最終審査員 講評
PFFアワード2002のグランプリ等各賞を決定した最終審査員が、
各々の視点で、自ら今年のPFFアワードを優しく厳しく講評します。
ご覧いただいた方々!あなたのご感想は、どうでした?
石井輝男 わたせせいぞう 西田尚美 田口トモロヲ SABU

石井輝男 プロフィール
石井輝男写真 まず、私は「映画」は努力して観るものではないと思っているのですね。ですから、解説書を読まなければ判らなかったり、最初から構えて観なければならない作品はちょっと違うと思うのです。ただ、何の知識もなく劇場に入って「おもしろい」と思える、テンポのいい作品こそ、良い映画だと考えています。
 最近は、アングラ的なものを狙っているのか、仲間内だけでまとまってしまい、その世界から抜け出せない作品が多いように感じます。やはり、映画をつくるのなら、多くの観客に観てもらい、楽しんでもらえる作品を目指して欲しいと思いますね。例えば魚河岸のアンちゃんでも、「水戸黄門」好きのおばちゃんでも判る、娯楽性の高いエンターテインメント作品。そして、オシャレでソフィスティケイティッドされた明るい映画がもっと出てくると良いと思うのです。
 そういった意味で、今回受賞こそ逃しましたが鷲見香津代、ブルーノ・フェレラバルボザ監督の「Amour Baguette」、2賞を受賞した亀渕裕監督「南極へは、きみとふたりで」、そして廣川淳志、真下義和監督の「WEAR DESTRUCTIVE FIST!!」なども、とても印象に残りました。
 ビデオ機材なども揃った現在は、私にとってはまるで夢のようです。撮影所の無い時代ですから、PFFアワードに入選した監督たちには、今回をキッカケとして、自己満足に終わることなくどんどん出てきて欲しいと願っています。入場料を払っても、お客さんが喜ぶ映画をつくって行って欲しいですね。(談)
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わたせせいぞう プロフィール
わたせせいぞう写真 コミックの審査を長くやっておりますので、映像の審査も、私の規定は〈ストーリー〉でした。しかし、入選20作品を見てますと〈ストーリー〉の定規だけでは判断出来ないものが、映像の世界にある!これが素直な実感でもありました。
 内田健二監督「WEEKEND BLUES」娯楽作品としては大変面白く、キャラクターも最高で、長い時間は気になりませんでした。ただ現状ですとTVのフレームに納まってしまいそうなので、もうひとつスケールの大きな娯楽映画を目指して下さい。
 山下征志監督「漂白剤」フラッシュバックがやたら多く、難解にしていたのは減点。ラストのイエローの映像とレッドの映像、ノーマルな映像の3色がエンディングの暗闇に溶かし込まれていくシークエンスは、私好み、「うまい」。
 佐々木紳監督「みち」は独特のテンポと映像が良かった。しかし何処か、既視感が拭えず「温故」はありますが「知新」を感じさせて欲しい--切なる私の願いです。がんばれ佐々木君。
 植松淳監督「ファロウーずっと一緒にー」プロローグで、男と寝ている女性の幸せな顔が淡いライトに照らし出されているカットが、この実力のある作品の象徴でした。力ある作品でしたが、「This is・・・」と推す何かがショートしてました。「This is」を求めてがんばって下さい。
 菱沼康介監督「つづく」不思議なテーストのする作品。フィクションとノンフィクションの狭間をいくような、出演者の演技もナチュラルで初々しく、これを監督が敢えて意図し得たものであるならば、それは新しい感覚の「何か」が生成します。しかし「何か」が私の過大評価で、何にもない「何か」にならないように祈りつつ、頼んまっせ、菱沼君。
 最後に、コミックとは違った、映像の有望なビギナーたちのエネルギーに出会うことが出来、感謝してます。
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西田尚美 プロフィール
西田尚美写真 自主制作の映画は今までにも見たことがありました。特に矢口史靖監督の「ひみつの花園」に出演して以来、興味を持ち始めました。審査するにあたりどれも力作揃いで1作品ごとに見入ってしまい、「こんなことまでできるの!?」という作品水準の高さに強い驚きと感動を実感したのが一番印象に残っています。
 20作品もありながらどれも個性が際立ち、「同じ」ような作品などはなく、それぞれに魅力がありました。その中でも北澤康幸監督の「カジラレ島のふたつの灯台」は今までに見たことがない映画。日本のアニメーションとはどこかトーン、色調が異なり、ヨーロッパ的な質感を醸し出しているにも関わらず、登場人物の顔の表情になんとも日本人ぽさが出ていたのにビックリ。同じアニメーションでも村田朋泰監督の「睡蓮の人」は全編クレイアニメだけで通した緻密さに圧倒され、最もインパクトがありました。この2本は言葉(セリフ)がないのに最後まで絵だけで見せる、アニメーションの力を存分に発揮していて、またそれがとても映画的だと感じました。
 監督の可能性、将来性を考えると「つづく」の菱沼監督の次回作を見てみたい。どうやってこの作品を作り上げたのか、たいへん関心があります。この「つづく」や植松淳監督の「ファロウーずっと一緒にー」は、自分にオファーが来たら「はたしてやれるんだろうか」と不安になるし「ぜひやってみたい」とも感じさせる演出力があります。今回の入選作品の中で、自分が役者として出演したいかどうかという視点から、気になる作品でした。(談)
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田口トモロヲ プロフィール
田口トモロヲ写真 とにかくカット割りとか、アングルとか、技術的な部分でみなさん非常にレベルが高くてびっくりしました。それだけではなく、パーソナルな体験をエンターテインメントとして展開できる人も増えている。最近の人たちは進化しているなぁ、と思いました。
 そんな中、「よっちゃんロシア残りもの」は、逆に「これは一回しか作れないだろう」という部分でひかれました。初期衝動の爆発というのは、二度と作れない。そういう意味では自主映画の王道かもしれない。次の作品が楽しみです。あとは、「鉄男」的な作品が脈々と継続されているのも嬉しかったです。自分がプロになるきっかけだったので、ああいう世界が好きという人が確実にいるんだな、というのを再確認できたのは収穫でした。
 これから映画を撮ろうという人には、遊び心を忘れずにどんなものでもいいからどんどん作って欲しい。みなさん技術的には向上していますが、逆に「これを作らなければ死んでしまう!」というくらい情熱がある作品を見てみたい気はします。もっと破綻していてもいいんじゃないかなぁ。
 とはいえ本当に、入選作として残っていた作品はどれも見応えのあるものばかりでしたね。僕は、続けることも才能のひとつだと思いますので、賞をとれた人も残念ながらとれなかった人も、ぜひ続けてほしい。そして、たとえば将来同じ世界で出会えたらすごく幸せなことだと思います。「あのとき応募して、落とされたんですよ」「いや、俺は推してたんだけどね。」なんてね(笑)。(談)
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SABU プロフィール

SABU写真 全体的にプロっぽくて、技術的にも優れている作品が多かった。こうやったらうけるというのもよくわかっていると思います。みんな、うまい。
そんな中で今回評価したいと思ったのは、こちらの意表をつくような何かを感じさせてくれる作品です。
 たとえば、グランプリを受賞した菱沼康介監督の「つづく」の役者たちの演技のおもしろさ。"素人の役者"というのを生かしている。あんな芝居は今の自分にとってもうあこがれの域に達しています。せりふは脚本があったのか、なかったのか? あったらすごいし、なかったとしてもすごい!
 村田朋泰監督の「睡蓮の人」。明かりが凝っていて驚き!の作品なんですけど、何と言っても、おっちゃん主役のあの雰囲気がいい。設定にやられました。
あんまり綺麗じゃない(設定上では、という意味です)女の子をあんな風に踊らせたのが秀逸!植松淳監督の「ファロウーずっと一緒にー」。出演者の魅力は圧倒的だったと思います。
 玉野真一監督の「よっちゃんロシア・残りもの」。やりたいことをやりきった爆発感。他の作品も観てみたいし、特に「
次、どんな作品つくるんやろ」そんな期待感を一番感じました。
 それから、北澤康幸監督の「カジラレ島のふたつの灯台」。効果音や背景の描き方とか今までに見たことのない雰囲気を出しているのもいいし、ストーリーもOK。もう、大好きな作品です。ラストの温泉がいいんだ。ぐっときました。
 最後に、これから映画を撮ろうとしている人たちに。映画をつくる上で何よりも大切なのは、脚本です。自分自身、いつも100点満点の台本だと思って撮影に入っている。脚本に100%の自信がない時はまだ作らない方がいいと思います。(談)

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