教授 諏訪敦彦

もっと映画の限界へ!
暗い作品が多かった。分断された孤独な魂、出口のない状況、死。「現実の暗さをそのまま描き、何の希望も与えないとすれば、表現とは一体何なのだろう?」という三浦しをんさんの投げかけた重要な問いが私の中で響いた。「映画を作るとは、自分のやり方で自分の人生を救う事」であるというゴダールの言葉を思い出した。映画はまず自分のために作られるべきであると思う。映画を作ることが、単に映画への欲望や、他人の現実を再現することではなく、あなた自身の生きることの必然によってなされる時、出口のないその暗さは、見知らぬ誰かに「あなたは独りではない」と寄り添う事ができるだろう。そこに希望はあるはずである。これらの作品を支配する暗さは、観客を獲得するために、押し付けがましい希望を与えようとする商業映画からは排除されるだろうが、逆に日本の若い世代が自分のために自分の手で映画を作る必要を感じている事の証であるとも思え、その事に私は希望を持った。『彼女のファンタジー』の主人公もまた、死の暗さに取り憑かれる。この男女の関係を抽象的に表現する演出力には可能性を感じた。『chain』では、殺人を生み出す構造と現実が優れた演出力で描写されている。『靄の中』は、技術的には出鱈目な映画であると感じたが、映画を作らなければならない必然に追いかけられながら、闇雲に編み出されたゴツゴツしたモンタージュによって、リアルタイムに映画が生成していると感じさせる迫力を持つ。それは自分のためにゼロから映画を発見する行為のように思えた。小品だが『ソレダケ』のように、ささやかな生を肯定するだけで映画は成立する、という確信も貴重であった。しかし、全体的には、みな「自分のやり方」ではなく「映画のやり方」に縛られている。私はまだ映画には未知の領域があると思う。「これは映画ではないかも知れない」と孤独になる事を恐れないで、映画の限界へもっと踏み出していこう。

プロデューサー 下田淳行

出発点としてのPFFアワード
グランプリ、準グランプリの選考はかなり難航した。受賞2作以外の作品も含め二転三転した。『一秒の温度』と『靄の中』は最後まで評価が分かれた。『一秒の温度』は映画として幼い。しかし井上監督の映すことへの誠実さと歓びが溢れていた。『靄の中』にしてもどこか幼い。しかしこの地点から創めていくのだという飯塚監督の意志があった。両作品以上に明解かつ成熟した作品が存在したがこの2作品が受賞したという結果はPFFアワードが到達点ではなく、出発点であることを示していると思う。
多くの作品が今いる自分の地点を意識しながらも自分以外の他者との繋がりをその視野にいれていることは少し驚きだった。しかし繋がることを意識し過ぎるが故に分かり易さを選び過ぎているのではないかと感じる作品も存在した。どこかで観たような既視感や想定内のエモーションに映画が留まってしまうのはいかにも惜しい気がした。平易に言えばより驚きが観たかった。
その意味で言えば個人的には『普通の恋』が非常に刺激的だった。『普通の恋』には他には存在しない特別なものがあった。強烈な個性と発見に対する確固たる意志があった。支持者と拒絶者を等しく生み出してしまう木村監督の豪腕に感動した。
『夢の島』は堂々としていた。蔦監督が持つ自身の技術に対する自信と信念の強さは決して驕りではないと感じた。彼は努力によってその力を身に着けているのだと感じさせた。『chain』は自分の周りの世界に対して精巧に把握していた。ラストに訪れる出来事の先に希望を感じるか、絶望で留まるかで評価が分かれた。『大拳銃』は大畑監督の映画に対するクソ真面目(失敬!)な向かい合い方に好感が持てた。
ここに書ききれなかったが全ての作品に可能性はあった。最終審査に選ばれた全ての監督、関係者を大いに讃えたいと思う。しかし1年後にはまた新たな才能が生まれ出てくることも忘れずにいてもらいたい。

作家 三浦しをん

絶望を超える力を見たかった
世相を反映してか、非常にシビアで残酷なテイストの作品が多かった。それが今の「リアル」なのだと思うが、せっかく創作するのだから、絶望を超える力を、もっと見せてもよかったのではないか、とも感じる。『一秒の温度』は、とにかく撮らずにいられない、という熱気に満ちていた。作中でひとの死が描かれるが、登場人物がそれをどう受け止め、咀嚼するのか、物語のなかで誠実に描き、きちんと言及してみせたのが、大きな特徴だと思う。繊細さとマヌケ感がうまくブレンドされていて、現在の閉塞的な社会状況を個々人がどう生きのびればいいのか、示唆に満ちた作品だった。『靄の中』は、ドキュメンタリー的要素と物語とが不思議な融合(および反発)を見せていて、非常に刺激的な作品だった。全編に静謐な哀しみと緊張感が漂っており、見終わったあとも、主人公の思いや言動が何度も心に浮かんでくる。『chain』も、登場人物の「それから」を折に触れ想像せずにはいられない作品だ。『靄の中』と同様、選考会では演出・撮影・編集など、映画の技法面においても高評価で、「即戦力になりうる」との賛辞が相次いだ。『普通の恋』は、生々しい部分をファンタジックに、ファンタジックな部分を生々しく、という絶妙のバランス感覚があった。童貞がブリーフ着用で、「好きだ」と思った。『大拳銃』は、物語のスリルと人間関係の細かな描写の的確さに、最初から最後まで画面に目が釘付けだ。タイトルもまんまで潔い!『私の叙情的な時代』は、ドキュメンタリーでは表現しえない部分を、ユーモアあふれる物語として、うまくすくいあげている。ぜひ多くのかたに見ていただきたい作品だ。『夢の島』は、技術面での充実もさることながら、先行の映画作品への愛と敬意にあふれた作品だった。社会的な視点と登場人物へのあたたかな眼差しとの両立が光った。十六編の最終候補作は、総じて高レベルで、「選考」するのが楽しくもつらかった。惜しくも賞を逃した諸氏も、今後も着実に表現しつづけていかれることと思う。

映画監督・CMディレクター 吉田大八

演じる人と演じさせる人
これだけまとまった量の自主映画を観たのは約20年ぶりです。その頃に比べていちばん変わったのは「俳優の質」、もちろん扱う側の技術も含めてですが、巧みになっていて驚きました。いい意味で観客を選ばない、健全な意識が育っているんですね。ただ、その「達者さ」が映画そのものを絡めとってしまう危うさを、もうちょっと自覚したほうがいいのではと思わされたことも何回かありました。
友達でも先輩後輩でもない間柄の共同作業なら尚更、演じる人と演じさせる人、お互いの意図の境目を消す(あるいは際立たせる)作業を真摯にやり抜くしかないと、自戒をこめて思います。そこを超える鍵もまた技術です、きっと。
「顔」と「声」が魅力的な映画がいくつかありました。(僕はもしかすると、ストーリーも音楽も背景もすべて人間の「顔」と「声」のためにあるのだと思いたい派なのかもしれません)『VISTA』監督の声・画家の顔、『大拳銃』兄の顔、『靄の中』主人公の顔(特に目)、『恋愛革命』主人公の顔と声、『Souda Kyoto He Ikou』のメガネ君の笑顔…等々が印象に残っています。
なかでも『一秒の温度』主人公ノボルの場合、その顔と声は独特のしつこさと懐かしさに満ちていて、観終わった後には、恥ずかしながらやや友達気分でした。「自分」にこだわり抜いた結果、逆に観客へとストレートに向かう回路が開いています。今年の入選作では希少な監督主演を兼ねた作品ゆえに、前述した「境目」を消しやすいというアドバンテージはあったはずです。その(無意識的)選択も含めて、抜群でした。
(友達になったはずのノボルと受賞式で会えるのを楽しみにしていたのですが、実物の井上氏は当然、全くの別人でした。いや、いい意味で、ですよ。ということをもうここでバラしてしまったので、次回作は公約通り、自分以外を主役に起用した映画を期待します。さようならノボル、ちょっと残念だけど)

俳優 松田龍平

映画に決められたことはない
今回PFFで、コンペ部門16作品を観させていただき、どれもしっかり作られていて驚きました。すべての監督が、なにものにもとらわれず自分のやりたいことを素直に表現していて面白かったし、なんでもありだなと改めて思えた。映画の中の役者達の何気ない表情が、さまざまな風景が、こんなにも面白く、想像力を駆きたててくれる、そんな作品ばかりでした。
審査は、毎回こんな大変なのか、と思うほど時間がかかったし、色んな意見が出て難航しましたが、骨太な16作品について議論をするのは、面白かったです。最終的に印象に残った、やっぱり自分はこの作品が好きだ、というところで賞を選ばせていただきましたが、そのなかでも、監督ならではのファンタジーがひとつ色濃くある作品は好きでしたね。全体的に、暗い話が多かったから、『私の叙情的な時代』や、『一秒の温度』でうける印象がまた違ったかもしれないです。
今回、作品を観て強く思ったのは、映画に決められた事はない、と言うこと。こう作らなければならない事なんてない、自分のための映画を撮りたいなとすごく思わせてもらいました。
才能ある監督を見い出してくれる、チャンスのある良いフェスに参加できて良かった。次は観客として来たいですね。

最終審査員

映画監督・東京造形大学教授 諏訪敦彦

1960年、広島県生まれ。
東京造形大学在学中から自主映画を製作し、『はなされるGANG』(84年)でPFF1985に入選する。97年『2/デュオ』で長編デビュー。『M/OTHER』(99年)でカンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞。『H story』(01年)ではアラン・レネ監督作『二十四時間の情事』をリメイク。『不完全なふたり』(05年)でロカルノ国際映画祭審査員特別賞を受賞。第59回カンヌ国際映画祭のある視点部門オープニング上映作品となった『パリ、ジュテーム』(06年)で、パリ2区を舞台にした「ヴィクトワール広場」を製作。2002年には東京造形大学教授に着任し、2008年からは同大学の学長に就任している。台詞を用意せず、物語の進行を俳優に委ねる手法は世界から高く評価される。今年、2010年新春より日本公開予定の新作『ユキとニナ』で、10年ぶりにカンヌ映画祭“監督週間”に参加した。

プロデューサー 下田淳行

1960年、兵庫県生まれ。
大学卒業後、フリーの制作部スタッフとして映画現場に入る。90年よりツインズジャパンに参加。数々の映画をプロデュースする。これまでに手がけた主な作品には、94年にバーミンガム国際映画祭グランプリを受賞した『エンジェル・ダスト』(石井聰互監督)を始め、『セラフィムの夜』(96年・高橋伴明監督)、『CURE キュア』(97年・黒沢清監督)、『WiLD LIFE』(97年・青山真治監督)、2001年にカンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞した『回路』(01年・黒沢清監督)、『ドラゴンヘッド』(03年・飯田譲治監督)、『青い車』(04年・奥原浩志監督)、『どろろ』(07年・塩田明彦監督)、『252生存者あり』(08年・水田伸生監督)と、話題になった作品が並ぶ。本年度は、瀬々敬久監督の『感染列島』、廣木隆一監督の『余命1ヶ月の花嫁』等、近年注目されている監督たちとタッグを組み、続々と大ヒット作を生み出している。

作家 三浦しをん

1976年、東京都生まれ。
早稲田大学第一文学部演劇映像学科卒業後、編集 者志望であり出版各社への就職活動中、早川書房での入社試験の作文から、担当面接者であった編集者に執筆の才を見出され、作家に転進するよう勧められたという。2000年、就職活動の経験をもとに処女小説『格闘する者に○』(00年)を出版。2005年に『私が語りはじめた彼は』(04年)が山本周五郎賞候補作、『むかしのはなし』(05年)が直木賞候補作に上がる。翌年『まほろ駅前多田便利軒』(06年)で第135回直木賞を受賞。近作に『仏果を得ず』(07年)『光』(08年)『神去なあなあ日常』(09年)などがある。現在は小説、エッセイ等を執筆する傍ら、コバルト短編小説賞の審査員をはじめ、太宰治賞選考委員、手塚治虫文化賞選考委員なども務める。本年度秋には2006年に刊行された『風が強く吹いている』が映画化される予定。

映画監督・CMディレクター 吉田大八

1963年、東京都生まれ。
早稲田大学第一文学部卒業。87年にCM制作会社(株)TYOに入社。以来今日まで数百本のCMを演出、国内・海外の様々な広告賞を受賞。テレビCM以外にも、PV、TVドラマ、ショートムービーなど、幅広く映像作品を手掛けている。2007年には初の長編映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』を監督し、CMディレクターならではの映像感覚と共に演出力の高さも評価され、同年のカンヌ国際映画祭・批評家週間部門において「本年度出品作中最もレベルが高い」(LE MONDE紙)との好評を博した。今年10月には監督第二作として、実在の結婚詐欺師を描いたコメディ『クヒオ大佐』(主演・堺雅人)が公開を控えている。

俳優 松田龍平

1983年、東京都生まれ。
1999年、『御法度』(大島渚監督)で俳優デビュー。ブルーリボン賞、キネマ旬報ベストテンをはじめ、毎日映画コンクールスポニチグランプリ、日本アカデミー賞など数々の新人賞を総嘗にした。その後『青い春』(02年・豊田利晃監督)に主演し、圧倒的存在感ある演技が注目を浴びる。その後、『恋愛寫眞』(03年・堤幸彦監督)、『ナイン・ソウルズ』(03年・豊田利晃監督)、『昭和歌謡大全集』(03年・篠原哲雄監督)等多数の作品で主演を務めている。近年出演作には『NANA』(05年・大谷健太郎監督)、『長州ファイブ』(07年・五十嵐匠監督)、『悪夢探偵』『悪夢探偵2』(07年、08年・塚本晋也監督)、『アヒルと鴨のコインロッカー』(07年・中村義洋監督)、『伝染歌』(07年・原田眞人監督)等。また、本年度は『誰も守ってくれない』(君塚良一監督)、『ハゲタカ』(大友啓史監督)の他、6月20日に『劒岳 点の記』(木村大作監督)、7月4日に『蟹工船』(SABU監督)が相次いで公開され話題を呼んでいる。現在OA 中のNHK大河ドラマ『天地人』では伊達政宗役を演じる。

一次審査通過作品

作品名 監督名 作品名 監督名
愛は、ずぼん 古謝甲奈 I'm here 藤田恭平
穴の中 仲 邦広 穴を掘れ 地球を抜けて 四谷てつひろ
INTERSPACE 遠竹真寛 泡沫の家 湯本美谷子
宇宙でウオウオ 藤田貴之 うつせみ 佐藤 敬
カビとダンス 中村 亨 からまり、つながる 谷村香織
がらんどう 片岡裕貴 消え失せる骨 三間旭浩
求愛 金井純一 キレる 岡田真樹
グッドモーニング・ダンウェ 川崎敬也 くものじ 池田 暁
幻体と私モンド~現代都市問答~ 武子直樹 荒神山 姫嶋聖治
コロシヶ丘 本多広章 そういう病気 水谷江里
太陽の石 遠藤潔司 月にひかれて 松元直樹
つながっている私たち 井上智文 トゥインクルトゥインクル 小栗はるひ
True tune 初野一英 佐野伸寿
逃げるための2つの方法 鈴木拓哉 逃れがたし 近藤明範
八月の軽い豚 渡辺紘文 PARALLEL 松本浩志
ハロー・グッバイ 江藤有吾 光の道 石倉慎吾
ビニール製少年 松田知子 FOOL 北岡英樹
フレデリア 仲井 陽 放課後の友だち 松居大悟
ほんがら 長岡野亜 マインとノベル 柳 寿樹
マジ!? 高柳元気 未練坂のヤドカリ 小林総美
6つの短編 深町一夫 LOVE SUICIDES エドモンド 楊
ロックアウト 高橋康進 Worst Dream of the Year#01 -Hello,Good Night!- 平波 亘
笑え 太田真博    

セレクションメンバー

越後谷卓司(愛知芸術文化センター) 大竹久美子(映画宣伝)
賀来タクト(映画ライター) 片岡真由美(映画ライター)
神谷雅子(京都シネマ) 坂口良子(シネテリエ天神)
中山康人(教師) 長澤 豊(DVDレンタル店舗経営)
塙 浩孝(グラフィックデザイナー) 樋野香織(神戸アートビレッジセンター)
藤川知也(自主映画上映会BREATH主催) 和田裕也(フォトグラファー)
和田 隆(文化通信社)  
荒木啓子(ぴあフィルムフェスティバル) 江村克樹(ぴあフィルムフェスティバル)
近藤雅之(ぴあフィルムフェスティバル)  
ぴあ TBS IMAGICA 財団法人 本庄国際リサーチパーク研究推進機構 江原道 早稲田大学 芸術文化振興基金 経済産業省 NPO法人映像産業振興機構(VIPO) 社団法人日本映画製作者連盟 財団法人日本映像国際振興協会 協同組合日本映画監督協会 独立行政法人国際交流基金 デジタルde「みんなのムービー」Project ヒューマントラストグループ